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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
121/206

二十八話 導火線に火をつけよ。ようやく決まったギルド方針

「急に臨時会議なんて何かあったのですか?」

会議室、そう言ったのはアレーナさんだった。

「あっただろ。俺たちを集めた張本人が起こした事件がな?」

返したのは安全対策部の部長だった。見れば、俺をジッと見つめている。

「確かにあったようですね? 私どもには噂しか耳にしていませんが」

営業部部長のハゲは穏やかにそう付け足した。


何だかんだ言いながら、各部長たちは俺の呼び掛けに応じて集まってくれた。


(誰か一人足りない気もするが……あぁ、ミーネさんがいないからそう思うだけか)


「テプト。いい加減説明をしてくれんかのぉ」

バリザスが俺に小声でそう言ってきた。現在俺が立っているところは本来ミーネさんがいるべきポジションである。その言葉に内心、まだ分からないのかと呆れそうになるが、それを堪えて各部長たちを見回した。


「今回集まってもらったのは、俺が引き起こした事件とは別件です。……とはいえ、そこをスルーして会議を進めるのはおそらく納得がいかないでしょう。ですので、本題に移る前に、現在ギルド内で話題沸騰中の件について俺から説明とお詫びをさせてください」


「話題沸騰中とかお前が言うな」

安全対策部部長からツッコミが入ったところで、俺は自分が起こした事の経緯を手短に話して、各部長たちに謝る。


「ーーー俺は皆さんと同等の立場にいるということを失念して、自分勝手な行動に出てしまいました。それは、許されるべき行為ではなく、下手をすればこのギルドの立場を危うくし、皆さんに多大な迷惑をかけてしまうところでした。すいません」


頭を下げれば済む問題だとは思わない。だが、今ある誠意を表すにはそれしかなかった。


「まぁ、お前が何かをしでかすのはいつもの事だろう。それに内容はウチのエルドから聞いた。反省してなければぶん殴ってやろうかと思っていたが、これじゃあ肩透かしだな」

安全対策部部長は腕組みをしてため息を吐く。


「『冒険者管理部』の部長は、テプトさんしか務まりませんからねぇ。勤務禁止が妥当でしょう。それでも甘いのではないかと思ったりもしましたが、あなたがそこまで考えられているのなら意味のある処罰だったのでしょう。何はともあれ、復帰おめでとうございます」

ハゲは笑顔でそう言った。


「……まぁ、私から言うことは何もありません」

アレーナさんはその一言で終わらせる。言いたいことは昨日わざわざ伝えに来てくれたからだろう。


「これからは部長としての自覚を持って仕事に励みますので、今後もよろしくお願いします」

その言葉に、各部長たちは小さく頷いた。



「それじゃあ本題に移ります。現在この冒険者ギルドで行っている『依頼義務化』について、新たな方面から問題が起きました。その報告と今後の対策を皆さんに考えてもらうため、会議を開いた次第です」


「また問題か」

呆れたように安全対策部部長がそう洩らす。

「はい。実はこの二日、商業ギルドのギルド長自らがここに赴いて、とある提案をギルドマスターにしています」


「ギルド長が来ていたことは知っていますが、それが『依頼義務化』と関係があるのですね?」

ハゲが興味あり気に訊ねてくる。

「はい。どうやら『依頼義務化』によって冒険者たちが依頼を受け始めた分、町の職人たちの仕事が減っているそうなんです。それに伴い、冒険者には戦闘関連の依頼のみを受けさせ、あとは依頼自体を断ってくれと要求してきました」


