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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
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八話 説明会(前編)

翌日、『依頼義務化』の説明会は、冒険者ギルドの一階にある空き室が使用された。集まるのか不安だったが、部屋には用意した椅子以上の冒険者たちが来ており、壁には座れなかった者たちが寄りかかっていた。

部屋に入った俺は、その光景に思わず立ち止まってしまった。

予想以上だな。

それから、人混みを掻き分けて前の方へと進む。その後ろをヒルとバリザスがついてくる。ヒルは「すいません」と愛想笑いをしながら冒険者たちの間を歩き、バリザスはただ黙って歩いている。その表情は険しく、明らかにいつものバリザスではない。ミーネさんから聞くと、昨日の会議後からずっとこの調子らしいのだ。

バリザスについては、ギルドマスターとして立ち会ってもらうだけなので打ち合わせもいらず、別に本人が何を思っていようと関係ない。


ようやく前へと出た俺は、時間を割いて集まってもらった冒険者にお礼を述べた後、本題に移る。ヒルは手に持っていた荷物からこの日のために用意しておいた木のブロックを取り出して、みんなに見えるよう机の上に積み上げた。最初は資料を配ろうと思っていたのだが、字が読めない者もいるので、これを使って説明するのである。

バリザスは後ろの壁際に立つ。もしも冒険者の暴動が起きた場合、彼に収めてもらうわけなのだが、頼りになるとは正直思えない。

ともあれ、説明会は始まった。


「ーー最近、町の至るところで冒険者の立ち入りを禁止する貼り紙が貼られています。これには理由があり、聞き込み調査で明らかになったのは、冒険者が依頼を受けないといった不満からきていることが分かりました」

俺は、ヒルが用意した木のブロックを十個ほど積み上げる。

「これは現在、このギルドにくる依頼書の数です。言い換えると、町の人たちが冒険者のみなさんに抱いている期待値でもあります」

それから、その積み上げられた中から四個ほど取り上げた。

「そしてこれが、実際にみなさんによって達成してもらっている数です。残ったのは、町の人たちの不満となり、それが積み重なって現在の状況に陥っていると考えられます。普通は依頼を受ける数が少ないと、持ち込まれる依頼の数が減ってくるため、帳尻があうわけですがーー」

言いながら、取り上げた四個のブロックを別のスペースに積み、その隣にもう四個のブロックを積む。

「ーーどうしても持ち込まれる依頼の数は減りません」

新しく積み上げた四個の上に、またブロックを積んでいく。

「これは、それほどに町の人たちが冒険者に寄せる期待が大きいことの表れだと思います」


実際は違う。冒険者への期待が大きいわけではなく、残った依頼を管理部によって全て処理しているため、持ち込まれる依頼量が増えてしまっているわけだが、それを説明すると事を有利に運べない。だから、ここは『町の人たちの不満』という言葉で誤魔化しておく。


そこでとある冒険者が声をあげた。

「俺たちはダンジョンに潜って魔石を採ってきている。魔石は町のいろんな処で使われているぞ?なんの不満があるんだよ」


「確かにそうです。ですが町の人たちはダンジョンに入れません。故にダンジョンでの貢献に関して、町の人たちは実感しにくいんです。もしも冒険者のみなさんが魔石や魔物を倒さなくなれば、その事に気づくかもしれません。しかし、そんなことは不可能です」

それから息を短く吐いて、呼吸を整える。

「そもそもの話、そんなことは町の人たちにも言えることです。みなさんは普段何気なく町での生活を送っていると思いますが、それは町の人たちがそうしやすいよう働いているからです。そして、そんなことは普通に生活している人にとっては当たり前になっていて気づきにくい。だから、目に見える形での貢献が必要なんです。それが町の人たちからの依頼であり、それを受けなかったことによって、町の人たちも目に見える形で対応してきたんだと思います」


