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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
135/206

四十二話 同期会の理由

『ギルドは本日も平和なり』Amazonにて予約開始だそうです。活動報告では、書籍版との違いについて軽く触れています。

「本部で思い出したんだけど。この前報告会があったよね? その議題書を読んだんだけどさ、タウーレン冒険者ギルドで施行されてる『依頼義務化』……あれはテプトが発案したものでしょ?」


唐突にトルストが言い出した。


「そっ、そうよ! そういえばそれを聞きたかったのよ!」


ニーナが途端に立ち上がる。


「テプトが来るまでその話をしてたんだ。綺麗な女性を二人も連れてくるからすっかり忘れてたよ」


トルストは言い、それにセリエさんは「やだ、綺麗だなんて」と両頬に両手を添えて照れている。ソカにも反応はあったようで、ふーんと嬉しそうに目を細めていた。


「テプトもこのくらい褒めてくれたら良いのにね」


その視線を俺に向ける。

……なっ、なんだよ。俺が褒めない奴みたいじゃないか。


「ソカは冒険者の中では一番可愛いよ。セリエさんも、どのギルドで働く受付嬢より美人です」


ヒュンーーパシッ。


「ばっ、馬鹿にしないで! そんなやっつけ誉め言葉で喜ぶわけないでしょ!」


ソカがうろたえながら声を上げた。セリエさんは頬に添えていた両手で完全に顔を隠している。ここにはソカとセリエさん以外の人間がいるため、俺だって甘い誉め言葉など恥ずかしくて言えるわけがない。だから、なるべく軽薄に言葉を選んだのだが失敗に終わったようだ。


不意に、両肩を掴まれた。


「フシューーーー」

「僕らの目の前でのろけようなんて良い度胸だね?」


見れば、オーエン(魔物化)と笑顔のトルストがそれぞれ俺の肩を掴んでいる。その握力は強く、ギリギリと嫉妬の念が伝わってきた。


「はい。三人とも止めて! ほら、アスミヤも落ち込まない!」


アスミヤは机に突っ伏して動かなくなっていた。


「あれ? なんでテプトが他の女性を褒めるとアスミヤが落ち込むの?」

「フシューーーー」


肩を掴む二つの手が一段と強くなる。


「アスミヤとテプトをくっつけようってのは、僕らの内輪ノリだよね?」

「フシューーーー」


俺もそうだと思っていたのだ。卒業の日、アスミヤが告白してくるまでは。あの様子だとニーナは知っているらしいが、オーエンとトルストはその事を知らないのだろう。だが、言えるわけなかった。


「テプトどういうこと? まさか君……アスミヤまでも」

「フシューーーー」

「違う!」

「どう違うのか説明してもらいたいね?」

「フシューーーー」


……というかオーエンお前はどうした? まるで、SF映画に出てくる大火傷の後にサイボーグ化した敵みたいじゃないか。嫉妬の炎はお前をそこまで追い詰めたのか? 

俺はため息を吐いてから二人に向き直る。


「一つ言わせてもらうが、お前たちは少し身勝手じゃないのか?」

「身勝手?」


トルストが怪訝そうな顔をする。


「あぁ、そうだ。俺とアスミヤがお似合いだと(はや)し立てたのはお前たちだよな?」


その問いに二人は答えない。


「それが俺とアスミヤにとってどう影響するかなんて全く考えず、ただ面白いから、それを言っていれば盛り上がるからなんて理由でそれをお前たちはずっと続けていた。その結果、本当にそうなってしまったら今度は怒るのか? それは少し違うだろ」

「うっ!」

「フシュッ!」

「持ち上げるだけ持ち上げて、自分の思い通りにならなかったら掌返し。そしたら、落とされた者はどうすれば良い? あれは冗談だったんだと納得すれば良いのか? そんなこと出来るわけない」


