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瓢箪から魏延

 床に現在の地図を広げると武将たちが感心して見に来る。


「ほほぅ、現在の地図は正確じゃのぅ」


「全くですな、これさえあれば万軍に値、いや、匹敵するものなき武器かと」


 劉備と孔明が感心してのぞき込んでいるところに、葵が現在の状況を問いかける。


「関羽様は今いずこにいらっしゃいますか、斉天大聖が勝負を挑んだのは神の世界から降りてきた時でそこで取りのがしてからは行方がしれないのです」


 神となってから最も力が安定するのは自身の祀られているところなのだが、中国で関羽を祀るところはおおよそ人の通りも霊の通りも多い。それなのに見つからないのだ。


「隠密で行動してるとすれば考えられることはいくつかありますが、考えやすいのは奇襲ですな」


「奇襲ですか」


 孔明が葵の質問に答え、地図上をなぞる。


「ええ、彼を降した孫権軍あたりが考えやすいですかね。私怨もあるし、呉を散り散りにしたのちは力関係は大きく崩れます、三国志時代だけでいえば魏が私たちをはるかに上回る、そうすれば関羽は私たちが自分に助力を求めざるをえなくなり、きっとついてきてくれるなどと考えているのではないかと」


「じゃあ、急がないと孫権さん危ないじゃない!」


 碧が孔明の話を聞いてわたわた焦る。


「そうね、斉天大聖、ちょっとここの軍勢乗れる雲用意しなさいよ!」


「んなもんねーよ! あー、でも、金閣と銀閣に頼んでアレ借りてみれば」


「アレって……まさか呼びかけた相手が返事をすると中に吸い込んで溶かしてしまう瓢箪の紅葫……」


 葵がゾッとする。


「大丈夫大丈夫、ゆっくりだから、すぐだから」


「なにがゆっくりでなにがすぐなの!」


「ああ、とけるのゆっくりで、つくのがすぐね。筋斗雲本気出せば6万500kmでるから、溶ける間もなくすぐに関羽に追いつけるよ」


「光速の20%ってなによそれ…ちょっと手加減しないと何か凄いことが起きそうよ」


「まぁ任せておきなって、加減は散々に学んでるから」


「わ、わかったわ、しかし関羽どれだけ強くなってるのかしら、この猿に勝つなんて……とりあえず銀閣・金閣を呼び出すわ、とっとと借りていきましょう」


 葵が地面をトントン、と叩くと、方陣が展開され、二人の魔王の姿があらわれる。


「我らを呼び出すとは何者ぞ……と、ずいぶん多いな、それに斉天大聖?」


 強面の武者のような姿をした金色の魔王はいささか戸惑っている。


「久しぶりだな金閣、ちょっと頼みたいことがあってそこの巫女姿の人間に呼び出してもらったんだ」


「初めまして、葵と申します」


「久しいな、太上老君から話は聞いている、人間に負けたのだとな、まぁ、わが君も負けたのだがな……」


 銀色の魔王の武者はしょげている。


「ああ、そいつに一泡吹かせに行くために瓢箪貸してほしいんだ」


「構わんが、それで勝ってもあまり自慢にはならんぞ」


 金閣が斉天大聖の問いに答える。


「あ、その手があったか。関羽って呼べば一発か」


「その勝ち方だとクレームつくから駄目です」


 葵がNGを出す。


「小さくなっての大勢での移動用に使いたいんです」


「なるほどなるほど、ならば思う存分に使ってくれ」


 さて、金閣・銀閣から借りたる瓢箪によって、碧と葵と武将たちは斉天大聖の雲で、呉の本拠地、南京付近へひとっとび。そしていざ南京といったところで、巨大なプレッシャーと、数多くの霊を斉天大聖は感じ取った。


「……出たな! 奴さん!」


 斉天大聖は一気に碧たちを呼び出した!


「雑兵どもは散れ、我が覇道を妨げるものは容赦なく斬る!」


 関羽は南京を守る呉の兵士と現代の軍隊を相手に大立ち回りを演じていた。その勢いは尋常ではなくまさしく無双。吹く息で吹き飛ぶ戦車、槍の一突きの衝撃波で落ちる戦闘ヘリ、関羽を一時苦しめた英霊、陸遜でさえも軽々と吹き飛ばしてしまう。頭巾の乱れもその美しき髭の乱れも服装の乱れも傷も一切ない。まさしく武神。


 たまらず孫権が逃げ出すところを力の動きで察知して、ズシンズシンと追ってくる様はまさしくガッジィラ。


「お待ちなさい、関羽、私たちがお相手いたします!」


 孫権への道を塞ぐように立ち塞がるものの姿がある。


 碧、葵、斉天大聖、劉備、張飛、孔明、ついでに魏延である!


