十話 ピラルク討伐
俺は早速受付の混み具合を調べることにした。といっても、冒険者受付の時間は10時からなので、その前に、昨日の『ピラルク討伐依頼』を先に済ませることにする。
ギルドを出て『魔物の森』へ向かう。
ピラルクとは魚の魔物で、ランクはE。川に生息している。彼らは普通の魚を捕食しているので、放っておくと川に住む魚の生態系が崩れてしまうのだ。そして、最も厄介なことに、ピラルクは食べるものがなくなると、同族を食らうようになる。そして、生き残ったピラルクは、進化してアンフィアンドという魔物になる。
アンフィアンドは、ランクCの魔物で、陸に上がれる。こいつも雑食なため、森の動物をところ構わず食い尽くす。やがてアンフィアンドはその体からウロコを生やしてサラマンダーとなる。こうなってしまうとランクはAへと跳ね上がり、倒すのも難しい。まぁ、俺の敵じゃないが。
ちなみに、アンフィアンドは海へと下るものもいて、海の王者シーサーペントは、ピラルクの進化ではないかという説もある。
弱いけど放っておくのは大変危険な魔物ということだ。
俺は魔物の森につくと、川を見つけた。ピラルクは陸に上がると何も出来ずに死んでしまうため、討伐の仕方は釣りなのだが、俺はそんな面倒なことはしない。
「よっと!」
空間魔法で投げ槍を取り出して片手で構える。
それから、スキルの(気配察知)と(魔力察知)で、ピラルクを見つけると、そこに向かって槍を投げた。
「まずは一匹」
これも冒険者の時よくやった手法だ。ピラルクは焼いて食べると旨いから、一時期ものすごい頻度でやっていた。
程なくして、規定のピラルクを討伐し、死体をしまう。
「一丁あがり」
俺は再び『魔物の森』を出たのだった。
ギルドにつくと、続々と冒険者が集まっていた。皆、新しく貼り出される依頼目当てなのだろう。
「なんだ? 見ねぇ顔だな?」
一人の冒険者に話しかけられる。
「あぁ、昨日から働いているテプトという者です」
そういうと、周りの冒険者がニタニタと笑い出した。
「お前が昨日来たっていう新人か。俺達の担当なんだろ? 今後とも仲良くしようぜ?」
そう言って握手を求めてきた。こいつらの笑い方は気持ち悪いけど、冒険者とは普通、粗暴で野蛮だ。だから、これもこいつらなりのコミュニケーションなんだろうな?俺はその手を握った。
「あぁ、よろしくな?」
少しだけそいつの力が強かったが、その分気持ちが籠っているということだろう。なら俺もそれに応えないと。
「いでででで!?」
あれ? 少し強くしすぎたか?
「ごめんごめん。そんなに強くしたつもりはなかったんだ。許してくれ」
そう言って手を離す。それから、受付の調査準備しないといけないことに気づき、驚いていた顔をしている冒険者に「じゃあね」と言って、俺はギルド内に戻った。
俺は自分の部屋から椅子を持ってきて、受付の横に座る。
「ちょっと? 何してるの?」
セリエさんがそれとなく話しかけてきた。
「受付の混雑調査です。これを元に、混雑緩和の対策を考えますから」
「へー、なるほどねー。じゃあ今日はテプト君とお話しながら仕事出来るってこと?」
「その言葉は嬉しいですけど、ちゃんとしたデータを取りたいので真面目にやってくださいね?」
「なによ。言われなくても分かってるわ」
セリエさんは膨れ、それに俺は苦笑した。
「それと、何枚か余った紙を貰えますか?」
「はいはい。どうせ私は使いっぱしりですよ」
いいながらも、紙を渡してくれるセリエさん。この人の表情は豊かすぎて、飽きることがない。
「ありがとうございます」
さぁ、ここからだな。
ギルド内の受付は三つ。俺はスキル『鷹の目』を発動する。まさか、こんなところで役に立つとはな……『鷹の目』は、全体を把握するスキルで、パーティを組んで戦闘で使用すると、乱戦になっても的確な指示を仲間にすることが出来る。俺は……使うことはなかったけどな。ちなみに、精霊魔法を使っても全体の把握は可能だったので、俺が取得しても、魔力消費を抑えられる程度の利点しかなかった。
まぁ。瞑想してたら、勝手に覚えたんだけどな。
かくして、10時の鐘がなり、入り口から冒険者が入ってきた。俺の戦いはここからだな。