「なんだと? そんなのは俺達の責任じゃないだろ?」

安全対策部部長が机を軽く叩き、怒りを露にする。


「言い分はわかりますけど、かなり横暴な要求ですね? 仕事が減っているのは冒険者のせいではなく、あちらが悪いからだと思うのですが」

アレーナさんの目つきも鋭くなった。


「ふむ。それで? 当然ギルドマスターは断ったのですよね?」

ハゲは笑みを浮かべてバリザスに問いかける。



「いや……わしは」


「もしかして受けちまったのか!?」

曖昧な返事をするバリザスに、安全対策部部長が立ち上がって声を荒げた。


「うっ、受けてはおらん! ただ、返答は待ってほしいと伝えておるだけじゃ!」

咄嗟にそう返すバリザス。各部長たちが安堵の息を吐いた。


「なんだよ。断っちまえば良いじゃねーか。会議なんてする必要あるのか?」

言ってから安全対策部部長は座った。


その言葉のあと、俺は大きく咳払いをして注目を集める。

「でも……変だと思いませんか?」


「変?」

安全対策部部長は疑問の声をあげる。


「はい。ギルドマスターは最初、ミーネさんが帰ってくるまでは回答は出来ないと商業ギルド長に伝えています。しかし、向こうは差し迫った問題であると言って、執拗に回答を迫っているみたいなんです。……まるで、この要求を早く飲ませたいかのように」


すると、アレーナさんは目を細めて眼鏡の位置を戻す。

「確かにその要求を飲んだとしても、今すぐ劇的な変化があるわけではないと思います。向こうが焦っているのには何か理由があるのかもしれません」


「もしかすると……商業ギルド長は、初めからミーネさんの不在を狙っていたのかもしれませんね? 焦っている理由は、ミーネさんが帰還する可能性が高くなるからでは?」

言ったのはハゲだった。その言葉に、部長たちは反応を示す。


「……ていうと何か? ミーネがいると要求は通らない。だが、ギルドマスターなら上手く騙して要求を通すことが出来る。だから、焦ってると言いてぇのか?」

安全対策部部長のこめかみに筋が浮かのが分かった。おぉ、怒ってる怒ってる。


「本部に報告をするのは、年に一度です。しかも時期は毎回同じ。それは調べなくても周知された事実ですから、商業ギルド長がミーネさんの不在を知っていてもおかしくはないですね」

アレーナさんは言った。


「なるほど。これは、かなり変ですねぇ」

ハゲは愉快そうに笑みを浮かべる。

「そういうことかよ。……奴等は俺らが馬鹿か何かだと勘違いしてるのか?」

安全対策部部長は、怒りを隠すことなく眉を寄せた。

「遺憾ですね。……ここは、ミーネさんだけで成り立っている組織ではないというのに。どうやら商業ギルド長は、大きな勘違いをしているようです」

アレーナさんは静かな怒りを立ち上らせる。



「つまりどういうことじゃ?」

呟いたのは、バリザスだった。

「ギルドマスターは、商業ギルド長からなめられているということです」

そんな彼に教えてやる。

「しかし、わしがギルドマスターの職務を全う出来ていないのは事実じゃ。なめられるのは仕方がない」

そのバリザスの言葉に、俺はため息を吐いた。

「良いですか? ギルドマスター……」


「わしは間違えた事を言うておるかの?」


俺の言葉を遮り、バリザスは強くそう返してきた。

その瞳は真っ直ぐに俺を見据えていた。その視線にハッとする。

確かにバリザスは商業ギルド長の意図に気づいていなかったのかもしれない。だが、それに気づいたからといって馬鹿にされたことを怒っているわけではないのだ。


「ミーネに仕事を押し付けてきたのはこのわしじゃ。今さら何を怒ることがある?」


それは、ギルドマスターとしてはこの上なく最低な発言だろう。普通ならばその事実を口にすることも、認めることさえもギルドマスターであるバリザスはしてはならない。

普通……ならば、だ。もはやこの冒険者ギルドは普通ではない。それをつくりあげてしまったのは、ここにいるバリザス本人だ。だからこそだろうか? その言葉は強く胸に響いた。


「わしはダメなギルドマスターじゃ。なめられても仕方のないこと。それは、わし自信が引き起こした結果だからに他ならぬ。なにか、間違えておるかの?」


その問いに、誰も反論しない。いや、真っ当すぎるが故に反論出来ないのだ。


(……変わったな)


