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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
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三十八話 ソカの特技

もうすぐ日が暮れる。気温が下がってきたからなのか少し肌寒く感じた。周りを見ると町並みは閑散としていて人通りがない。

俺はニーナから送られてきた手紙の通り、ラントという町にきている。移動手段はもちろん空間魔法で転移してきた。馬を使えば最短でも十日はかかる道のりである。


「ここがテプトくんの古郷なのね。本当に一瞬で来られるなんて思わなかった!」

「ちょっと、どういうことなの? 説明してくれるかしら?」


そして俺の目の前には、少し興奮したように笑顔を見せるセリエさんと、不機嫌に眉を寄せるソカがいた。

……なぜこんなことになったのか。それは、半日ほど前まで時間を遡って説明しなければなるまい。


それは昼前のこと。休憩中だと言って管理部の部屋に遊びにきていたセリエさんと俺は少し談笑をしていた。もちろん管理部は遊びにくるところではない。セリエさんにはそう注意したのだが、俺と話をしたかったのだと言って聞かなかった。そんな会話の中で、俺が今日同期会があるのだと話すと、興味津々といった感じでいろいろと聞いてきた。場所が俺の古郷近くの町ラントであると話した所で、私も行きたいと言い出したのだ。セリエさんは同期ではないため参加できないと言うと、今度はラントを見てみたいと言い出す始末。


「同期会の邪魔はしないから私も連れてって?」


なぜそんなにもラントが見てみたいのか疑問ではあったものの、立ち入った事であると判断した俺は、深く理由を追求せずに承諾してしまう。

ラントにも冒険者ギルドがあり、それなりに栄えている方だとは思うがタウーレンほどではない。観光名所なるものも無いため、本当にただの町なのである。そこで冒険者をしていた俺が言うのだから間違いない。

そして仕事が終わった後に冒険者ギルドの裏でセリエさんと待ち合わせて空間魔法を使用する。俺の魔力量でいえば、ラントとタウーレンを一人で往復する分はあるが、二人分となると結構ギリギリだ。それでもやれないわけではない。

セリエさんに触れてから魔法を発動した時だった。


「こんなところでなにしてるのよ?」


不意に叩かれた肩。振り返ると、そこにはソカが立っていた。魔法がソカにも伝染し、魔力が一気に奪われる感覚を覚える。


「お前!ばっーー」


時すでに遅し。そして俺たちはラントの町まで転移をした。俺はその場で膝をついて魔力消費による倦怠感をなんとか我慢する。この距離を三人も転移させるにはかなりの魔力が必要だったからだ。


「なんでソカちゃんも居るの!? って、テプトくん大丈夫!?」


町並みに見惚れていたセリエさんが状況に気付き、駆け寄ってきた。それを眺めていたソカが気まずげな表情をする。


「あー……。なんか私、デートの邪魔しちゃった?」

「それは勘違いだ」


すぐにその妄想を否定してやる。


「ここはラント。俺たちは用事があって転移したんだが、その直前にお前が俺に触ったから巻き込まれたんだよ」

「ここラントなの!?」


ソカは周りを見回して驚く。


「テプトくんの故郷らしいのよ」

「あぁ……デートじゃなくて親御さんに挨拶だったのね?」

「言っとくが、俺とセリエさんは付き合ってないからな?」


変な勘違いを起こしてしまう前に再び否定してやる。


「そっか。じゃあ、何しにラントに来たわけ?」

「冒険者ギルド学校時代のの友人と集まりがあるんだよ。ちなみにセリエさんは観光」

「ふーん。でもラントって何もないでしょ?」

「そう言ったんだが聞かなくて」

「なによ。それじゃ、私がわがまま言ったみたいじゃない」


セリエさんは頬を膨らまして怒った。いや、それ可愛いだけでダメージないですから。


「というか、ソカはラントに来たことあるんだな?」

「……あぁ。冒険者になる前に何度かね。もう五年も前の話だけど」

「そうなのか。冒険者になる前は何しっででで!?」


突然耳を引っ張られた。横目で見るとセリエさんが怒った顔のまま俺の耳をつまんでいる。


「そういう事は聞いちゃダメでしょ? 触れちゃいけない事かもしれないんだから」

「……すいません」

「別に隠すようなことじゃないから良いわよ? 私、冒険者になる前は旅芸人をしていたの。といっても、大衆演劇をする一団の下っぱだったけどね?」


ソカが旅芸人……意外というか納得というか。

旅芸人は言葉の通り、芸を磨いて旅をする人たちの事を指す。それは個人で旅する人もいれば、そういった一団に入って芸を磨く人もいる。一団には様々な芸をする人たちがいるため、演劇をする一団も少なくなかった。


俺とセリエさんが少し呆然としていると、ソカはニヤリと笑ってから突然その場に膝をつき一礼をした。なんだ? そう思っていると、今度は立ち上がって沈み行く夕日を指差す。


「見よ! あの赤き夕日を! あれは終わりを告げる神の宣告。そして始まるは夜! 世界は黒き闇に閉ざされ長い眠りにつく。これは我々人々の行く末を暗示しているとしか言いようがない! 鮮血の戦争は終わりを向かえ、瘡蓋(かさぶた)のごとき黒い傷跡は痛々しくも人々の心に残された。しかし、不安がることはない! 誰しもがその身で経験をするように、瘡蓋はやがてなくなり、白い朝日のような肌が顔を出す。なれば人々もまた、新しく生まれ変わるのだろう。夜を恐れることなどない。これは始まりの準備に過ぎない」


ソカの声はよく通り、その動きは華麗だった。そして彼女は右手を持ち上げると、その掌に一瞬だけ魔法によって炎を出した。ボオッと燃え上がった炎に、目が釘付けになる。


「それに我らには、闇夜を照らす魔法がある。それは人にだけ許された神の力。この力は悪しき魔物を撃ち破り、このアスカレア建国の武器となった。それは夜空に浮かぶ星にも似ている。旅人は星を見上げて方角を知り、人々は魔法によって進むべき未来を知った。夜を恐れることなどない。これは人々が通るべき道に過ぎない」


それからソカは肩をすくめて困ったような表情をする。


「しかし、これだけ言っても怖いものは怖い。それは分かっていても止められない感情で、恋をするのにも似ている気がする。そんなときは笑えば良い。恐怖に勝てるのは笑顔しかない。そして笑顔を作る手伝いを私がしよう。さぁ! 今からご覧に入れるのは、恐怖に打ち勝つ笑顔の魔法。見れば必ず笑顔になれる。お代は見てのお帰りよ」


そしてソカは小さくウィンクをする。スキル『魅惑抵抗』が発動したのを感じた。


「……とまぁ、こんな感じね。これで芸を披露して小金を稼いでいたけれど、一団に入ってからは舞台袖の役回りが多かったわ。そっちの方が貰えるお金も多かったし、不満はなかったけれどね」


…………。


俺とセリエさんは尚も呆然とし続けた。ビックリしたのである。


「なんで冒険者なんかしてるんだよ」


思わず出た言葉。それにソカは笑って答える。


「冒険者の方が稼ぎが良いからに決まってるじゃない」


もう訳がわかりません。








ということで二章は折り返しになります。


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