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おっ、さん祭り

 深夜にドアを開けると不審者の小さなおっさんがいた。


 夢の中か、事案だ!


 碧はバタンと扉を閉める。


「お、おい、何で扉を閉めるんだい」


 小さなおっさんは小さくなったゆえの甲高い声で叫ぶ。


「あ、夢じゃないのか? 喋ってる……おじさんだぁれ?」


「よくぞ聞いてくれた、俺の名は魏延、蜀の牙門将軍だ」


「何で小さいの」


「それは……だな」


「いえないなら入れないです、なんかあやしいです」


 問答していると、葵がやってくる。


「何よ、魏延がわざわざ訪れてくださったなら通してさしあげれば……って小さい」


「お姉ちゃん、いいの?」


「蜀末期の武将よ、武勇に長けたけど壊滅的に扱いが悪かったわ、入れてさしあげて」


 小さい魏延はおお、話せる人がやっていたと喜ぶ。そして、ドアの隙間から入り、ちょこまかと動き回ると葵のほうへよっていく。


「って、下の方にはあんまり来ないでほしいな、覗かれてるみたいで、なんか……」


 葵はポリポリと頭をかきながら手のひらサイズの魏延をすくうとテーブルの上に置いてやる。


「すまない、恩にきる!」


 魏延は手を組み頭を下げている。


「あ、いえいえ、頭をあげてください、碧が失礼をいたしまして申し訳ありませんでした」


「失礼しました」


 ドアを閉めて戻ってきた碧は座布団に座り、同じく話を聞く姿勢に入る。


「いや、そちらの碧とおっしゃる御嬢さんが警戒するのも当然です。こんな姿ですからねぇ」


「ええ、私も気になっておりました、何故魏延様ほどの方がこのような姿に」


 魏延の語りに、葵も問いかける。


「いえ、信心の低下ですよ、私は成都武侯祠の像を破壊され、活躍した英雄なのに……墓ももうないんです、語り継がれてるから何とか姿かたちは残っていますが、力は強くても反骨の相をもった、裏切り者としての扱いですから、だんだんと形を保つのが難しくなって来ましてね」


「そ、それはお気の毒すぎる」


 葵が何も言えずにいると、碧が目をぐしぐしとこすり、涙をこらえながら魏延に抱き付く。


「ぐえー!」


 悲鳴を上げる魏延。


「碧、あんたの力で今の霊体にそれやるのはまずい!」


 葵が焦りながらやめろやめとけと魏延への抱き付きをこじ開ける。


「ごめんね魏延さん、でも私たちのところに来れたのは何故で、どんな理由があってなのでしょう」


 魏延の回復を待って、碧が詫びと単純な疑問を口にする。


「よくぞ聞いてくださったぁ! それがし、劉備様に一度詫びねば死んでも死に切れませぬ、そのために参りました。これた理由は成都武侯祠に入れずうろちょろしてるところ偶然に力強い霊力を見つけたからです」


