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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
105/206

十三話 少女の正体

少女の拳にはそれなりの威力を感じるため、俺はその一つ一つをかわしていく。いくら威力があるとはいえ、当たらなければ意味はない。

というよりも、少女は戦闘に対してド素人らしく、戦い方は子供のケンカと変大差なかった。


「あれ? ……このっ! ……えいっ!」

拳が空振りを繰り返す度に、先程まで憎悪に満ちていた表情が不安とイラつきによって徐々に崩れていく。

そして、何度目か分からない攻撃の時、彼女の手首を掴み俺はとあるスキルを発動させた。

ーーー『吸収』

「返してもらうよ」


掴んだ手首からエネルギーが失われていき、それは俺の方に伝ってくる。少女が膝をつき、驚愕に目を見開いた。

「そん……なっ!」



スキル『吸収』は、とある森に入ったときに植物型の魔物が使用していたのと同類のスキルだった。その魔物は、蔦を獲物に絡み付かせてそこから養分を奪い、奪われた者は瞬く間に年老いて干からびてしまう。

最初その魔物と対峙した時、吸い取っているのは魔力だと思っていた。しかし、魔力が奪われても年老いたりはしない。彼らが奪っているものは魔力ではなく、しかし、生きるうえで必要なものであると推察できる。

そこから俺は、彼らが奪っているものを『生命力』であると仮定し、自分にもできないか検証をした。


結果的に、同じではないものの魔力を吸い取るスキルを修得することに成功し、さらにそれは回復魔法にも通ずることを発見する。


回復魔法を簡単に説明すると、魔法をかける対象の周囲に魔力で膜をはり、その中も魔力で満たして傷を癒す魔法である。魔力は、火や水や風や土に変化する能力を持っているが、魔力単体では治癒力を上げる効果を持っている。代表的な回復魔法『ヒーリング』はこれに属する。しかし、それは魔力を操る能力に長けていなければ発動することはできず、スキル『魔力操作』が必須の魔法だった。


回復魔法が、魔力だけでは使うことが出来ず、特殊魔法に分類されている理由はそこにあった。


さらにこの世界には、回復魔法のみを使うことのできる者たちがいる。彼らが使う回復魔法は、魔力を持つ者たちが使う回復魔法とは根本的に違っていた。

彼等は対象の周囲ではなく、体に直接魔力を注ぎ込み、体内で魔力を循環させて治癒力を上げるのである。それは外傷だけではなく、免疫力も上げるため病にも効いた。そして、彼等は触れた者から魔力を奪う事もできた。しかし、普通の魔法を使うことのできない彼等は、奪った魔力を『何か』に変換して使用している。

彼らが使うエネルギーは魔力ではない。故に、魔力でしか倒すことの出来ない魔物にはあまり効果がなかった。


目の前の少女がやってのけたのは、まさにそれだった。


「あなたも、回復魔法を使えるの?」

その問いかけには、何故だか期待のようなものがこもっていた。

現在、本物の回復魔法を使える者はほとんどいない。遠く離れた山奥に住む種族が使えると噂されているくらいだ。

もしかしたら、同族意識が芽生えたのかもしれないな。


「残念だが、俺が使ったスキルは君が使用したスキルじゃない。独自で覚えたものなんだ。だから君みたいな戦い方も出来ない」


吸い取った魔力を、俺は魔力としてでしか使うことが出来ない。


「……そう……なの」

その言葉には落胆の色が見えた。

「ちなみに、君はどうして回復魔法を?」

「お母さんが使えたの……もういないけど」


やはりか。


特殊魔法は血の繋がりが深く関係する。俺は特殊魔法を使うことが出来るが、それは完全なものではない。とはいえ、残っている文献も少ないために、元がどのような魔法であったかもほとんど分からなかった。


「少し余分に魔力を吸いとらしてもらった。動けるようになるまで時間がかかるだろう」


すると、少女は今にも泣き出しそうな表情を見せる。

「ごめんなさい……おとうさん……わたし、何もできずに人質になっちゃったよぉ」

人質? この子は何を言っているんだ?

「言っただろ?君じゃなく、用があるのはここの所長なんだ。君には何もしないよ」


少女は目に涙を溜めたまま「へっ?」という表情をする。

「本当に?わたしを連れ去るのが目的じゃないの?」

おいおい勘弁してくれよ? 被害妄想たくましすぎるだろ。

「どこからそんな発想が出てくるんだ?」

少女は依然口を開けたままだった。

「そう……なんだ。だったら良いの。今言った事は忘れて!」

急に態度を変える少女。一体何なんだ?

「じゃあ俺は行くから」

それから、だるそうに手と膝を床につく少女を残して部屋の扉へと向かう。



「あのっ!」



その声に、首だけを少女へと向ける。

「所長に……なにをするの?乱暴な……こと?」

その表情には脅えが混じり、声は震えていた。

「まさか……殺さないよね?」

あどけなさの残るその少女から放たれた一言は、かなり衝撃的なものだった。

その時に俺は、少女が何者であるのか分かった気がした。そのまま彼女に近づくとしゃがみこむ。

「大丈夫。ちょっとお話をするだけで、何もしないさ」

その言葉を信じたのか、少女は安堵したようだった。

俺は再び扉へと向かい、慎重に部屋を出る。幸い廊下には、誰もいなかった。


俺は歩きながら所長の部屋を捜した。


そして、所長がどんな人物であるのかに思いを馳せる。分かったのは、どうやら所長には娘がいるらしいということだけだ。





回復魔法のおおまかな説明回でした。

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