冠を抱くものは?
中国! それは半万年の歴史!
中国! それはうどんの国
中国! それは山陰地方?
誰かは子供の頃本気で区別がつけにくかったと抗議したい。
「全くややこしいよね葵お姉ちゃん」
「小浜市とオバマ氏を一緒にするようなものだから、子供の頃は仕方ないわよ、子供の頃は」
「中つ国とかね!」
天宮がコホンと咳をして注意を引くと話を元に戻す。
「えー、とりあえず中国で一般的に知られている神の中では大物の黄龍さんと連絡が付いています。よくよくはなしあって事を穏便に運んでください」
「局長!」
碧が緊迫した面持ちで天宮に無言のプレッシャーをかける。そのまなざしは真剣そのもの。
「わかっています……」
天宮はそっと分厚い封筒を差し出す。
「予算はそれぞれ3万まで、これで局員にお土産を買ってきなさい」
「さっすが天宮様、話が分かる!」
碧がえへへといいながら封筒を受け取るが、その分厚さに少し困惑している。
「そして、現地であなたたちも風土に沿った食事を楽しんできなさい、また、英雄たちをもてなすための軍資金としては制限などなく、ぱっと使いなさい、ただし、ぱぁっとの分の領収書はきっちりいただきますからね」
「さっすが天宮様、話が分かる!」
葵も今回の説得にはそういったものが必要だと思っていたのか同じく封筒を預かる。
葵が封筒に手を出し、中身を見て驚き仰天する。300万ほど入っていたからだ。
「お、お姉ちゃん、これ預かってて、私持つの怖い」
「わ、私だって嫌よ」
天宮がぽりぽりと頭をかく、言われてみれば、国の特使とはいえ、普通の女性がこの額を持つのは少々恐ろしいものがあるのではないかと今更になって気が付いたようだ。
「豪遊になれた人たちが相手ですからねえ、いくら必要になるかわかったものではありません。カード……でも通用する場所ばかりとも限りませんし、困りましたね」
そういわれると大人ぶろうとしている葵は弱い。
「わかりました、私が持ちます、碧に持たせていては何かと無駄遣いしそうですし、いつ落とすかわかったものではありませんから」
財布にチェーンつけておかないと…あ、ゴムひもも…とぼやく葵。
「お姉ちゃん、さすがに私だってそんな大事なもの落とさない……」
碧は何か言いたげだが、とりあえず300万を持つ人物は決まった。
「では黄龍さんは北京の天安門で待つとの事なので急ぎましょう。自家用ジェットを手配してあります、屋上のヘリポートから空港に向かってください。」
「うひょーい」
「あら豪華」
碧と葵は国会議事堂を出て、一路羽田へと向かった。
──北京・天安門広場──
突如現れた新たな支配階級に対して中国共産党、及びその指揮下にある中国人民解放軍はそれをよしとしておらず、上空に現れた黄龍に対して戦車、兵たちを並べ、しきりに戦闘機を飛ばし威嚇を行っていた。もっとも、撃とうとすれば野菜に代わるのだが。
とりあえず認めない、ということを誇示しているのだろうか。
そんな緊迫した情勢の中、巫女服の女性たちが人民解放軍の方に向かって、いや、正しくは黄龍の方に向かって歩いていく。
「お姉ちゃん、バベルの塔戻して」
人類はバベルの塔を崩されて言語が分かれた、葵は悪魔の力を使って一時的にそれを借り修復して接続することができる。つまり、万能な翻訳ができるのである。
「はいはい、じゃあ、翻訳開始するわよ」
葵が軽く地下の世界に向けて呼びかける。バ・ベルちゃーん、よろしくー。と。
そして葵はさらにあの世から毛沢東を呼び出し説得にあたってもらう。
「ふー……久々の娑婆だ。ちょっと堪能していっても?」
どうやら地下いきだったらしい。まぁやることが派手だったので。
「どうぞどうぞ、ご実家にでも戻られて結構ですし、今の体制に問題があると思うなら一言言ってくださると私たちも助かります」
「助かる」
そして碧達は行進を開始する。
「どうもー、あの世の毛沢東さんからご紹介をいただき、特使としてやってきた碧と葵と申します。ここ通していただけませんかね」
突然現れた巫女二人に驚きながらも、その背後で光っている毛沢東に恐れおののき、道を開ける人民解放軍。中には同志といってついて来ようとするものや泣きだす者もいる。
「OKOK、きっとあなた方は救われますよー」
碧はその様子を見てるんたったと歩いていく。
そして堂々と黄龍の元へと至る。
巨大な、非常に巨大な龍だ。皇帝の威厳を示すものとして扱われていたのも納得できるほどの威容、立派なお鬚が碧の瞳に映る。
「待っていたぞ、巫女らよ。いやはや……」
黄龍は深いため息をつく。
「この国はまこと厄介だな、時代が変わるたびに支配者も変わり、今の時代も多数の民族がひしめき合っている。そして神より人を信じている。変えられるのか?」
光り輝く毛沢東を見ながら黄龍は悩んでいる。
「変えられますよ、神々頼りにしてる文化は未だ多いですし、皆さんの偉大さに気が付いてくだされば」
碧は頑張りましょう! と黄龍の手を取り握手する。
「無責任に思えるかもしれませんが、私も同意です。信仰というものが完全に途絶えていたなら、三国志の関羽様を祀ったりもしませんし」
葵もその通りだと納得している。
「関羽か、奴も今は強く信仰されている神でな、そのためにまた問題を起こしているんだ。かつての三国志の版図でいうなら、今の私ならば魏呉を抑えてもいいだろう。という事を言い出しおってな」
「なんと…!」
「今の中国が力で奪ったチベットやモンゴル、東トルキスタンなどは返還される予定となっている」
「抵抗が続いてる以上、領有権を神が認めなかったわけですね」
葵が冷静に答える。それもそうだろう。
「ゆえに内部の勢力争いが苛烈になっていてな。関羽の三国志的位置取りは看過できないと他の神格化された人物や、英雄も言ってはいるのだが、やはり関羽には一歩劣るといった現状だ、孔明や曹操、劉備などの他の上司が諌めてもいたのだが、聞かなくてな」
かつて関羽は自信過剰に振る舞って捕えられ、そして首を取られたが、そのようなところは死んでも治ってないらしい、馬鹿ならぬ、自信過剰は死んでも治らない……か、と葵はちょっと面白がっている。
いや、大衆にもてはやされる神に祭り上げられれば当然かもしれないが。
「つまり、今の私たちがする事は」
碧が黄龍に確認を取る。今回の旅の第一の目的は。
「関羽を納得させることだな」