一話 派遣されてきた男
……どうしてこうなった。
俺は顔を上げてその建物を見上げる。そこには『タウーレンギルド』の看板が下がっている。今日からここが俺の職場となるわけだが、なぜそのような状況になったのか。説明が必要であろう。
それは、前世でのことだった。俺はしがない凡人学生生活を謳歌しており、そこには何の不満もなく、ただダラダラと日々を送っていた。
事故にあったのは、まさに青天の霹靂。バイトに行くに信号無視した車にはねられた。そして、気がついてみれば目の前には神様と名乗る少年が一人。
「異世界に転生してくれない?代わりに好きなように能力を弄ってあげるからさ?」
軽い言葉でそう言われ、口を突いて出たのは「とりあえず何でも出来るようにしてください」
元来、なんなの取り柄もなく馬鹿にされ続けた幼少期を思えば、それを願って何が悪い? いや、ここは素直に謝っておこう。突然のこと過ぎて混乱していたんだ。
「面白いね?別に構わないよ。どうせ新たなるスタートだ。思う存分楽しむといい」
そして、俺はセッテン家の長男として、生を受けた。
セッテン家は鍛冶屋で、幼い頃から俺は鉄と火花を見て育った。そしてこの世界には魔法が存在し、俺は幼い頃から魔力の鍛練を行った。
魔法は「火・風・水・土」の属性と「回復・空間・精霊・召喚」の特殊属性、「氷・雷」の古代属性がある。俺はなんと全てを使うことができ、武器の適性も全てあった。
この時ほど、神様に感謝したことはない。
俺は華々しい異世界生活を送るため、剣術、斧術、槍術、弓、また、体術に至る全てを拾得した。練習用の武器など、セッテン家には腐るほどあった。
13歳になる頃には、俺に扱うことの出来ぬ武器など皆無となっていた。俺は調子に乗っていた。恥ずかしながらこの頃の俺は「勇者になる!」が口癖だった。
16歳の春にとうとう俺は家を出る。冒険者になるためだ。やはり、異世界といえば冒険者だ。冒険をしてこそ異世界だ。母さんは涙を流していた。父さんは「勝手にしろ」と見送りに来なかった。親不孝者なのは分かっていたが、それでもやりたいことがあったのだ。
一番近い冒険者ギルドがあるのは、ラントという町だった。そこで最低のFランクから始めた冒険者稼業は、やはり能力のお陰でみるみる成功していった。ギルド内でも話題の冒険者となり、ランクもみるみる上がっていった。
そこまでは良かったのだ。……そこまでは。
冒険者ギルドのランクはF~Sまである。そして、一人で依頼を受けることが出来るのはCランク迄で、そこから先はパーティを組まないと受けることが出来ない仕組みとなっていた。
俺は仲間を捜したが、何故だか俺をパーティに加えてくれる所はなかった。そして、俺は驚愕の事実を知ることになる。
「え? お前、万能型だろ? 万能型は何でも出来るけど、能力の打ち止めが低いんだ。うちはSランク目指してやってるから、そんな奴を加える事は出来ない」
それは、とある冒険者パーティのリーダーに言われた言葉だった。
あ……そうなんだ? ……そんなの知らなかったな……ははっ。
俺はボッチとなり、異世界での快進撃も打ち止めとなったのだ。……せっかく、こっそりと依頼にはないSランク級の魔物なんかも倒したりしてたのにな。……受けられないんじゃ意味ないな。……ははっ。
その後も、俺がどれだけ強いかをアピールしたものの、まともに取り合ってくれるパーティはなかった。
そして、そんな俺に冒険者ギルドの職員が話しかけてきた。
「君はギルド職員に向いてるよ。王都へ行って、ギルド職員の資格を取ったら?」
それは神の声に聞こえた。
「万能型でも大丈夫なんですか?」
「もちろん! かくいう俺も万能型さ(キラーン)」
「王都へ行きます!!」
金なら冒険者稼業でたんまり稼いだ。そして王都で、ギルド職員になるための学校で3年間学び、俺は20歳の春に、本格的に冒険者ギルドで働くことになったのだ。
そして決まった所が冒険者の町「タウーレン」にあるギルドだった。
そこは、在学中に聞いた中でも、最も大変と噂されるギルドで、そこに決まった者は一年未満でやめてしまうらしい。
俺はタウーレン冒険者ギルドの「冒険者管理部」という部署に決まった。
そして、今俺はタウーレン冒険者ギルドの前にいる。
思い起こしてみると、いろいろあった。当初の予定ではこんなはずじゃなかったのにな。……自由に世界を見て回る筈だったのに、どうしてこんなことになってしまったのか。間違えたのはどこなのか?
そんなこと今更思ってみても仕方ない。俺は気を取り直して、扉に手をかける。そして、勢いよく中に入ったのだった。