この悪ノリで一番迷惑を被ったのはアスミヤだ。周りから煽られ、その気になって告白したらフラれたのだから。……ほんと悪ノリとは怖い。ノリという言葉で、悪を相殺しているかのように思われるが、実は増長させているだけである。にも関わらず悪ノリという茶番はこの世から絶えることがない。それはおそらく、ハッピーエンドを前提とした『ネタ』だからなのだろう。悪はいずれ正義の前に潰える。それは、誰もが願うものであり、どんな形であるにしろ納得できる終止形なのだ。

だから俺もそれに倣い、彼らには正義の鉄槌を下さねばならない。だからーー。


「やりすぎだ。少し反省しろ」


そう言い、二人の首もとに手刀を降り下ろした。オーエンとトルストは、その場で気絶してしまう。


「……この二人には後で私から説教しとくから」


ニーナがため息を混じりに頭に手を添えた。


「いや、俺も悪かったんだ。もっと早く止めさせておけばよかった」


ノリがノリで終えるうちに。


「ごめんねテプトくん。でも、あの日の言葉は周りがどうとか関係なかったから」


アスミヤは、机に突っ伏したままそう告げた。それに俺は「あぁ」と言うことしか出来ない。


ソカとセリエさんはなんとなく状況を理解したらしい。微妙な顔で黙ってしまった。楽しかった日々の中にも過ちはあり、それに気づかない程に罪は重い。笑って済ませられるならそうしたいが、出来ないことも中にはある。それでも、楽しかったことの方が大きいから、人はそれを些細だと言えるのだろう。


「話を戻して良いかしら? テプト。あの『依頼義務化』はどういうこと?」


そういえば、その話だったな。俺はニーナにタウーレン冒険者ギルドに行ってからの事を話しだす。アスミヤもいつの間にか顔を上げて聞いてくれていた。

たまに二人が質問をしてきて、それに答えた。事情はソカとセリエさんも知っているので、その二人にも協力してもらいながら『依頼義務化』を施行するまでの流れを簡単に話した。



「なんだか、思っていたよりも酷いわね。私はてっきり、テプトがトントン拍子にここまでの事を成しえたのかと思っていたわ」

「そんな上手くいくわけないだろ。過大評価だ」

「だって、テプトだし……ねぇ?」


ニーナはアスミヤと顔を見合わせて頷いた。どういうことだよ。


「さすがの私でもギルドマスターには逆らえないわ。後が恐いもの」

「弱気になったな」


ギルド学校時代、ニーナは気に入らないと誰にでも噛みついていた。その対象には俺も含まれていて、とても面倒臭かった記憶がある。


「適応したと言って欲しいわね? なんでもかんでも否定してたらキリないもの」


それにアスミヤがクスリと笑った。


「ニーナはね? 最初、強気に仕事をしていたの。周りなんか関係なしに。でも一回失敗をしちゃって考えを改めたのよ。この前まで落ち込んでたんだから」

「アスミヤ……それは」

「ニーナがミ失敗? 珍しいな」


彼女は完璧主義のため、失敗などしない印象だった。ニーナは真っ赤になりながら取り乱す。


「その……完了した依頼の紙を外し忘れちゃって。……それを見た別の冒険者がそれを達成しに行ったの」

「……あるあるね。でもそんなのって、うちもたまにあるわよ? そんなに落ち込むことないんじゃない?」


セリエさんはそう言って、ニーナを励まそうとした。が。


「違うんです。実はニーナは、その冒険者に謝礼金を払ってしまったんです」

「……あちゃー」


アスミヤの言葉に、セリエさんは苦い顔をする。


謝礼金とは、何かギルド側に不備があった際に使われる制度である。例えば「販売をした装備に不備があり怪我をした」「不完全な依頼の達成により、後々依頼人が迷惑を被った」等は、ギルド側の判断ミスや不足だったとして謝礼金が支払われることがある。しかし、冒険者が受けた依頼が既に完了済みだったからといって、謝礼金が支払われることはなかった。なぜなら、その冒険者はこちらのミスで金を必要としていないからである。謝礼金の線引きは、ギルド側のミスで相手側がお金を必要としているかどうかが判断基準となり、今回の場合はそれに該当しない。


