四十五話 オーガのガントレット
翌日は出来た剣を研いでいく。研ぎ石も様々な物を所持しているが、使用していたのは冒険者初期の頃である。お金に余裕が出てくると、剣は消耗品となりつつあって、安い武器を購入していた。勿体無いと思うだろうが、その方が効率が良かったのである。というより、自ら剣を作るというのは、あまりにも時間がかかる上にコストや失敗のリスクも高い。そういう風になったのは自然といえよう。
ソカのために造った剣を研ぎ終わると、そこには、魔武器とは思えない見た目のバスタードソードが出来上がった。
(武器は完成……と。本番はここからだな)
この剣は、今のままではソカには適していない。鋼とミスリルの二重構造になっているため、重さも普通の倍はある。この剣を振るうためには、『力』が足りない。
それを補う装備作りを始める。そこで必要となる物を取り出した。
オーガの魔石と、ミノタウロスの鞣した革である。
昔、『魔の呼応』を使用した際に、俺はとある事に気づいた。それは、魔石によって鼓動が異なるという事である。見た目は同じ魔石が、魔物によって異なる鼓動音をしている違いは何なのかを考えた結果。それは、能力の違いではないかと結論付けた。
スライムの養殖をしていた時、試しにスライムの中に別の魔物の魔石を注入する実験をした事がある。その殆どは何の変化もなかったのだが、数体の個体は変化を見せた。
元々の魔石の魔物と同じ能力を、そのスライムが発揮したのである。おそらくその能力とはスキルなのではないかと推察する。
例えば、ブラックウルフの魔石をスライムに注入しても何の変化もなかったが、アルマジロスという『硬化』の能力を持つ魔物の魔石を注入したところ、そのスライムが『硬化』の能力を使用したのだ。
相性の問題もあるのだろうが、ここで魔石には、スキルを記憶する作用があることを知った。俺は好奇心から最強のスライムを作り出そうとしたのだが、それは失敗に終わる。二つ以上の魔石はスライムを死滅させてしまったからである。
だが、魔石にはスキルを記憶する作用があるというのは、大きな収穫であった。魔石の能力を発揮する媒体さえあれば、魔物のスキルを使用できるからだ。
そして、今手元にあるオーガの魔石。オーガとは怪力の魔物で、それ以外に特筆すべき所はない。だが、その腕に掴まれたらドラゴンでさえも逃げるのが困難だという。それ故に、遠距離から倒す魔物として知られていた。この魔石を使って、ソカでもバスタードソードを振れるようにするというわけである。
そのためにミノタウロスの革が必要なのだ。
ミノタウロスはその怒りによって皮膚が変化する魔物である。怒れば怒るほど攻撃力、防御力が上がった。その皮膚にはテンションを反映させる魔力が息づいており、これを媒体とするのである。
オーガの魔石とも相性は良いはず。怪力を発揮するのは、その力を使う皮膚が必要だからだ。ブラックウルフの魔石がスライムに効果がなかったのは、ブラックウルフにある牙と爪がなかったからなのだろう。
俺はミノタウロスの鞣した革を切り分けてガントレットを作る。腕にベルトで装着するタイプの物で、金具などは剣のついでに作っておいた。これで調節も可能となる。ソカはナイフをよく使用するため、手首の部分は油を塗って柔らかくし、他の部分は防御にもなるよう硬い革の部位を使用する。それらを糸で縫い付けていくのだが、この作業を他の職人たちがジッと見ているため恥ずかしくなってくる。それでも何とかやりおえて、左右のガントレットを作る。最後に、オーガの魔石をそれぞれに嵌め込んで完成した。
スキルの使用に魔力が必要ないことは、魔力を持たない人間がスキルを使えることで証明している。とすれば、このガントレットは装着した者が、オーガ並の力を持つという恐ろしい物になってしまった。
試しに装着してからそこら辺にある鉄屑を指で摘まむ。
ーーパシュッ。
いとも簡単に砕けてしまった。
(これは多少訓練が必要になるかもな。……手加減の訓練が)
それでも、このガントレットにはそれ以上の価値がある。ソカが使えば、おそらく彼女の戦いかたには幅が生まれるはずだ。女性は非力だという概念を覆す最高の代物である。
ソカには剣とガントレットを贈ろうと思う。ちなみに、職人たちには、俺の作業を絶賛してくれた。「もの作りに向いてる!」そう言って何度も俺の肩を叩いた。きっと、冒険者に絶望していたときにそう言われていたら、今の俺は職人になっていたのだろうな、と、そんなことを漠然と思ってしまった。