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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
115/206

二十三話 情けない男

変更して再掲出しています。

宿屋に戻る頃には、日が沈みかけていた。


「戻りまし……」


ヒュンーーーパシッ。



(あれ? ここ冒険者ギルドじゃ……ないよな?)

辺りを見渡して確認する。うん、間違いないな。


「やっと戻ってきた。あなた何してたの?」

「いや、なんでソカがここにいるんだよ」

見れば、宿屋の一階にある机にソカが座っていた。そして驚いたことに、その隣には所長の娘がいる。

(どういう状況だ?)


「テプトって町のなかでも有名人なのね? 冒険者ギルドに行ったら居ないって言われて、家を聞いたらどこかの宿屋だって言うから、聞き込みしたらあっさり見つかるんだもの」

「あぁ、依頼を受けているうちに顔見知りが増えたんだ。最近はよく町のなかで追いかけっこをしてたから、それもあるのかもしれない」

「追いかけっこ? あなた仕事しないで何してるのよ」

俺はソカに近づいて、飛んできたナイフを渡してやる。「ありがと」そう言って彼女は受け取った。


「それよりも何の用だ? わざわざこんなところにまで来て」

それから隣に座る少女に視線を移した。なんとなく、察しはついている。

「本当にわからない?」

ソカが探るような視線を送ってくる。その時。

「あの!」

隣にいた少女が立ち上がって声を上げた。それを俺は手で制す。


「……ここではなんだから部屋にいこう。実は俺もソカと君に会おうと思っていたんだ」


「……わかりました」

少女はそう言って頷いた。


俺は先を歩いて二人を部屋に案内する。正直焦っていた。こんな予期せぬ所で、まさか二人に会うとは思ってもみなかったからだ。

(なんて言えばいいんだ?)

しかし、考えてみたところで答えなど分かりきっている。謝るしかないのだ。




「なによこの部屋。荷物もなにも無いじゃない。本当にここで生活してるの?」

部屋に入ると開口一番ソカが言った。

「俺に荷物は必要ないからな。あと、この部屋は仕事から帰って寝るだけの所になってる。ベッドさえあれば事足りてるしな」


「信じらんない」ソカは呆れたような表情で呟いた。


とりあえず、一脚しかない椅子にソカを座らせて、少女にはベッドに腰かけてもらうよう促す。俺はその向かいに立ってから頭を下げた。


「二人には迷惑をかけた。ごめん」


しばらく返答はなかった。やがてソカのため息が聞こえた。

「別に謝って欲しいわけじゃないのよね。私は納得のいく説明をしてほしいだけなの」

その言葉に頭を上げる。

「……分かった。説明をする」

それから俺は事の経緯を説明した。改めて話していると、なんと自分が愚かだったのかがよく分かる。しかし、今さら嘆いてみたところで時間が戻るわけではない。羞恥にも近い感情を抑えて正直に事の経緯を伝えた。

二人はそれを黙って聞いていた。



「一つだけ教えてあげようか?」

話が終わると、ソカがゆっくりと人差し指で上を指す。

「なんだ?」

「話を聞いていると、あなたが反省しているのは分かったわ。それに結果論に過ぎないけれど、私とユナはこうして無事だったわけだし、別にとやかく言うつもりはない。……私はね?」

『私はね?』というところでソカは、少女の方をチラリと見た。少女の名前はユナというらしい。

「だから今後、あなたが間違わないように助言してあげる」


「あるのか?」

ソカはニヤリと含み笑いをする。

「それはね? 何か問題が起きたとき、解決法方を一人で考えないことよ」

彼女はそう言って指を下ろした。

「一人で? ソカはそうしているのか?」

「えぇ、もちろん。とはいえ、冒険者仲間には相談したことないけど。人は弱いから、意識をしていなくても楽な方法を選んでしまうの。それはどんなに心がけていても無理よ。だから誰かに相談して、客観的な意見をもらうしかない」


なるほどなと思った。と同時に、とある疑問が浮かぶ。

「だが、差し迫った問題に直面したときはどうするんだ? その時も誰かに相談するまで保留にするのか?」



「その時のために答えを予め用意しておくのよ。例えば、私が今にも魔物に殺されそうな冒険者に会ったとするでしょう? そんなとき私は助けない事にしてる」

一瞬、冗談かと思ったが、彼女の目は本気だった。


「ソカが倒せそうな魔物でもか?」

「助けない」

即答だった。

「重要なのは迷わないことよ。迷えばそれだけ私も危うくなる。だから、助けないって決めているだけ。もしも助けると決めているならどんな状況だろうと助けようとするわ。まぁ、その場合、今の私は生きていたかどうか怪しいけどね?」

