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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
125/206

三十二話 不信

いつも『ギルドは本日も平和なり』をお読み頂きましてありがとうございます。

活動報告にも記載いたしましたが、この度この作品が【書籍化】することとなりました。

情報は以下になります。


発売日 2016年12月28日(水)予定

レーベル:ファミ通文庫

タイトル:『ギルドは本日も平和なり』

著:ナヤカ イラスト:上田夢人

予価:(590円+税)


これも読者の皆様のおかげです。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。




闘技場に向かうと、ローブ野郎は先日と同じく書類の山の中にいた。


「クックックッ……これはこれはテプトさん」

「この書類の山は一体何なんですか?」

「クックッ……修繕費ですよ。冒険者の魔法によって建物が破壊されているのです」


そういえば、前に来たときもその事で悩んでいたようだった。


「防壁は意味を成してないんですか?」

「いえいえ、防壁の修繕費なのです。それに、魔石によるシールドも消費が激しくてですね。先日、経理部に修繕費を申請する書状を送ったのですが……まだ返ってきてないのです。お忙しいのでしょうか? テプトさんは何か聞いてませんか? ……クックッ」


心当たりは一つあったが、俺はとぼける。


「いえ、残念ながら何も」

「そうですか。……それで今日は何用ですか?」

「実は、この魔法陣の解析をしてもらいたいんです」


そう言って、ヒルから受け取った紙切れをローブ野郎の前に置く。


「これは……また珍しい魔法陣ですね」

「わかりますか?」


その言葉に、ローブ野郎はニヤリと笑った。


「どうやらテプトさんは、私を過小評価しているようですね?」

「……ということは」

「当然わかります。これは、『魔力抑制』の魔法陣ですよ……クックックッ」


そう自信たっぷりに話すローブ野郎に、俺は首を傾げてしまった。予想していた内容ではなかったからだ。


「本当ですか?」

「えぇ。この古代語は『魔力』を司り、この陣形はそれを分散して弱める機能を形作っています。つまり、この魔法陣内にある魔力は、抑制されるということですよ……クックックッ」


その魔法陣を、指で示しながら説明をするローブ野郎。理解はできたが、腑に落ちなかった。


「どうしたのです? なにか引っ掛かることでもおありですか? ……クックッ」

「はい。実はこの魔法陣、最近王都で開発されたものらしいんです」

「クックッ……確かに陣形は珍しい。それに、古代語を用いた発動には、その意味を完全に理解していなければなりません。おそらく、『魔力』について新しい概念を発見し、それを証明できたのだと思いますよ?」

「ということは、あなたでもこの魔法陣を発動することは出来ない?」

「そうなります。ですが、このように公開されているのならば、近々発表される日も近いでしょう。王都の連中もやりますね……クックックッ」


(いや……これはヒルが極秘に入手したものなんだよな)


嬉しそうなローブ野郎を横目に、俺はそれを言い出せなかった。

「そしてこれが使われている用途なんですが、あらゆる病気や怪我を治す『魔術式』に使われているそうなんです」


「……あらゆる病気や怪我を治す? この『魔力抑制』がですか?」

「だから変に思ったんです。魔力を抑えることと、病気や怪我を治すことは繋がりませんから」


本当にどういうことだろうか? 可能性としては、ヒルが入手したこの魔法陣が間違っているか、ローブ野郎の見解が間違っているか、そして、そのどちらも正しいかの三つだ。

もしも、どちらも正しかった場合、不可解な理屈が成り立ってしまう。


ーーー魔力抑制は、回復に通ずる。


「これはもう少し調査する必要があります」


そう呟いた俺に、今度はローブ野郎が首を傾げた。


「待っていれば発表があるのではないのですか?」


仕方なく、俺はこれまでの経緯を教えた。この魔法陣は極秘に入手したものだということ。これが原因で診療所の所長が困っているということ。そして、開発者は『ラリエス』の研究員だったかもしれないということを。


「『ラリエス』ですか。……ということは、この魔法陣も怪しい実験の成果かもしれないということですね?」

「はい。そうなります」

「……なるほど。では、少し考えを変えなければいけませんね? 『ラリエス』の研究が異常に進んでいたのは、人を人とも思わない非道な研究があったからだと聞いています。それが彼らの壊滅原因ともなったわけですが……そう考えるともしかしたらこの魔法陣は、それを制御するものなのかもしれませんね……クックックッ」

「と、いうと?」

「魔力そのものには、回復を促す効果があることはご存知ですよね?」

「はい」

「もし仮に、患者に魔力を飛躍的に上げる、もしくは直接体に流入する実験の後にこの魔法陣を施したのだと考えるならば納得できます。この前来たユナちゃんのように、回復魔法の真髄は、体に魔力を流して治癒力を上げることにありますから」

「それは……大丈夫なことなんですか?」

「……クックックッ。大丈夫じゃないからこの魔法陣を使っているのですよ。つまり、その『魔術式』は不完全である可能性が高いわけです」

「それは、危険だということですか?」

「おそらく……クックックッ。ヒルさんは、他に何か言ってませんでしたか? なにか、魔力を上げるよう仕向けられた何かを」


思い出してみるが、ヒルは特に言っていなかった気がする。これは、もう一度聞くべきだろう。

「ヒルに聞いてみます」

「クックックッ……その方が良いでしょう。もしも危険なことなら、一刻も早く止めさせるべきですから」


俺は冒険者ギルドへと急いだ。しかし、その途中でヒルを帰してしまった事に気づいて後悔をする。


(……なにやってんだ)