「像が破壊されていても入れるには入れるでしょ……まぁ一人じゃ入り辛いか、裏切り者扱いだもんね」


 魏延の述べた言葉に葵はうんうんと合点する。


「実は料亭などでも話を伺っておりました、何とか水先案内人などと紹介していただいて、劉備様のところまで連れていっていただけませぬか」


「うんいいよ」


 碧が即答する。


「あんたまた適当に答える! でも三国志中の人物が案内してくれるのは確かに助かるわね。デメリットもあるけど……困ってる人を見過ごせないわね」


 葵も仕方ないわねぇといった感じでため息をつきながらOKを出す。


「ありがたい、ありがたい」


 魏延はテーブルに頭をつけそうなほどに深く礼をした。


 斉天大聖は眠っていた。


 そして翌朝……


 ──成都武侯祠──

 ふたたび、人でごった返し、武将たちが集まっている様子の成都武侯祠を訪れる。


「いるいる、気配も強烈、これなら間違いなくいるよ、魏延ちゃん、劉備さんの気配はある?」


 斉天大聖の筋斗雲から真下を見下ろす碧が問いかける。


「あります、ありますとも、お懐かしい……」


「じゃあ、プラン通りいくわよ」


 葵が緑と斉天大聖にナチュラルな香り付けをしていく。香は高いのでそれっぽいもので。


「魏延ちゃんは贈り物の箱の中に入っててね」


「ちょっと狭いが、仕方あるめえ……」


 そして、地上に降り立ち、斉天大聖は変化の術を使いはじめる……


貂蝉(斉天大聖)「俺が貂蝉とはね、役回り間違ってないかい」


 なりすましたのは三国志時代でも絶世の美人、そして傾国の美女、貂蝉。


大喬(葵)「私たちは姉妹役だから、やっぱりこっちのがいいでしょう」


 これもまた三国志時代の王侯にもてはやされた大喬。


小喬(碧)「そうだねお姉ちゃん」


 その妹、小喬である。

 

 さらに斉天大聖は分身を作り出し、従者の列を作り出す。


「これで特使として、正面から突撃すればいいのよ、英霊の邪魔はできないでしょ」


 葵はそう考えたのだ。


「さぁ、いこう!」


 一同は成都武侯祠へ正面から入っていこうとした。


 気が付いた歴史オタクや観光客がこっちへくるが、その荘厳な様子に近づいては来ない。


 警備のものが一応止めては来るが……


「わらわは貂蝉、こちらは大喬に小喬、こたびの世界の改変について語り合おうとの事で呉よりの文を持ってまいった。道をあけてはくれぬか」


 そういわれては警備のものも断りにくい、上司に連絡し、しばし待つと、OKをもらえたのか。


「どうぞお通りください!」


 と、道を開けてもらえた。


(さて、中には入れたけど、今度は時代の違う連中の視線が待ってる、気を付けて進まないとな)


 斉天大聖がテレパシーを送ってくる。


(歩くだけだから大丈夫だとは思うけど、話しかけられるとまずいね……)


「おや、おや、これは意外なお客様が参られましたね」


 さっそく話しかけられる一同、魏延が箱から覗き見て一同に誰かを伝える。


(げぇっ! 孔明!)


 長身で、衣を纏い、髭を蓄え、黒い帽子をかぶり、采配をもった人物であり、三国志で随一の策略家とされる。

一見融和そうだが魏延は大いに焦る。


(孔明? やなやつにつかまったわね!)


 葵が少したじろぐ。


(斉天大聖、誰かわからないふりをして、碧、あんたは敵愾心燃やしなさい、旦那の仇よこいつ!)


「おや、どうされました」


「貂蝉、この方は孔明様、私たちにとっては少々複雑な事情のある方だけど、あなたなら自然に話せるでしょう」


 葵が斉天大聖に何とかごまかせと指示を出す。


「初めまして、孔明様、実際にあうのは初めてでしょうか」


「ええ、貂蝉どのも噂に違わぬ美貌ですな、特使が来たということで参ったのですが、なぜあなたが呉より参ったのですか?」


「同じく美人とされるお二方に拾っていただきまして……」


「なるほど……ところで小喬殿、私は戦乱の中とはいえ貴方の夫、周瑜を殺したもの、恨みなどあってこの場に来られ……いえ、申し訳ない。申し訳ない……」


「──夫は、立派に、戦いましたか?」


「ええ、ご立派でした」


「ですか、ならばよいのです、私は覚悟しておりました」


「……失礼しました、辛気臭い空気にしてしまいましたね、ご案内いたしましょう」


(碧やるじゃない!)


