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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
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二十四話 ユナの回復魔法

翌日、ユナは朝早くにやってきた。まだ俺は朝食を食べており、支度も何も出来ていなかったため、慌てる結果となってしまった。

「まだ日が明けて何時間も経っていない。時間を指定しなかった俺が悪いが、いくらなんでも早すぎだろ」


「でも、使えなかった魔法が使えるかもって思ったら、我慢できなかったんです」

ユナはうつむきながらそう答えた。その目の下には少しの疲れが見てとれる。どうやら睡眠も不十分らしい。


「所長には言って来たんだよね?」


「……まだ寝ていたので」


あちゃー。あの人ユナが居ないと分かったら発狂するぞ?


俺はため息を吐く。まぁ、約束をしたのは俺なので言い訳できない。

ユナを連れて宿屋の裏手にまわる。まだ朝露に湿って空気はひんやりとしていた。

「とりあえず、ユナちゃんの使う回復魔法がどんな風に発動しているのか知らなきゃいけない。教えてくれる?」


一般的な回復魔法は使えるが、彼女の使う回復魔法が使えない俺にとって、その魔法は未知なるものだった。調べようにも資料や文献が少ないため、知識はほとんど皆無である。

ユナはこくりと頷くと、両の手のひらを俺へ見せてきた。

「この魔法は、手のひらを伝ってでしか発動出来ません。だから、魔力を吸いとったり、流したりするものに触れていなければいけないんです」

「足の裏でも出来ない?」

「出来ません」


魔力を持つ者の体には、血液のごとく魔力が絶えず循環をしている。おそらく、本当に血管を伝っているのだろう。その証拠に、魔力を集めやすいのは手のひらか足の裏の二つである。その箇所の血管は発達しているからだ。そのため、多くの魔力持ちは手のひら、もしくは足の裏で魔法を発動する。まぁ、その大半は手のひらから発動するのだが。


ユナの言ったことを考えると、回復魔法はやはり普通の魔法とは違う事が分かる。魔力を集めて発動するのであれば、足の裏でも可能だからだ。だとすると、手のひら限定のスキルが関わっている可能性が高い。


「ちなみに、スキルは発動してる?」


「あっ、はい。『魔力変換』というスキルが発動しています」


やはり俺の持っていないスキルだった。おそらく、吸いとる時と流すときに必要なスキルなのだろう。他人の魔力と自らの持つ魔力は微妙に違う。たとえるなら、血液型のようなものだ。他人の魔力で魔法は発動できないし、逆も然りだ。それを『魔力変換』で可能にしているのだろう。俺もスキルで魔力を吸収出来るが、それを魔法として発動することはできなかった。本当に、ただ吸いとっているだけなのだ。だが、その『魔力変換』が手のひらと直接関わりがあるわけでは無さそうだった。


「他には?」

「『魔力操作』も発動してます」

『魔力操作』は俺でも持っているスキルだ。これがあるお陰で、俺は一般的な回復魔法を使うことが出来る。だが、このスキルが直接関係しているならば俺でもユナの使う魔法が発動出来るはずだ。ということは、『魔力操作』は、ほとんど手のひらには関与していないということになる。


「他は?」


「この二つだけです」

「……この二つだけ?」

「はい」


(……まじかよ)

アテが外れてしまった。これでは回復魔法が手のひらでしか発動出来ない理屈が分からない。理屈が分からなければ、何が原因でユナが回復魔法を使えなくなっているのか不明である。

それとも、所長の言ったように母親を亡くした事が原因なのだろうか?


「所長から聞いたんだけど、回復魔法が使えなくなったのはお母さんを亡くしてからなのかな?」

それをストレートに聞くのは正直憚(はばか)られたが、聞かなければ前には進まない。ユナはそれに頷いた。

「私が病気で死にそうだったのを、お母さんが助けてくれました。でも、それ以来回復魔法が使えなくなってしまったんです」


これは、やはり精神的なものとみて良いのだろうか?

