せいとぼうりゃく
筋斗雲の上、四川省にはいる。
豊かなままの自然の中に開けた都市が見えてきた。
ここがかつての蜀である。成都市、かつて王城があった場所。
「発展してますねー蜀は田舎だって聞いてたんですが」
葵が驚き声をあげる。
「ふふん、知らないのかいお姉ちゃん、ここはかつてから蜀地方が温暖な地方で水運が開け……なんとかの戦乱もなくて、特産品としては、養蚕、絹と紙が存在したから、発展したんだよ。今の中国の再開発計画でも観光資産が注目されて選ばれてるんだ」
「カンニングしたわね、wiki」
「してないしてない」
してないよ。
「さておきお姉ちゃん、あっちの方からすごい量のプレッシャーを感じるよね!」
「ええ、わかってます。すぐ行ってみましょう」
──成都武侯祠──
劉備や孔明、その他の蜀の武将を祀った霊廟である。
「うわっっ、すごい量の武将の霊が集まってる…それにつられて観光客と歴史オタクが詰めかけて警察が出動してる」
盆と正月が一緒に来たような騒ぎに閉口する一同……しかし入り口がこれではそう簡単に入れなそうである。
「また毛さんに頼む?」
葵はそう提案するが……
「ん? 私か、私じゃ観光客や武将には効果が薄いと思うが、それに目立ちたくないし、もうそろそろ夕方だろ……かつらを用意してくれ。本を買ってホテルでのんびりしたい」
毛沢東は今回はやってくれないらしい。そして言っていることももっともだ。
「でもよ、毛沢東さん、あんたほどの顔じゃ変装だけじゃいずればれちまうだろ、俺が変化の術を使って完璧に変装させてやるから、それで用事を済ませて来なよ」
斉天大聖が毛沢東に助言を行う。
「おお、斉天大聖はそんな術も使えるのだったな、ありがたい」
「変装かぁ……変装、それいいかも」
喜ぶ毛沢東の姿を見て、葵がふと、何かを思いついたようだ。
が、その前に毛沢東が所望する高性能タブレットと本、サングラスと、コンビニエンスストアを興味深く見つめている毛沢東がはいっていった先で、ほしいものをポイポイ買いこんできて、最後にいざという時のかつら……そのあたりの毛沢東の荷物を超一流のホテルまで運ぶのを手伝う。
「じゃあ、私はここで待っているから、困ったことがあったら来なさい」
「はーい」
「お世話になります」
碧と葵は礼をして超一流ホテルから立ち去る……
……
「一泊日本円で20万とは恐れいったわね」
葵がぼやく、目が笑っていない。
「局長、こういうことを見越していたわけだね……」
タブレットなど一式そろえて一日で50万ほどすっとんで碧も手を震わせる。
「腹減ったなぁ、とりあえず俺たちも宿決め手飯でも食おうぜ」
斉天大聖ののんきさがふたりにはまぶしい。
「そうね、私たちも少し気合い入れていくために奮発しちゃいましょう」
「そうだねお姉ちゃん!」
碧が選んだ宿(一泊1万)にひとまずチェックインし、レストランを探すこととする。
暗くなってきた路地をガイドを睨みながら歩く碧。
「小吃セットメニュー……ってのがいいんだってさお姉ちゃん」
「ショウチイ、えっと、定食かぁ、もうちょっと大盤振る舞いしてもいいんじゃない?」
「それが伝統的な料理だと大衆料理ばっかりみたいで、あまりお高いの食べて風土感損なうのも嫌じゃない?」
「それはある!」
二人の会話についていけない斉天大聖、実は贅沢三昧をして来たり、絶食をさせられたりした経験があるので、些細なメニュー選びにこだわることをくだらないという気がしているのだ。
「な、なぁ、楽しく食えればいいんじゃないかな、早く決めようぜ……俺腹が減って」
斉天大聖の泣き言に碧が応える。
「楽しく食べられるもの! 鍋魁なんて、パイみたいで楽しそうじゃない!」
「伝統的な焼き釜でカリッと焼き、生地が膨張したところで切り目を入れる。中に入れる具は麻辣に味付けされた冷菜、おーこれはこれは…でも冷菜に麻辣ってあうの?」
「お子様味覚の私には無理かも?」
「その時は私が全部食べてあげるから」
「あ、こら、ガイドブック取らないで」
決まる気配がない!
「あ、あの、はやく……決めて」
小一時間ようやく決まった店で碧と葵は四川の小吃、そして数多くの麻辣(ご立派様ではない)と季節の果物を楽しんでいた。
「いやー、油もの多いねー、大皿で出てくるし……日本料理みたいに3、4皿頼むものじゃないね。途中ですっきりしたくてお高いけどフルーツ盛り合わせ頼んじゃった」
碧が唇を朱に染めながら贅沢な食事を堪能し終える。
「斉天大聖ちゃんがいてくれて助かるわー」
葵も烏龍茶で口をリフレッシュさせ、ナプキンで口を拭く。
斉天大聖はもう何皿か頼んでいいかいと聞いてまだ食べている途中だ。
「さて、明日は私たちの乙女力が試されるわよ! 碧、覚悟はいいわね!」
「わかってるわよ! 私たちの魅力でせつなさみだれうちよ!」
してないよ。