一寸の虫にも
その場の空気が緊張に包まれる。決戦だからでなく魏延を用いたことによる戦術のミスを疑っているからだ。だが、その場において劉備だけはのほほんとしている。
「あれでも我が軍一の勇猛さを誇った魏延と、世界を救った御子なのだろう? 何の心配があろうか」
「で、ですかね」
孔明は今回ばかりは自分の見る目が正しいはずだ、間違いないと考えている。だが勝負は勝負。
目の前でにらみ合った両者に向かって、戦いの開始を告げる。
「では、碧 対 関羽、はじめぃ!」
碧は魏延を懐にしまい込むと憑依はせずそのまま突っ込んでいく。関羽は葵と同じく待ちで来ると思っていたのか、一手対応が遅れ、碧の拳に対して手をクロスさせてのガードになる。
「ぬっ!」
ただの人間にしては重すぎる一撃に関羽はそのまま10mほど後ずさりする。
そのままラッシュを加えようとする碧に対して、これは危険だと判断した関羽は己の気を思い切りに高めて大声で一喝し、碧の動きを止める。
「うっさいなぁ!」
動きを止めざまに振り下ろされた青龍偃月刀の一撃を碧はあえて吹き飛ばされてかわす。
追撃に来た関羽に対して、碧はニヤリ……と笑った。
だが、笑っただけで一撃は入った。
「あいてててててて! でもただじゃないよ」
思いっきり足と腕で青龍偃月刀を挟み込み、たたき割る碧。
「あいててて、とな、私のこの姿での全力の一撃をそれですますか……」
碧には多少の切り傷ができた程度で、関羽のプライドを傷つける。
「やるじゃねえかあいつ!」
斉天大聖が驚きながら葵に向かって言う、しかし葵の顔はまだ真剣そのものだ。
「真の姿、相手にどこまでできるかだけどね」
「真の姿?」
「まだ過去の人であった時の状態を保っているわ。今の神となった時の姿を出して来たらわからないわよ」
「俺の大猿状態みたいなものか」
「そんなところね」
そして、関羽は本気の姿を出してくる様子だ。
ビリビリビリ空気が揺れる。ジリジリジリ大地が震える。
そしてあらわれたのは大きさ10mほどの顔が3つ、手が6本ある阿修羅のような姿。
「来ましたね」
碧が冷や汗をかく。見た目だけでなく、力が大きく膨れ上がったのを感じたからだ。
「さぁ、おなごよ、ここからが本番だ」
巨大化したとは思えない、元の姿と同じような素早さ、いや、大きくなった分速くなった勢いで関羽が突っ込んでくる、そして増えた手で碧にその体重が乗った一撃一撃を加えようとする。
「さすがに当たったら痛すぎる! 避ける!」
碧はなんとかかわそうとするが、いかんせん手数が多すぎる。いなしていくのにも限界がある。
一撃、防御ごしにだが貰ってしまった。
地面に思いっきりめり込む碧、ガードした手は大きく痺れしばらく使えそうにない。
「こりゃこっちも奥の手使わないと無理だね、魏延!」
「あいよっ!」
どうやら憑依させるらしい。
眩い光があたりを包み込む!
すると、碧の姿が消えた。
困惑する一同、関羽も見失っているようで、攻撃の手がやむ。
「おのれ、どこへ行った、敵前逃亡とは見苦し…い…むごっ!?」
叫ぶ関羽だが、その様子がおかしい。
「むっ、ぐおっ、なん、だ、これは!?」
(私だったらいるよ、小さくなってあなたのすぐそばにねー、ていていていていていていていてい)
「うごっうごっ」
(私、碧さん、今あなたの中にいるの)
「なんだと!?」
(いくら鍛えた神様でも内臓までは鍛えられないでしょう、さあて、いつまで耐えられるかな、あ、戻そうとか思っても無駄だよ、私踏ん張るから)
「お、おのれ」
(これぞ一寸法師戦法ってね! そーれ蹴り、蹴り、そろそろ手も回復してきたしついでにパンチ!)
「こ、こうなれば腹を割いて引っ張り出してくれる」
(え、怖い、攻撃するのやめて移動しようっと)
「ぬうううううう」
(このまま移動しながら殴り続けるけど、どうする?)
