世界を変えて
同時刻、某場所。
タタン、タタン……
とある街頭では圧倒的な物量と技術を持つ大国が完璧な劣勢にあるテロリストを丁寧に丁寧に潰して回っていた。しかしそれでも大国側の損害は0ではない。
「くそっ、誰だよ、現代になればこんな地上戦が終わるとか言ってたやつは」
インテリ風味の若い兵士は自嘲気味に尋ねる。
「さぁな、人間結局最後は直接やりあわなきゃ終わらねえだろ。大学出のエリートさんかお前は」
顔に傷を負った20代も半ばの黒人兵士は応えてやる。
「そうだよ悪かったな、頭が良くて、お前みたいに戦場に馴れちゃいないんだよ。職に困って志願した時にはこんなところに回されるなんて夢にも思ってなかったんだよ」
インテリ兵士は荒れながら答える。
「まぁいいじゃないか、ここは金も出る、飯も出る、今じゃ貴重な職場さ……まて、またお客さんか?」
赤いヴェールを深々とかぶった女と少年がこちらに近づいてくる。
ヴェールは体のラインを隠し、何を持っているかわからない、少年は何かチョコレートの箱のようなものを持っている。
「今は戒厳令が出ているのを知らないのか、即時家に戻りなさい」
黒人兵がそう現地の言葉で呼びかける。しかし、ヴェールをかぶった女は一瞬立ち止まるだけで帰る気配はない。
「……この子が、テロリストをやっつけてくれる兵隊さんに、お礼がしたいと……」
ヴェールをかぶった女はそう答えて、子供は何かを差し出そうと、わたわたと歩いてくる。
「近づかないでくれ、今それを受け取ることはできない、近づいたなら撃つ」
「兵隊さん、これ……」
子供はどんどん接近してくる。
「止まれ!!」
さすがに制止する子供、その顔は張り付いた笑顔のままである。
「そこにおいておいてくれ、あとでいただく」
インテリがそう答える、とにかくこの場をとっとと去ってほしい。
「では置いておきますね」
少年は素直にその場に箱を置く。
「ああ、お礼もしたいからその場で少し待っててくれ」
そういって少年が自分の胸から離して地面に置いた後すぐ、黒人兵とインテリは街角に身を隠しながら箱を打ち抜いた。
ッ…あたりの空気、物が一瞬にして吹き飛ばされる。
そして、破片をまき散らしながら爆発炎上した箱、姿を変えた少年と女。
「ぁー……」
インテリが後味悪そうにただぼやく。
「まぁ、こんなもんだ、な」
黒人兵はインテリの肩をたたきながら、慰めてやる。
「いつになったらこんなこと終わるんでしょうね」
「お祈りでもしながら待ってればそのうち終わりが先に来るさ」
──
「人々は疲れ果てている。勝利しても敗北しても、現在の戦争には終わりはない一部の既得権益者のための世でなくす方法、それは?」
(言葉にはできない)キリスト教の神が告げる。
「碧とやら、それを終わらせる手法や如何に」
巨大すぎる威圧感にびりびりと震えながらも、碧は答える。
「戻しましょう。私たちの知性にふさわしい時代まで」
「戻す、とな」
キリスト教の神が興味深げに尋ねる。
「今のこの戦争は人々が信心を忘れ、欲望に走った結果にあるものだとしましょう。しかし、反省し、品格の上昇も見受けられます。ならば、品格はそのままに昔の信心のあり、欲望の薄かった時代へと戻せばよいのです」
人々は欲望を高め、より多くを掴もうと争うことを全員が覚え、競争が激しくなっている。
だが、それを過ぎた時期にあるものは、争うことによって傷つくことや損をする事を知覚する。
さらには、争い自体を忌避することを覚えたものもいる。
そのような良い進化をした部分は見過ごしてはならない。
皆で手を取り合うことができる時はいずれ訪れるはずだ。
「具体的な手法としては?」
「かつて人は夜を恐れ、闇を恐れ、その中に霊を見出していました、けど文明の進歩とともに、皆さんたくさんの方々が利用されるだけになるか忘れられていきました」
会場がざわつく、一部の神は対立宗教によってその姿かたちさえかえられたり、争いでけりおとされたりしたからだ。
「喧嘩はやめてくださいね。人間の私欲の結果で、この世界では本来の姿に戻れるんですから」
その隙をついて碧はちらり、と何かを覗き見ている。
「威厳ある姿、それをとりもどすため、恐れを知っていた私たちへと戻るために、皆様には現世に化身をあらわしていただきたく」
「人よ、それを人任せ……いや、神頼みというのだ」
キリストの神が告げる。だが下位の神はいいじゃねえか、それでと文句を飛ばしている。だから、そこでごり押しに一手を加える。
「いえ、もちろん私たちもただ享受するだけではありません、過剰な欲望を実現することを可能とした産業、兵器で不要なものは棄てさせていただきます」
これには会場がほぅ、とうなった、知識を授ける神などもいたが、人間がそれを利用するやり方には文句があったし、そうでないものにとっても、自分たちが
住処を削られたり、戦争を可能にする大本であったりすることを理解していたからだ。
「ほほう、そこまでいうのなら……猶予を与えてもよいかもしれないな」
キリスト教の神は周囲をぐるっと見回し、告げる。
「いかがですかな、皆様、この者の訴えに協力してやっては」
「どうせまとまらぬ話だ、かまわぬ」「破壊は十分になされた、再生の猶予を授けてもよかろう」
「戦士となるものはまだまだ足りん、というか素質が不足していた、ちょうどよい」
「我が死するまでまだ時間は有り余っている、人に先に滅びられては困るしよい」
「元から滅ぼしたりするのはちょっと反対だったんですよね……」
各界の神からも異論はおよそないようだ。
「では、それぞれの神は各々の予言者、及び霊、代弁者を使って告知を、我々がいきなりあらわれて、人々が驚き、世界の終わりだの吹聴されたり、いきなり銃で撃たれてはたまらんからな、碧とやらも日本に戻り、自らの長に報告するがよい」
そうキリスト教の神が告げると、神々が慌ただしく動き始める。
「ありがとうございます!」
碧は深々と礼をすると、家康と将門、その他日本の神々や、元、人の神々の元に向かってぶいっとサインを放った。
とす。
その緑の頭にいくつか矢や槍が刺さる。
「碧さん、ぶいサインは国によっては挑発や、俺を仕留めてみろポーズです」
ちょっといけない量の血を流しながら倒れている碧を治療しながら、家康が述べる。
「ぞれは知りませんでじたねえ……」