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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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十一話 赤髪の女性ソカ

冒険者ギルドは法律違反の内容じゃない限り、基本的にどんな依頼でも受け持つ。それは冒険者の能力幅が、とても広いことに理由がある。言ってみれば何でも屋だ。


そして、何でも屋をやるにはそれなりの権力がなければならない。例えば、町中で剣を抜くことは法律で禁じられているが、冒険者は例外となっている。これだけ見ても冒険者がどれだけ優遇されているのかが分かる。そして、それは冒険者ギルドがそれだけの権力を持っていることに置き換えられる。これだけの権力を手に入れるためには、それ相応の対価を支払わなければならない。その一つに、ダンジョン攻略というものがあるのだ。まぁ、これだけじゃないんだけどな。


10時から始まった受付に並ぶ冒険者達は、皆ダンジョンに潜って来た奴等ばかりだった。


「はい。では、オークの魔石3個とゴブリンの魔石6個ですね。確かにお預かりします。報酬はこの紙を持って、奥の受付で貰ってください。どうぞ、次の方ーー」


セリエさんが手早く冒険者達をさばいている。冒険者が並び始めてからずっとこの調子だ。ダンジョンから帰ってきた冒険者は、一度受付に並んで報告をする。そして、報酬を受けとるためにもう一度別の受付に並び直すのだ。


ちなみに、依頼達成の場合。


「はい。ブラックウルフ討伐依頼ですね?確かに討伐証明の牙10個確認しました。これが報酬になります。次も頑張ってください」


その場で報酬が支払われる。だから並ぶのは一回で済むわけだ。

ただ、依頼だと受ける前にも受付で一度手続きをしなければならないので、総体的に見れば、どちらも二回並んでいることになる。


しかし、依頼の方が圧倒的に処理速度は速い。なぜなら、それに対する用意が、受付側で既に出来ているからだ。だから、ダンジョンから帰ってきた冒険者の報酬には、少し手間取る。準備が出来ていないからである。


なるほどな。……だったら、ダンジョンで得た素材の報酬も、こちらが準備できるようにすれば良いのではないだろうか?


つまり、現在は冒険者が持ってきた素材に応じて、報酬を計算しているが、最初から持ってくる素材を規定して、その規定に応じた素材を冒険者に持ってこさせれば良いのだ。


『ゴブリンの魔石、10個で報酬。銀貨2枚。』


こんな風にすれば処理速度が増すのでは無いだろうか? ともあれ、そんなことを規定してしまえば、その数を持ってくるために、命を省みない冒険者が出てくることになる。もしそうなればギルド側の責任にもなりかねない。うーん。……難しいな。


考察ばかりもしていられなかった。気を抜くと、いつのまにか順番待ちで喧嘩が起きているからだ。


「おい? 俺が先だっただろ!」

「いや、俺が先だ」

「なんだと! もういっぺん言ってみやがれ!」

「あぁ、何度でも言ってやるよ! 俺が! 先だ!」


コイツら子供かよ。


「あーちょっと良いかな? どっちが先か分からないけど喧嘩は止めてくれるかな?」


「あぁん? お前には関係ないだろ! すっこんでろ!」


関係あるから出てきたんだろ……こいつら本当に脳筋なんだな。


「ギルド職員がでしゃばるな! 殺すぞ!」


そう言って拳を振り上げてくる。うーん。これは手を出しても良いよな? 脅迫が混じってたし。正当防衛ってことで。


俺は拳を振り上げた冒険者の腹を、素早く殴打する。


「がっ……」

「大丈夫ですか?気分が悪いならそこの椅子で休んでください」


そう言って近くの椅子に休ませてやる。そんなに強くしていないからすぐに目が覚めるだろう。

そんなことを何度も繰り返した。


これはシステムよりも、冒険者のモラルを見直す方がやはり先かもな。そんなことを思った。



ヒュンーーーーパシッ。


突然ナイフが顔に飛んできたので反射的に掴んでしまう。

なんか前にもこんなことあったな?


「なにその反射速度。あなた本当にギルド職員?」


その声に振り向くと、そこには最初俺にナイフを投げてきた。赤髪の女性が立っていた。


「これはまた君が?」

「そうよ」


そらから、彼女は笑った。これ犯罪ですよ?


「俺が反応してなかったらどうするつもりだったんだ?」

「大丈夫よ。私回復魔法が使えるもの」


あの角度と速度で刺さったら、即死もあり得るんですが……。


「たぶん魔物との戦いで頭がおかしくなってるんだろうな。……可哀想に」

「ちょっと! 聞こえてるわよ? それよりも……一日じゃ逃げ出さなかったようね?」


逃げ出す? ……あぁ、噂の事か。なるほど、彼女も冒険者管理部が抱える問題を知っているらしい。


「まぁ、仕方ないさ。でもいつか仕返しをしてやるよ」


あのギルマスのおっさんにな。


「……へぇ。それは楽しみね? 皆にも伝えておくわ。今回の新人さんはなかなかに骨があるって」


彼女はくすりと笑った。


「ありがとう。応援してもらえると助かる」


冒険者の皆で立ち向かえば、あのおっさんもなんとかなるはずだ。


「それって、私があなたの味方をしろってこと?」


あぁ、でも冒険者がギルマスに反抗するのは、なかなか勇気がいるよな? 無理はさせられない。


「いや、しばらくは一人で戦ってみるさ」

「頑張ってね。せいぜい……死なないように」


あのおっさん、あれでも元Sランク冒険者だもんな。


「忠告ありがとう。君も頑張ってね。ギルドはいつでも冒険者を応援してるから」


すると、彼女は少し手間取る考えるそぶりを見せた。


「あなたって変な人ね」

「いきなりナイフを投げてくる人に言われたくないな?」

「プッ……本当に変な人。普通は怒るところなんだけど? まぁ、それも含めて仕返ししてくれるってことなんでしょ?それまでーー」


不意に彼女が間を詰めてきた。そして耳元で囁く。


「たっぷりと可愛がってあげるね? 冒険者担当さん」


それから、スッと離れた。俺は、一瞬だけドキドキしてしまった。何せ女の子が0距離まで近寄ってきたのだ。男としては当然だろう。しかし、こんな人前でそんなことをするとは……大胆すぎる。俺は呆気に取られていると、彼女は小悪魔みたいな表情を浮かべた。


「私の名前はソカよ。あなたは?」

「あ、あぁ……テプトだ」

「今後もよろしくね?」

「よろ……しく」


そして、ソカは立ち去ってしまった。なんと、刺激的な女性だろうか。俺は今までに感じたことのない衝撃にうち震えていた。



「へへっ、ソカに気に入られたな? あいつ終わりだぜ?」

「『ギルド職員キラー』の二つ名は伊達じゃないからな?」

「これからどうやっていたぶってやるかな?」

「何言ってんだよ。今度ランク適正試験があるじゃねーか」

「あぁ……そうだったな。そのためにソカは申し込んだのか」

「もうすぐ血が見れるぜぇ? そして、俺達を軽んじるギルドの奴等に思い知らせてやるんだ。どっちが上かってな?」

「へへへっ」

「ぎひひっ」


そんなギルド内の会話も、今の俺には頭に入ってこなかった。

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