「……参った」
(いよっしゃ)
孔明が困惑しながらも判定を降す。
「勝者、碧!」
「やったよお姉ちゃん!」
「寄るな」
「えっ」
「今の自分の状況を考えて、思いっきり体液だらけなのよ!」
「……お、お風呂入ってきますぅ」
「関羽!」
劉備と張飛が駆け寄る。
「申し訳ない義兄弟、負けてしまいました」
「馬鹿だねお前は、そんな覇権よりも、私はお前と一緒に入れることの方が嬉しいのに」
劉備はいう。張飛も続ける。
「そうそう、兄貴と飲む酒じゃないとうまくねえしな」
「こんなバカをまとめられるのはあなたぐらいのものです。早く帰って来てください」
孔明もそういって帰還を促す。
「世の中は広い……あのような女子がいるとは……それに、こうまでして頼まれたら断れませんね。わかりました。帰りましょう」
関羽は帰ってくれるつもりになったようだ、とりあえずこれで第一の目的は達成された。
「では、呉での後処理が終わったら、帰りましょうか、成都へ……」
葵はそう述べて、後片付け要員を呼び出し始めた。
「あーん、臭い取れないよ……」
碧はコンビニでミネラルウォーターを買いまくって体をごしごしと洗っていた。
──成都──
「では名残惜しいが、碧に葵二人とも達者でな」
劉備が手を握り別れを惜しんでくれる。
「今度来たときは酒を飲みかわそうぜ」
「新しい発明品、現代技術で作れるよう努力しますので、ぜひ見に来てくださいね」
張飛と孔明も、そして。
「思い上がりを正してくれて感謝するお二方、今度いらっしゃったときはまた腕比べしたいものだな」
関羽も送り出してくれた。
「魏延、なんか背が伸びたんじゃない?」
「ああ、さっきの騒動で少し有名になったからかね」
「やったじゃん、広まれば人間サイズになれるかもだよ」
「いいねえ!」
そんな碧と魏延に対して孔明が話しかける。
「反骨の相などと疑って悪かった、歴史書を見ると扱いの関係で裏切っただけで、ほぼ最後まで蜀に尽くしてくれたという話だったらしいではないか」
「今更遅い……だが、そういってくれると少しは報われる」
魏延は過去のつらい日々を思い出し、少し泣いた。
「じゃーねー、蜀の皆ー」
「またお会いしましょう」
……
「さてはて…あれ、何か忘れてるような」
「あの金食い虫毛沢東をホテルからひきあげるのよ、共産党に面倒見てもらいましょう」
「お、来たか、パソコンっていうのは本当にいいものだな、しかし金門、これはいけない……見れないではないか、色々と」
(エロサイトかな)
葵は突っ込もうと思ったがやめておいた。
「とりあえずいつまでもホテル暮らしというわけにもいきませんし、いったん北京に戻ります。ご同行を」
──北京──
「というわけで黄龍さん、まとめてまいりました」
「ご苦労であった。とりあえず今このあたりにいるもので相談しあった結果、英霊、神、人による議会制を取ろうという話になっておってな、各地の主要な人物に文を送っている。これならば角も立つまい」
「そうですね、独裁はまずできないでしょうし、現状もよくなっていくかと」
葵が述べる。
「日本に戻り、天宮に報告するがよかろう」
黄龍がそう述べる
「はー、また忙しい日々か……」
毛沢東はもうたくさんだとがっくりしていた。
──神魔対策室──
「二人ともよくやってくれました。これで中国はゆったりとまとまっていくでしょう」
「あい!」
「お褒めに預かり光栄です」
天宮は緊張を緩めずに言葉を続ける。
「しかし問題は山積みです。中国同様の国、戦争、難民、飢饉、砂漠化、水源汚染、環境破壊など、それらを解決しきるまではわれらの仕事に終わりはありません。今後とも励んでください」
「はあい!」
「了解です」
色々と失敗してしまいました。初の三人称の練習なのに、登場人物がものすごく多かったこと、そして、説明の必要な神や英雄ばかり出したこと、読者の理解がまず追いつかない、説明をするにも実力が足りない、そんな生焼けの料理を出してしまったと思います。設定自体は好きなので連載終了にはせずに、たまに思い出したように神様単独での語りはするかもしれませんが、いったんこの作品は終了して、一人称の練習に戻ることとします。