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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
112/206

二十話 ティータイム。ソカと少女ユナ

ヤンコブが冒険者ギルドを出る時、開けた扉に何かがぶつかりそうになった。


「ひゃあ!?」


「うおっ……なんだ?」

それは、一人の少女だった。一瞬、通りすがりかと思ったが、どうやらそうではないらしく、ヤンコブが開けた扉からギルド内をチラチラと気にしている。


「ここに何か用事かい?」

ヤンコブはしゃがんで話しかける。

「いえ、その……」

少女は言いにくそうに下を向いた。

「もしも依頼ならまだ受付時間じゃないよ。……あぁ、そうだ。もしよかったら商業ギルドの方で話を聞こうか? それならーー」


「違います! えっと、ここの職員の人に用事があって」

少女はそう言った。ヤンコブは、その言葉で少女に対する興味が途端に失せたのを感じたが、顔には出さない。


「あの……ヤンコブ様。どうかされましたか?」

後ろからバイルが話しかけてくる。

「いや、なんでもない。行こうか」

そう返してヤンコブは立ち上がった。

「お嬢ちゃん。職員に用事なら受付のお姉さんにそう話すと良い」

ヤンコブはそれからバイルを連れて冒険者ギルドを去っていった。


残された少女は意を決して冒険者ギルドの扉に手をかける。開けようとした時、今度は後ろから声をかけられた。


「あら、昨日の子じゃない」

振り返って少女は固まる。そこには、少女が会わなくてはいけないと考え、会いたくないと思っていた人物がいたからだ。


「あっ……」

少女は相手を見つめた。

「なによ。私の顔になにかついてる?」

そこにいたのはソカである。彼女は不機嫌そうにそう言い放った。

「あと、私中に入りたいんだけど?」


少女はすぐさま脇に退いた。

「ありがと」

ソカは少女を気にする素振りを見せずに通ろうとした。


「あのっ!! 昨日はごめんなさい!!」


そんな彼女に、少女は声をあげる。中に入ろうとしたソカはその足を止めて、少女を見下ろした。

少女は今にも泣きそうな表情でソカを見上げている。どうしたら良いのか分からない。服の袖を、必死に両手で掴む少女は無言でそう主張していた。


ソカはそんな少女を見つめて、ため息を吐く。

「時間あるならちょっと話さない?」

入ろうとしたギルド内に背を向けて、彼女はそう提案する。少女は、ゆっくりと頷いた。



それから、ソカは少女を連れて近くの喫茶店へと入る。店内は、独特な香りに包まれていた。おそらく紅茶に使う薬草などの香りなのだろう。少女がしきりに香りを嗅いでいるのが異様でおかしくなる。


「なに? そんなに気になるの?」

「いえ、その……なんの薬草が使われているのかなって」      

「嗅いだだけじゃわからないんじゃない?」

「なんとなく分かります。私、薬学の勉強をしているので」

その答えに、ソカは意外な表情をした。

「そうなんだ。まだ小さいのに偉いのね」

「将来はお父さんの仕事を継ぎたいと思ってるんです」

「お父さんって、昨日冒険者ギルドに来てた人?」

「はい。診療所で所長をしてます」

ソカと少女は適当な席に向い合わせで座った。

「そういうことか。ごめんね? 昨日お父さんにナイフなんか向けちゃって。でも、傷つけるつもりはなかったの」

そう言ったソカに、少女は渋い表情をする。

「私の方こそすいませんでした。とっさに体が動いてしまって、あなたに魔法を使ってしまいました」


「魔法だったんだ。私はそのあと気を失ったらしくて、なにも覚えてないのよ。目が覚めたときに、だいたいの事はギルドの職員から説明を受けたけれど、よく分からないのよね」


「私も倒れてしまったんです。あの魔法は、私には扱いきれない魔法だったのに無理してしまって」


「私の魔力を吸いとったのよね?」


「はい。私は回復魔法が使えるので『魔力操作』のスキルがあるんです。でも、魔力を吸いとる事はできても、魔力を放出することができないので、魔力量の限界を超えて倒れてしまいました。笑っちゃいますよね……私、魔法で人を治すことができないんです」


