どんてんたいせい
葵が黄龍から情報を得ている間に碧は中国の観光情報を把握している。
これもまた立派な作業の分担だ。
昔から葵のほうが計画とかを立てるのはうまかった。
逆に碧は感性で行動するのが上手であった。
そして毛沢東は現在の機械などを守衛の兵士から借りて、感心しながら弄り倒している。
「ほう、これが本やTVの代わりにもなるのか、面白い面白い」
「つ、使い方はこうであります。お手を拝借します」
「ほー、画面を触っただけで…!」
毛沢東はエンジョイしている。
兵士は感動でカチコチになりながら、守衛としての役目を果たさず、碧と葵をフリーにしてくれている。
そして数十分ほどたち。
「お姉ちゃん、お土産はきまったよ!」
「こっちもだいたいは整理出来たわ。関羽の説得についてだけど、斉天大聖、つまり孫悟空が力比べ、太上老君が知恵比べを挑んで……まさかの敗北よ、大衆の支持を得すぎて相当に関羽は強化されてるわ。とりあえず、英霊や知り合いを集めて説得させる方針を主に続けていきましょう。私たち単独では説得できないでしょうし、関羽を倒したとしても、その結果に民衆も他の霊も納得しないでしょうから」
「そうだね、とりあえず仲のいい張飛と劉備揃えに蜀に行こう!」
「あら、碧にしてはなかなか物覚えがいいわね」
「図書館で見たよ、常識常識」
(漫画だ。絶対漫画だ)
中国は広大であり、普通に旅をしていては必要となった各所を回るのにどれだけの時間がかかるかわからない。
特に田舎の蜀にあたっては歩くのも一苦労で、崖をつたって渡るのが必要な場所もある。そのため、必要な移動手段として空間を跳躍できるか、空を飛べるものが必要になってくる。
聞けば神となっている関羽以外の各武将はそれぞれが敗れたり臥した地より、かつての主君の存在し地や、国に戻っていっているという。
「水先案内が必要ね。黄龍さんお願いしてもよろしいかしら」
「いや、我は環境が不安定な今北京を守護する役目がある。代役を用意する」
「と、なると毛沢東さんが……?」
葵の問いに黄龍が答え、碧が応じるが。
「いや、私はゆっくりするぞ。家に帰ってのんびり読書するんだ」
毛沢東はのんびりしていきたいようだ。彼ほどの偉人を無理やり引っ張っていくのは人民が許さないであろうし、悪印象を与えるべきではない。だがしかし。
「いえ、今ガイドブックで調べたらご実家テーマパークになってますね」
葵が中国の旅のガイドブックをあさって現状を調べていると恐ろしく残酷な情報が伝わってきた。
「嘘、本当」
「本当です」
「嘘じゃないあるか」
「本当です」
「がっかりだ、帰りたい……」
毛沢東はのんびりと過ごしたがっているが、彼のような偉人にそのような道は許されないのだ。
「民衆の皆様は何かこちらに向かって本や旗を振ってますが」
毛沢東に向かって葵が汗を流しながら周辺の状況を伝える。熱狂的なラブコールが聞こえてくる。赤いマジ赤い、花火がたかれ、帰還を祝われている。
「とりあえずどこかにつれてってくれ、後かつらを用意してくれ!」
毛沢東はこの数の人民や今の政権の連中に捕まるのはさすがにごめんだと、こちらに向かってそう願い出てきた。
「じゃあ私たちと一緒にとりあえず移動で!」
碧が空を飛べる頼れる仲間を呼び出す……!
「来て、斉天大聖!」
「えっ」
葵と黄龍が碧の顔を見やる。今呼び出すのはどうかな、人間に負けて落ち込んでるんじゃないかな? そんな心配と共に。
「はぁー……」
大きなため息とともに体育座りで現れる斉天大聖。
無敵、不老不死、髪とり吹けば無敵の分身あらわれ、伸縮自在の如意棒もって、ありがたいお経を求めた三蔵法師の天竺への道開きたる彼が…日光猿軍団の反省をさせられた猿のようになっている。
「やっぱり落ち込んでる!!」
「あれ、どったのよ孫ちゃん」
碧が何で落ち込んでるのかわからないといった体で話しかける。
「あ、呼んでくれたのお前、人間か、まぁいいよ、ちょっと聞いてよ。関羽とかいう人間がさぁ、神様になって信仰されてるからって調子づいてさぁ、中国の覇権は私が握るなんて言ってるの、マジふざけてない?」
「ふざけてるよねー」
「だろ? まずは同じ神格化された者同士つら通ししてからやれよって言って、挑んでみたら超つええの、あー糞っ、悔し……」
「その関羽にさ、ひと泡吹かせに行くんだけど、ちょっと乗せてってくれない?」
碧は猿の肩を持って、指をグイッと立ててGOサインを出す。
「え、マジ? 乗せてく乗せてく」
「サンキュー!」
「いえいっ」
「……案外ノリがいい子ね」
葵は碧と似たような馬……猿……知恵がいたことに驚きを隠せない。
「じゃあ筋斗雲呼ぶからよ、乗ってくれよ、行くのはどこだい」
斉天大聖はノリノリで訪ねてくる。切り替えが早いのはその行動力故か、それとも猿知恵か。
「とりあえず蜀で街を探し回ってみる?」
「そうね、蜀の武将が集まるとすれば劉備のところ、臥したところは王城…街のどこかね」
碧の問いに葵が応える。
「蜀なら人も少ないし私も平和に過ごせよう、問題ない!」
毛沢東もそれでいいようだ。
「OK、じゃあ行くぜ」
ドギューン……バシュと派手な衝撃波を出して目の前に大きめの雲が用意されると、碧と葵と毛沢東はそれぞれの肩を掴み、筋斗雲に乗り込んでいく。
そうしたなら、シュバッっと、その場を離れて空へ一気に飛び出していく。
100kmは出てるだろうか。
「ぶぼぼぼぼぼぼぼ」
「ぶぼぼぼぼぼぼお」
「ん、何だい?」
碧が斉天大聖の肩をたたく。
「スピード出しすぎです!」
葵が必死に叫ぶ。
「毛沢東さん落ちてったから拾っておきましたよ!」
碧も慌てて言葉にする。召喚した式神シキオウジが毛沢東を回収しているが落下のショックで失神している。
「だって、こうでもしないと後ろのアレ振りきれないし、人間も凄いの作ったもんだな」
後ろを見ると何かしらの戦闘機、おそらくはJ-11? が迫ってきているという。
「あ、追ってきてる! でも対策はシンプルですよ、葵姉ちゃん、グレムリン呼んで」
「はい、もう呼んでますよ」
グレムリン、機械を故障させるガイストである。
「おー、引き返していくぜ? どういう仕組みだ」
「中には人間の仕掛けがいっぱい詰まってるんですよ、それを壊しました」
葵が簡単に説明する、サルでもわかるように。
「なるほどねえ、だけど怖いもんだ、一時的にでも迫ってこられたのは……」
斉天大聖は気を取り直して、されど、油断はしないままに、安全運転でかつての蜀へと向かっていく。
「北京、少し離れると大地が綺麗です」
碧が嬉しそうに言う、大地を司る巫女としてはまだ生きている土地があることが嬉しいのだ。
いや、それ以上に破壊の傷跡があるという北京の現状を知らないわけではないが、まだ、再生は可能なはずだと希望を抱くことはできた。
できれば、そんなことを考えてくれる人が指導者になってくれるといいな。碧はそう思わずにはいられなかった。