「それが原因だと思うかい?」

「……わかりません」

そう言ってユナは頭を振った。

「今まで心に病を持った人たちを見てきましたが、その人たちは過去に悲しい思いをしてきた人たちで、その事を思い出すことさえも強く拒否してしまうんです。でも、私はそうじゃありません。とても、心に病を抱えているとは思えなくて」


潜在的なものなのだろうか? だとしたら少し厄介だった。

「他に思い当たる事とかない?」


「……他に」

ユナはそう呟いてから、何か言いたげな顔で俺を見てきた。


「何かある? なんでも良いんだ」


「……実は、お父さんにも言ってないことが一つだけ」

「所長にも?」

「でもっ!! それは私が回復魔法を使えなくなったのは原因には思えなくて……それで言ってないだけで」

ユナは、取り乱したように声をあげた。


「教えてくれないか?」

そう言ってジッと彼女を見つめる。すると、ユナは小さく「はい」と返事をした。

「お母さんが生きていた頃、私にこっそり言ってた事があるんです。この魔法はあまり使ってはダメだ……と」


「使っちゃダメ? どうして?」


「わかりません。理由を聞いても、私が大人になったら教えてくれると言っていました」


どうして使ってはいけないのだろうか? 検討もつかなかった。

「だが、お母さんは使っていたんだろ?」

「はい。その……お父さんがいつもお母さんの魔法を褒めていて、お母さんも嬉しそうで……」


(なるほどな。だから所長には言ってないのか)

ユナは所長を思って、その事を言えずにいたのだろう。もしかしたら、ユナの母もそうだったのかもしれない。


それにしても、だ。

「分からないことが多すぎるな」

思わずそう呟いてしまう。

「はい。お父さんもいろいろとやってくれましたが、結局ダメでした」


うーん。これは少し厄介だぞ。それから、俺は回復魔法に詳しそうな人物をふと思い出す。

(ローブ野郎なら何か分かるか?)

こうしていても始まらない。出来ることはやっておいた方が良い。

「ユナちゃん。今から回復魔法に詳しそうな奴の所に行こう。奴なら何か分かるかもしれない」

「今からですか?」

「あぁ、今からだ」

「分かりました。…ちなみにテプトさん。訓練はなんだったんですか?」

「あぁ、訓練か。実は、ユナちゃんが回復魔法の感覚を思い出せるよう、無理矢理魔力を引き出すのを考えていた。ちょっと両手を出して」

ユナは俺に向けて両の手を広げた。その手に俺はしゃがんでから自らの両の手を合わせる。

「今から魔力を少し吸いとる。ユナちゃん側からすれば俺に魔力を流していることになる。その感覚を身体に刻めば、回復魔法が使えるようになるかもしれないと思ったんだ」

「なるほど。……わかりました。やってください」

「わかった」

それから、俺はスキル『吸収』を発動した。



すると次の瞬間、妙な事が起こった。自分が想像していた以上の魔力を彼女から吸いとってしまったのだ。急いで手を放したが、ユナは片方の膝を地面についてしまった。

「ごめん! 思った以上に吸いとった」

「……はぁ、はぁ。大丈夫です」

「俺から魔力を取ってくれ」

もう一度手を合わせる。今度はユナが、魔力を吸いとった。


(なんだ……今の感覚は?)

手を合わせて魔力を吸いとった時、まるで魔力に意思があるかのように多くこちらに流れ込んできた。通常このスキルを使うと、他人の体内に流れている魔力を無理矢理吸いとるため、少し吸いとりづらい。だが、ユナの手のひらは孔があるかのように魔力が噴き出したようだった。


もしかしたら、ユナの手のひらは普通の人の構造と少し違うのかもしれない。それが、回復魔法を手のひらでしか使えない理由になっているのではないだろうか?

うーん。ますます分からなくなってきたぞ。


ユナは、俺から十分に魔力を取り終えたようで手を放した。

「大丈夫?」

「はい。……お父さんから禁じられているのに、また使ってしまいました」

「仕方ないさ。使わないと本当に使えなくなってしまう。それに、俺がいるから大丈夫だよ。それよりどうだった?」

「はい。……なんというか、少し思い出した気がします」

それからユナが、俺の肩に手を置いた。目を瞑り、集中している。


……。


「……やっぱり、ダメです」

ユナは目を明けて呟く。失敗に終わったようだ。

「……そうか。まぁ、焦ることはないさ」

それから、俺とユナは宿屋を後にして闘技場に向かう。無論、ローブ野郎に会うためである。





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