俺は四個しか積んでいないブロックに、さらに積んでいく。

「一ヶ月後に行うのは、この依頼達成量を増やそうというものです。みなさんには依頼を受けてもらい、町の人たちを見返してもらいます」


「だが、依頼のほとんどは報酬が少ない上に時間も食っちまう。とてもじゃないが出来るとは思えないぞ」

別の場所から意見が上がった。

俺はその意見に口角が吊り上がりそうになるのを堪える。なんだよ、サクラを仕込んだわけじゃないのに面白いほどに予想通りの意見があがるな……。

「このギルドに所属する冒険者の数は千を越えています。一ヶ月に一つの依頼を受けて頂ければ、計算上未達成となる依頼は無くなります」


冒険者たちがざわつき始める。どうしたら良いかを周りに相談しているのだろう。


「これはギルド側が一方的に提案し、施行するものです。その事は理解してますが、みなさんはそのギルドに所属する冒険者です。もしも、一ヶ月以内に理由もなく依頼を受けなかった場合は、管理部によって何らかの対応があるものと思ってください」


ざわつきがいっそう大きくなる。


「なんだぁ?結局無理矢理依頼を受けさせたいだけじゃねーか!小難しい言葉で濁しやがって?どうせあんたらは俺らの事を道具程度にしか思ってないんだろ!」


若い男の冒険者が立ち上がってそう叫んだ。辺りが一瞬で静まり返る。


「そんなことはありません」

毅然として言い返す。

「どうせ、町の奴等から圧力でもかけられたんじゃないのか?それが嫌でこんな事を始める気なんだろ?普通、ギルド職員ってのは冒険者の味方じゃねーのか?それが町のやつらにへこへこして、その責任を俺らに押し付けるってのどういう事だよ、あぁ?」


喋っている最中に興奮してきたのか、男の顔が紅潮していく。


「もちろんギルドは冒険者を支援する立場です。そのためには、あらゆる方法を模索します」


「それが、今回の事だってか?ふざけんな!報酬の少ない依頼を誰がやるんだよ?こっちは生活がかかってんだぞ?見直すならまずそこからじゃねーのかよ!」


「報酬は依頼に対して適性な値段で受けています。変更はしません」


そう言うと男は目を見開き、やがてかすれた笑い声をあげながらゆっくりと俺の方へ歩いてくる。その両手は固く握られており、今にも殴りかかりそうな雰囲気だった。


「もうよせ、これは決定していることじゃ」

その時、男の前にバリザスが立ちはだかった。それは、俺にとって予想外のことだった。

「あんたは……ギルドマスターかよ」

「何が不満なのじゃ?言っておくが、わしの知る限りこの男に町の者たちが圧力をかけた事実はないぞ」

バリザスが告げる。

「なんだよ……あんたもそいつと同じかよ?元は冒険者でも、ギルドに染まっちまったか?」

一瞬、バリザスの顔に悲痛の表情が浮かんだが、すぐに消える。

「そうではない。この男は本気で冒険者の事を考えておる。そして、同じくらい町の者たちの事も考えておるのじゃよ。それが先程の説明で分からんかったのか?それとも……認めたくないだけか?」



「分かったような口を聞くな?さすがは元俺たちと同じ冒険者ってわけだ?」

「分かっているわけではない。じゃが、意固地になるのはみっともないと理解しただけじゃ。もう、冒険者が魔物を倒すだけでチヤホヤされる時代ではないのじゃよ」


「ハッ!それはあんたの時代の話だろ?俺たちは一度だってチヤホヤされたことはねーよ!その上でおかしいことを指摘してるだけじゃねーか!なんでそれが分からない?なんでソイツの言ってる狂気に気づかない?俺たちに無理矢理依頼をさせようとしているんだぞ?それで何が起こったのか、ここにいるやつらが知らないとでも思ってるのか?それとも、年食ってその頭から抜けちまったのか?なぁ、無能なギルドマスターさんよ?俺らはあんたの事なんてなんとも思っちゃいねーんだよ。今さらギルドマスター面して出てくるんじゃねーよ!」