「その冒険者に、『時間の無駄になった。この時間があれば別の依頼を達成できたからその報酬分をよこせ』って、迫られて……」

「それで、払っちゃったのか」

「……はい」

「指導の人は? 新人なら付けるでしょう?」

「……ちょうど別の仕事をしていて」

「うーん。目を離したその人にも責任はあるわね」

「はい。一緒に経理部へ謝りに行ってくれました」

「……そっか。まぁ、冒険者が依頼を申請したときに、確認しなかった人も悪いわね。偶然が重なったのね」

「でも、元はといえば、私が完了済み依頼を外し忘れたからで、冒険者にも謝って納得してもらっていればあんなことには……」


ニーナの声はだんだんと小さくなっていった。


「私はニーナよりもたくさんミスしてるんですけどね」

「アスミヤの失敗は取り返しの利くものばかりじゃない! 私は支払わなくて良かったお金を支払ったのよ!? それは取り返しが効かない!」

「まぁまぁ、ミスは誰にでもあることよ? これから頑張ればいいじゃない」


セリエさんがニーナを落ち着かせる。ふと、ソカがその光景を微妙な表情で見つめている事に気づく。


「どうした?」

「いや、なんでも。……平和だなって、思っただけ」


その瞳には力がなく、何を考えているのか全く分からなかった。ソカは冒険者だから、ギルド職員の仕事は実感がわかないのかもしれない。



「それで、私が同期会をやろうって提案したの。皆と会えばニーナも少しは元気になれるかな? と思って」


そういうことだったのか。そんなこと思ってもみなかった。


「『依頼義務化』の話を聞いたときは、テプトは上手くやっているんだと思って正直悔しかったけど、そうでもなかったのね」

「あぁ。上手くいかない事だらけだ。皆同じなんだな」


その後もダラダラと会は続き、終わる頃になってようやくオーエンとトルストは目を覚ます。二人はラントに宿を取っているらしく、二次会も行こうと誘われたが断っておいた。魔力もかなり回復したため、タウーレンに戻るのだ。


「来てくれてありがとね」


アスミヤと共にそう言ったニーナは、少し寂しげだった。彼女たちにもいろいろとあるのだろう。


ラントの町を歩いていると、武器屋の前を通りかかる。そこで、ソカが少し見ても良いか? と聞いてきたため無言で頷いた。

彼女が見ていたのはショートソードである。ふと、とある事を思いついてソカに声をかけた。


「なぁ」

「んー?」

「剣なら俺が造ってやろうか?」

「……え? どういうこと?」

「俺は鍛治屋の息子だからそれなりに知識もスキルもある。ソカが良ければ無料で造ってやる」

「ほんとに?」

「今日のお詫びとして」

「やった。これで装備代が浮くわ」


嬉しそうにソカは言った。それを見ていると、横からジッと見つめてくるセリエさんの視線に気づく。

……これは。


「セリエさんにも何か造りましょうか」


言ってみると。


「良いの!?」


と、こちらも嬉しそうにしてくれた。それから、少しだけ苦笑いして「ちょっと、ズルかった?」等と聞いてくる。


「いえ、日頃からお世話になっているので」

「ありがとう」


結局、ソカにはショートソード。セリエさんには魔石を加工した携帯式の照明を造ることになった。それらを造るには職人たちの工房を借りるしかない。タウーレンで職人たちを統括しているバイルさんに頼んで貸してもらおうと思う。

転移してきた場所まで戻ってきたとき、セリエさんが肩を叩いた。


「そういえば、親御さんには会わなくて良かったの? この近くなんでしょ?」


そんな事を聞いてくる。


「俺は父親の反対を振り切って家を飛びだしましたから……まだ、今はちょっと」

「そう、なんだ。気持ちは分かるよ。私も似たようなものだし」


ラントは実家が近い。俺は家がある方を眺めた。……どうしているのだろうか。考えてみれば自分勝手に家を飛びだして、とんだ親不孝者だと思う。だが、まだ親とは会う気にはならなかった。


「帰りましょう」


そう言って、ソカとセリエさんと共にタウーレンへと転移した。






















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