そう言ってソカは笑ってみせた。


「俺は冒険者をやっていたが、そんなことを考えたことはなかった」

「それはあなたが強かったからじゃない?」

「そんなんじゃないよ。何も考えてなかっただけだ」

ただ、魔物を倒して依頼をこなして、いつか誰にも成し得ない物を手にするのだと馬鹿みたいな夢を見ていた。


「でも、それを実行するにはそれ相応の覚悟も必要よ」

「覚悟?」

「えぇ。私は助けないと決めている代わりに、私がそんな状況に陥ったら助けはこないと思ってるわ」

「その時はどうするんだ?」

「さぁ? おそらく必死で逃げるんじゃないかしら? でも殺されたって文句は言えないわよね。私はそうやって何人もの冒険者を見殺しにしてきたんだから」

尚も、ソカは笑ってそう話した。それは彼女にとって当たり前の事なんだろう。だから笑ってそんな言葉を口にできるのだ。それは、誰にでもできるような事じゃない。


「……お前すごいな」

素直にそう感じた。

「なによ。今さら?」

「あぁ、今さらだな」


「とりあえず、今度から問題が起きたら誰かに相談することね? あなたは有能かもしれないけれど、人である以上無能なんだから」

無能。その言葉に引っ掛かりを覚える。

「ソカは、人を無能だと『決めている』のか?」

彼女は少し考える素振りをみせた。

「……というより、欠陥の方が正しいかしら? どんなに素晴らしい人でも、一人でいたら間違いを犯してしまうから。だから、あなたが一人で冒険者管理部を切り盛りしている時は正直驚いたわ。私の考えは全ての人に当てはまらないのかもしれない、そう思った。……でも、やっぱり違ったし、あなたも真っ当な人だったってことね」


最後の方、何故だかソカは嬉しそうにそう言った。人の失敗を喜ぶとは悪い奴だなと思ったが、言える立場ではないので言わないでおく。


「参考になった。ありがとう」

「どういたしまして。私からそれだけよ」


今度はユナという少女に向き直る。彼女は今だ張りつめた表情で俺を見ていた。

「ユナ……というんだね」

「あっ、はい。ユナ・ハンリエッタです」

「俺はテプト・セッテン。さっきまで診療所に行ってたんだ。君と所長に謝りたくて」

「じゃあ行き違いだったんですね。私はお礼を言いにきたんです。助けてくれてありがとうございました」

「いや、あれは俺が引き起こした事態だった。ごめん」

ユナは黙ったままだった。

「許してもらおうとは思ってない。ただ、謝りたかったんだ」

「私は……」

ユナは何かを言おうとして口をつぐんだが、待っているとやがて口を開いた。

「私は、ソカさんみたいに助言とかは出来ないですけど、テプトさんはもう少し女性の気持ちを考えた方が良いと思います!」

ユナは、顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。



(……へっ?)


それは、予期していなかった言葉だった。


「プッ……ッアハハハ!!」

不意に、ソカが吹き出して笑った。

「ユナ、あなたの言う通りね。それは間違いないわ」

ソカは愉快そうにそう言ってユナの頭を撫でた。それから彼女は、突然反対の手で俺の胸ぐらを掴んできた。

「うおっ!?」


「今ので思い出したわ。私、まだあなたに言ってないことがあった」

「なっ、なんだ?」

「なんであの時、私が怒っていたのか分かる?」

あの時? 所長ともめていたときだろうか?

「……わかりません」

「教えてあげる」

そう言ってソカは笑顔を近づけてきた。



「私が認めてあげた男なんだから、簡単に土下座なんかしてんじゃないわよ」

表情は柔らかいが、目には殺意が混じっていた。


「……はい」

その威圧に、思わずそう返事をしてしまう。

「分かったなら良いわ」

そう言って手を放してくれた。



「ユナのお陰で思い出せたわ。あースッキリした」

「ソカさんはもっと怒っていいと思います。まだ生易しいですよ」

「ユナももっと言ってやった方が良いんじゃない? 言わないとこの男何も分からないままよ?」

「いえ、私も今のでスッキリしましたから。それに、今度何かあったときはソカさんに相談します。私も人ですから」

「さっきのは例えよ。それに、そういうのは男によく出る傾向なの。男は基本的に一人で何でもしようとするアホだから」

「そうなんですか? しょうがないですね男の人は」


ソカとユナはそう言って笑いあう。いつの間にこんな仲良くなったんだ?


そのまま、二人は俺の部屋でしばらく男の事を議論していた。そこにいた俺にとっては、酷く耳の痛い話であった。


二人が帰るとき、ユナを送ってやろうと思ってそう提案をしたが、ソカがそれをやると言って断られた。それならと思い、ソカを送ると申し出たが、「今のあなたには嫌」と、笑って断られた。もはや苦笑いしかでない。

そして、ユナに対してふと思い出したことがあった。

しゃがんで彼女に声をかける。

「ユナちゃん。君の事を所長から聞いた。おせっかいかもしれないが、君が回復魔法を使えるように訓練しない?」


その瞬間、ユナの顔から笑顔が消えた。

「……え? 使えるようになるんですか?」


その瞳は揺れて微かな光を帯びる。正直やってみなければ分からなかったが、考えはあった。

「応用の魔力を吸いとる事ができるんだから、魔力を放出することもできるはずだ。もしもその気があるなら手伝うよ」


「でも、何度やってもできなかったんです。たぶん、もう……」

不意に泣きそうな表情をするユナ。その肩に手を置いて笑いかけてやる。

「大丈夫。できる。そう思うんだ」


「ユナ、やってみたら? テプトはどうしようもないけど、能力に関しては私が保証するわ」

ソカが口をはさんできた。どうしようもないは余計だろ。まぁ、事実だが。


「……わかりました。どうすれば良いんですか?」

ユナが半信半疑に聞いてくる。

「今日はもう遅いから明日おいで。明日まで俺は仕事できないから」

「……じゃあ、明日また来ます」


それから俺は二人と別れた。ユナとは明日会う約束をして。







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