俺は、ヒルの住む所を知らない。



それからソカやユナが先日俺がいる宿屋に来たことをふと思い出す。彼女たちは、町の人に聞いたらすぐに見つかったと言っていた。なら、ヒルの居場所も見つかる可能性は高い。


迷っている暇はなかった。すぐに道行く通行人に声をかけていく。

「ーーっすいません! 冒険者ギルドのテプトというものですが、ヒル・ウィレンという男の家を知っていますか?」

片っ端から町を行く人に聞いていく。



「なんだ? また追いかけっこか?」

「あー。あの兄ちゃんか。また逃げ出したのか」

「家まではしらねぇなぁ」

「確か、ここから西のほうに帰っていく姿をみましたよ?」



……数十分後。




「嘘だろ?」

まさか、本当に見つかるとは。


俺の目の前には古い貸家があり、どうやらヒルはそこに住んでいるらしい。恐るべし町の人たちの情報力。そして、俺たちにプライバシーは無いのか? いや、こうなるまで追いかけっこをし続け、依頼を受け続けた俺とヒルが悪いのだろう。


扉をノックすると中から気の抜けた返事が聞こえ、寝ぼけ眼のヒルが出てきた。


「えっ? テプトさん、どうしたんです? というか、なぜここが?」


戸惑うヒルに構わず俺は聞く。


「さっきの話だが、新しい『魔術式』を試したとき、他に何かされなかったか?」

「何か……ですか?」

「あぁ。何でもいいんだ」


すると、ヒルは少し考えて、ポツリと呟いた。


「そういえば、リラックス効果があるという紅茶を頂きましたね」

「それを飲んでから『魔術式』を受けたのか?」

「えぇ。まぁ……それが何か?」


それから、ローブ野郎が立てた仮説をヒルに話す。それを聞いたヒルは、少しだけ目を見開いていた。


「なるほど。……そういう事ですか」

「確証はないが、ヒルが飲んだその紅茶は、禁忌に触れるものかもしれない」

「わかりました。すぐに報告しましょう」

「報告って、どこに?」

「王都にいる王様にですよ」


それをさも当然の事のように言ったヒルに、俺は眉を寄せざるえなかった。


「王様? 国王様ということか?」

「えぇ。それくらい上の人じゃないと迅速に対応してもらえないでしょうから。それに『ラリエス』が関わっている可能性がある以上、王家も黙ってはいないはずです」

「……何をいっている? そもそも俺たちが会えるような人じゃないだろ」

「僕は会えます」



ヒルは笑ってそう言った。それが、どれだけぶっ飛んだ発言なのか彼は知っているのだろうか? しかし、彼は何の迷いもなくただ、笑っていた。


「……お前、何者なんだ?」


自然とその言葉が出る。


「普通のギルド職員ですよ? ただ、知り合いに権力者が多いいというだけです」

「まさか、知り合いっていうのはーーー」

「国王じゃないですけどね」


ヒルは苦笑いをする。


「今の話は聞かなかったことにしていただけますか? 僕もいろいろと大変なんです」

「わけは話せないんだな」

「はい。でも、僕はおそらくあなたを殺すことはできない。だから、何も聞かず、そして黙っていてほしいんです」


ヒルは、右手を腰の後ろに回している。筋肉の張りから何かを握っているのが分かった。

何か事情があるようだった。その言葉がどれだけ本当のことかは分からない。ただ、この瞬間の彼は、いつもサボり癖のあるヒルとは思えない雰囲気を纏っていた。


「……わかった」


そういうと、ヒルは笑顔のまま「ありがとうございます」と言い、同時に右手は腰から放れる。


「それじゃすぐに支度をします。出来たら、僕を王都に飛ばしてもらえますか?」


その言葉に頷いた。

ヒルはすぐに着替えた。薄汚れたマントを羽織り、フードを顔が隠れるくらいまで被る。


「その姿で城に行くのか?」

「えぇ、そうです」


それではまるでーーー『密偵』のようではないか。


しかし、なにも聞かないと約束した以上それを口にすることは出来なかった。


「それじゃあ、お願いします」

「いくぞ」


そして、ヒルを王都へと空間魔法で飛ばす。





いろんなことが突然に巻き起こって、頭が少し混乱している。酒を飲んだわけでもないのに、妙にふわついた感覚が残っていた。


そんなときは、自分に出来ることを考えるしかない。


診療所の件は再びヒルを待つしかない。商業ギルド長の方も各部長たちの調査待ちだ。


俺が出来ることは……なにも無かった。

既に手は尽くした。やるべき事の多くは、他の人に任せてある。俺は手持ちぶさたになってしまった。


いや、本来はこうあるべきなのだろう。誰かに何かを任せるということは、自分のやることが減っていくことなのだ。それは、少し不安でもあった。今まで俺は、自分一人でいろんなことをやってきたから、余計にそう思うのかもしれない。


(……信じて待つしかないな)

そう結論付け、俺は冒険者ギルドへと戻る。そして、仕事に没頭するよう努めたが、心がざわついてなかなか思うようにいかなかった。














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