少女は思い出すようにそう話す。それは、目が覚めたときに父親から言われた事だった。


少女の使う回復魔法とは、一般的に言われている回復魔法とは違う。

魔力を他人の体内に流して循環させ、対象の治癒力を高める。それが、彼女の使う回復魔法である。そして放出ができるのと同様に、回復魔法の使い手は他から魔力を吸収することもできた。


そのやり取りを、少女は吸収にしか使うことができないのである。


「それはなんで?」

そう聞いたソカに、少女は口をつぐむ。

そんなことは、通常ありえない。放出ができるからこそ吸収が使えるのだ。吸収しか使うことができないのは明らかにおかしかった。


少女は黙ったままだった。


「あのー。ご注文は?」

そんな空気に割ってはいるように店員が二人に話しかけてきた。


「あぁ。紅茶を一つと、この子には……」

「私も同じものをください」

迷っていると、少女からそう言った。


「わかりました」

そう言って店員は去っていく。


「まぁ、言いたくないなら言わなくても良いわ。誰しも秘密にしたい事の一つや二つはあるしね?」

ソカは言って少女に笑顔を向ける。

「特に女の子には」


「お姉ちゃんにもあるの?」

「えぇ、もちろん」

そう言って彼女は微笑みを浮かべた。

「誰にも言えない。たとえ……恋い焦がれた男にも、ね」

少女はそんなソカを見つめた。


「あと、ソカで良いわよ。私お姉ちゃんなんてがらじゃないし」

「わかりました。じゃあ……ソカさん、で」

「あなたはなんて言うの?」

「私はユナです。ユナ・ハンリエッタ」

「そっか、じゃユナで良いわね」

「それで、お願いします」

ユナは、照れ臭そうに笑う。その表情は、初めて年相応の笑みであった。


そうこうしているうちに注文の紅茶が二つ運ばれてきた。二人はそれを口にする。


「話を戻すけど、なんであの時ユナは冒険者ギルドにいたの? そもそも、あの時揉めてた理由はなに?」


「それはーー」

ユナは少しだけ困った表情をしたが、やがて口を開く。


事の始まりはテプトが、診療所に侵入してきたこと。所長に誤解をまねき、所長が冒険者ギルドに駆け込んだこと。ユナ自身にも分からないところが幾つかあったものの、自分が知っていることを順を追って話していく。それを聞いているソカの表情は驚き、怒り、呆れて、最後には頭を抱えていた。


「ーーそれであんなことになってしまったんです」

ユナは話終えると、ソカが大きなため息を吐いた。

「なるほどね。つまり、原因はあの男にあるわけね。ユナも私も何も悪くないじゃない。今からギルドに行ってあいつをとっちめてやんないと」


「でも! 私はあの人に助けられたらしいんです。魔力を吸い取りすぎて倒れた私を、あの人が処置してくれたってお父さんが言ってました。それで、その……すごく不本意なんですけど、お礼に行かなきゃと思って」


「それで、冒険者ギルドの前にいたのね」

「はい。それと、ソカさんにも謝りたかったので」

ソカは紅茶を口に運ぶ。

「じゃあ一緒に行きましょう。ちょうど私も、あいつに会って理由を問いただそうとしていたところだったのよ」

「そうだったんですね」

ユナは呟いた。

「はぁ。……全くあいつは」

ソカは、無意識に拳をつくった。そんな彼女に、ユナはとある疑問を抱く。

「そういえば、なぜあの時ソカさんはお父さんを止めに入ったんですか?」

その問いかけに、ソカは一瞬キョトンとした。

「なぜって、あいつを殴ろうとしていたからよ」

「理由も分からなかったのにですか?」

「えぇ。そうよ」

キッパリと告げるソカに、ユナは少しだけ面食う。

「もしかして、あの人の事が好きなんですか?」

小声でそぉっと聞いてきたユナに、ソカはニヤリと笑った。

「なに? 気になるの?」

「……はい」

ユナは控えめな態度でそう答えたが、瞳には隠しきれていない好奇心の色が浮かんでいる。

「まぁーーー」

そう切り出したソカに、ユナは顔を近づけた。



「数ある男の中では、有望株ではあるわね」

サラリとそう答えたソカ。その表情は妖艶で、まだ恋のいろはも知らない少女を一瞬ドキリとさせた。



(ソカさん、大人だ!!)

ユナの中でソカの位置付けが、親切な人から尊敬する大人の女性へと切り替わった瞬間であった。














忙しくて更新に苦戦しています。

申し訳ありません。

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