ここに来た頃、バリザスは糞だった。そんな彼に怒りを覚えた。だが、今は自らの未熟さを認め必死に足掻いている。これまでの所行が変わるわけではないだろうが、その言葉からは、これから先の未来を少しでも良くしていこうという真摯な態度が見てとれた。

対して俺は、勝手に傲慢になって、勝手に失敗をしてしまっている。ここは、考えを改めなければならないだろう。


「……いえ、ギルドマスターは間違っていません。ですが、俺たちが気に入らないんです。この冒険者ギルドで働く者として、怒りがこみ上げてくるんです。ギルドマスターを馬鹿にするということは、その部下である俺たちも馬鹿にしているということですから」

バリザスはそれに対して少し考える素振りを見せる。

「なるほどのぉ。確かにそれは許せんな。皆、よく働いてくれておる。これまで、このギルドがやってこれたのは間違いなく皆の働きがあってこそじゃ。最近、ギルドの仕事を覚えるにつれてようやくその事が分かってきたわい。……そう考えれば、商業ギルド長のやり方には怒りを覚えるぞ」


「だから、言ったじゃないですか。これは向こうから売られた喧嘩なんだと。買わずにやり過ごせば、あちらは間違いなく俺たちを下に見ます。それは、今後間違いなく商業ギルドとの関係に影響してきますよ」


「……もう既に影響している気がするがのぉ」


「これ以上、つけ上がらせないよう叩ける内に叩くんです。でなければ、もっと関係は酷くなっていきますよ」


みんなの視線がバリザスに集まる。おそらく、彼の口から放たれる言葉を待っているのだろう。



ーーー開戦の一言を。それは、バリザスが言わずとも始まってしまう戦いかもしれない。現に、各部長たちは既に臨戦態勢に入っている。だが、ギルドマスターである彼がそれを言うことで、反撃の狼煙としたかった。そうすることで、皆の心が一つになる気がしたのだ。




「うむ。わかった」

バリザスは呟き。

「では、これより商業ギルドの要求に対する対策を考えよ」

そう告げた。


「確認しますが、もめ事は勘弁だったのでは?」

そう聞くと、バリザスは苦笑いをした。

「ここまできたら避けられんじゃろう。あとは、この戦いの後始末だけ考えることにしようぞ」



「よっしゃあ!! 奴等には目にものを見せてやる」

安全対策部部長がいきり立った。

「やるなら徹底的にやりましょう。今後一切、冒険者ギルドに逆らう気が起きないよう」

アレーナさんが冷徹な言葉を吐く。

「楽しくなってきましたねぇ」

ハゲは笑みを深くした。


ふと、また誰か足りないような気がした。

(あぁ、ミーネさんがいないからか)

しかしすぐに答えは見つかる。ミーネさんはそれだけ存在感が強かったという事だろう。


「テプトよ」

不意に、バリザスが話しかけてきた。「まだ、この冒険者ギルドの方針を決めておらんかったじゃろ?」

そういえばそうだったな。

「たった今思い付いたぞ」



「なんですか?」

バリザスはニヤリと笑う。

「『見えざる敵を認識し、共に戦う』……どうじゃ?」


「見えざる敵とは?」

「いろいろじゃよ。組織の弱点であったり、問題であったり。それは、一見すると目に見えず、一人では到底倒すことの叶わぬ敵じゃ。じゃが、皆と考えを一致させ、話し合って解決を模索すれば倒せぬ敵などおらぬ気がするのじゃ」

バリザスの視線は各部長たちに向けられた。その視線を追ってから納得する。


(確かにこの『パーティーメンバー』なら、最強かもしれないな)

そこには、冒険者でもないのに戦闘力を滲ませる面々がいた。


「あと、そんな感じの言い回しの方が元冒険者っぽくて良いじゃろ?」

その一言に、思わず笑ってしまった。

「確かにそうですね」


かくして、冒険者ギルドと商業ギルドの威信をかけた闘いが始まった。


まずは、そのために作戦を練らなければならない。その話し合いが今始まろうとしていた。



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