 葵が賞賛してくる。


(戦乱の世の定めだよ、周瑜さん本当に頑張ったし……)


(そうね。そういうことが起きないようにって私たち頑張ってきたんだし、気持ちはわかるところもある、か)


 そして迎え入れられるは劉備像がある祭壇の間、武将でごった返している。


「特使殿をお連れしました」


「おお、ありがとう孔明、それで貂蝉ちゃんと大喬ちゃんと小喬ちゃんはどこかな?」


「ここに」


 孔明が劉備に向かって声をかける。


 そうするとやたらフランクな感じのおじさまが前に出てくる。鎧をまとってはいるが、何故だか戦というより友和さを感じさせる、耳が大きいからだろうか? またひげを蓄えているが、それもなぜかお茶目に繋がっているような気がする。

 孔明たちの主君で三国志の三国を立国した人物である。


「劉備様!」


 勝手に貢物の箱から出てきて、ちょこまかと歩み寄る魏延。


「おや、その声は魏延か、懐かしいのぅ、あの世でも会えなかったし何をしておったのだ。ってどこにいるのだ」


「はー」


 ため息をつく化けた3人。


「それがしはここにございます。足元です!」


「おお、小さくなったのぅ、昔の武勇はどうした」


「そ、それは、その」


 口ごもる魏延。


「裏切ったからですよ、反骨の相があるという私の宣告通りね」


「うるさい孔明、元はといえばお前たちが顔の相だけ見て劉備様の死後適当な扱いばっかりしやがるからじゃねえか!」


 容赦なく告げる孔明に魏延は反論する。


「ほら、二人とも喧嘩をしない」


 劉備は自らの方に魏延をポンと乗せると孔明をたしなめる。


「そしてそこのお三方、君たち本物じゃないね、本物はもうちょっとこう、怪しかったり、優和だったり、高貴だったりしたからねえ」


「!?」


 驚く斉天大聖と、葵と碧、まだ話してもないのになぜばれたのかわからないのだ。


「劉備様は人を見る目が長けているとは聞きましたが、これほどとは…恐れ入りました」


 観念して、変化を解いて姿を現す葵。


「孔明の人を見る目が節穴なんじゃよ、なー魏延」


「その通りです!」


「劉備様、それはいくらなんでもひどうございます」


 だが、泣いて切った馬鹿馬謖のことを思い出し、何も言えなくなる孔明。

 

 その後ろで、葵と同じく変装を解くと、早々に駆け付けた武将たちに囲まれる碧、葵、斉天大聖。


「あー、囲まないでいい、話し合いに来たみたいだから」


「劉備様話が早い!」


 碧が声を上げて喜び、斉天大聖も如意棒を納める。


「それで、どんなご用件で来たのかな、お嬢ちゃんたちとお猿さんは」


「はい、関羽様の説得にあたり、蜀の皆様の力を貸していただきたいのです」


 葵が説明を始める。


 自分たちのなしたこと、受けた命令、関羽の増長、人々の、中国の今。


「なるほどねえ、でも私たちがあの世にいたときから関羽だけが神になって、増長していく様は見てきたんだ。ここに降りてくる前に、私と張飛で説得に行っても無駄だったから、力にはなれないと思うよ」


 劉備が残念そうに答える。


「そうなのですか……」


 葵が考え込む。


「私たちで一度負かして、鼻を折ってから再度説得されては?」


「でもそこの有名なお猿さんも負けたんでしょう? 強いよ、関羽?」


「自信は……そこそこですかね、とりあえず話をまとめる役がいれば人民も納得するでしょうし」


「ふーむ、そこまでいうならば協力してあげてもいいよ、いいよね、張飛?」


 劉備が振り向いた方向を見やる。


 朝っぱらから酒を飲んでいるおひげのマッチョメンが目に入る。この人こそ? 三国志で随一の武勇を誇る張飛である。


「ウィ? ああ、いいよいいよ……」


「明るいうちから飲まないでくださいって言ったでしょう!」


 孔明が酒を取り上げようとするが、張飛は酔っているくせに俊敏に動き回り孔明ではとても奪えない。


「あのおっさん、俺と気が合いそうだな!」


 斉天大聖は一緒に酒を飲もうと画策して近づいていくが、こちらは葵がしっぽを捕まえてはなさない。


「大丈夫かのぉ」


 劉備は髭を弄りながら心配そうにつぶやいた。

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