それは、バリザスに対してかなり厳しい言葉であることに間違いはないだろう。


「そうだ。……お前の出てくる所じゃねーよ」

「おとなしく脇に引っ込んでろ!」


そんな声が、どこからともなく上がった。

「わかったか?ギルドマスターさんよ。俺らはあんたに理解を求めてなんかいねぇよ。俺らが求めてんのはそこにいる管理部の奴さ。そいつが俺たちの事を考えてるのは知ってる。闘技場に参加出来るようになったのはソイツのお陰なんだからな?だから……なおさら腹がたつんだよ」


男は臆することなくバリザスに言い放った。


「わしは……冒険者たちの事を考えて……今まで」

その消え入りそうなバリザスの声は、もはや男には届かない。


「なぁ?あんたもそっち側の人間だったってことか?それとも、管理部が冒険者に何をしたのか知らないだけなのか?」

バリザスを避けて男は尚も俺に近づいてきた。バリザスは、立ち尽くしている。

「その事件については知っています。しかし、これから行うのはみなさんに負担をかけるものではない事を理解していただきたい。一ヶ月に一つの依頼をこなすことは、みなさんの能力ならば決して難しいことではないはずです」


「……何言っても無駄みたいだな?こりゃ一発殴って目を覚まさせないと、なっ!!」


言った途端、男は俺に殴りかかってきた。はぁ、結局こうなるのか。

その腕を止めようとした時、既に男の腕は、いつの間にいたのか一人の冒険者とヒルによって阻止されていた。


「うっ!?」

男が声にならない呻きをあげる。その顔の下にはダガーが突きつけられており、その持ち主はヒルだった。そして、殴りかかろうとした腕を掴んでいたのは、冒険者のカウルだった。


「すいませんね。これでも僕の上司なので、暴力はやめていただけませんか?」

ダガーを突きつけながらヒルが男に言う。

「さすがにこれは見過ごせないな。まぁ、テプトなら助けなどいらなかったかもしれないが」

次にカウルがそう言った。

……お前ら。


カウルは、前に『ランク外侵入』をした冒険者だった。それを俺自らダンジョンに潜って助けたのだが、『ランク外侵入』をしたのには理由があって、それに俺も関わったのだ。


「ヒル、カウル、放してやれ」

彼らに言うと、二人ともすんなり従ってくれた。解放された男は、カウルに掴まれた腕をさすりながら一歩退いた。

「お前はカウルじゃねーか。なんで今のソイツに味方する?」

「いろいろとあったんだ。……テプトを傷つけようとするなら俺が相手をする。……まぁ、その方がお前のためだと思うがな?」

最後の方は意味ありげに言って、チラリと俺の方を見た。なんだよ、まるで俺と戦った方が酷い目にあうと言いたげだな?


「知ってるぜ?『仲間殺しのカウル』さんよ?この前も『ランク外侵入』をしたんだってな?もうお前とパーティを組もうとする奴はいねーよ。それに長年一緒だった仲間も、お前を見捨てて冒険者を辞めちまったんだろ?それで、ギルド側に媚びへつらって何とかしてもらおうって腹か?」

「ソフィアの事か?あいつは自分の道を進んだだけだ」

「お前にはそう言ったんだろ?なにせ、本音を話せば殺されちまうかもしんないからな?」

「……なんだと?」


カウルの目つきが鋭くなり、分かりやすいほどの殺気を放った。おいおい、お前止めに来たんじゃないのかよ?

カウルと男がにらみ合い、一触即発の空気をかもちだした時だった。


「ねぇ?文句があるなら後からでも良いんじゃない?」

ふわりと音もなく現れた女性冒険者が、二人の間に割って入り、男に向かってそう囁いた。

彼女の名はソカ。彼女も冒険者の一人である。




また区切ります

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