 他の武将は関平など関羽についたであろう武将の奇襲を警戒して孫権の警護に回している。


「おお義兄弟に孔明殿、私と共に覇道をとなえに?」


「いや」

「うんにゃ」

「違います」

 同時にこたえる劉備、張飛、孔明。


「やはりそう申されると……しかし私の力をご覧になれば考えも変わりましょう」


 見慣れぬ碧と葵、そして以前も邪魔をした斉天大聖に殺気が突き刺さる。


「待って」


 葵がストップをかける。


「どうした怖気づいたか」


「違うわよ、3対1は卑怯だ。と後で言われないようにするために1:1で戦っていくのを所望するわ、もちろんこちらが負けたら霊力の回復も行ってから再試合よ」


「ふっ、なかなかに気持ちのいいお嬢さんだ、その提案受けよう」


 葵の提案に関羽がのってくる。


「で、誰から来るのだ」


「ハーイ、私、私!」


 緑が手をあげるが葵はそれを制して前に出る。


「あんたは後よ」


 翠は自身に神を憑依させて相手に合わせた戦い方ができるタイプ、それに比べて自分は召喚はできるが地力では劣る。まずは自分が出て関羽の手の内を翠に見せるべきであろう。そう考えたのだ。


「何よ、お姉ちゃんがでたら私のいいところないかもしれないじゃん!」


 ないかもしれない、つまりは、私だとやりようによっては負けるかもしれない程の相手ということだ。碧は感覚でそれをわかってる。


「あんた、自分が出たら勝てる自信ある?」


「うーん、まだなんとも」


「じゃ、ダメ」


「はいー……」


 葵vs関羽


「ではよろしくお願いします」


「手加減は一切せんので、降参するなら早いうちにな」


 一見か弱い女性の葵に対して、関羽は油断も隙も無い。


 これは手厳しい、と葵が苦笑いしたところで、孔明が軍配を振り上げて下す!


「はじめぃ!」


「まずは様子見……ひっ」


 完全に回避姿勢をとって式を呼び出す構えをとっていた葵に完全なレンジ外から衝撃波が飛んでくる。


 だが、青井の体を守る装束と葵のタフネスは衝撃波程度では破れない。しかし、体勢を崩したところに関羽は神速でもって近づき青龍偃月刀で防御を突き崩す。


(さすが関羽殿、素早い、でもね)


 葵が手に持つのは物理の衝撃を反射する札2枚。


 一枚目で関羽の体勢を大きく崩し、2枚目で、関羽が葵に叩き込むはずだった一撃の痛みを分け与えてやる。


「ぬぉおおお!」


 関羽が顔を歪める。


「なによ、それだけ!? 今の私が与えた手ごたえだと、即死って感じのダメージだったんだけど」


「ハハハ、鍛え方が足りんのだよ」


 余裕の言葉をもって返してくる関羽。だが、足に来ている様子も見える。


 今が攻め時だろう。と葵は判断した。葵の袖より札が出でて、関羽の周りを取り巻いていく。


 関羽は移動して回避を行おうとするが、札の追跡を振り切れない状況だ。


「さぁて、何がどんな札でしょう、わかるのは私だけ」


「小癪な、切り裂いて……ぬぉっ!」


「おおっと、地雷でしたね」


 葵は余裕を見せている。この状況に持ち込めれば大抵の相手は足を止めて混乱するのみだ、そのあとはこの中にある攻撃的な札で痛みを与えていけばいい。


 しかし、関羽は想定外の行動に出てきた。


 歩くと爆発したり、拘束を行う系の札の効果をくらい、振り切りながら、葵に向かって突き進んできたのである。


「えっ、ちょっと、こっち来ないでよ」


 想定外の動きに葵は拘束札を一気に投げつける。


 関羽はそれを待っていた、と言わんばかりに槍の衝撃波でそれを散らす。


 そして猛然と突撃してくる関羽、葵は小刀で青龍偃月刀の一撃を防ぐが、めりめりと地面にめり込んでいく、そして、自分でまいた札を発動しようにも発動できない距離まで詰められてしまった葵。


 発動してもいいが、おそらく自分だけが立てない状況に陥るだろう。


 そしてこのままでは自分が首を切られるだけだ。


「降参よ……」


 葵は負けを認め、周囲の札を手元に戻した。


「うむ、なかなかできるなお嬢さん、しかし技に頼りすぎだ」


「返す言葉がないわ……とりあえずこれをどうぞ。ソーマ水よ、これで全快できるでしょう」


「よきかなよきかな、さて、お次は碧とやらかな?」


「あい! 準備もOKですよ!」


 さて、碧は何を憑依させるつもりで戦うのかしら、深く信仰されている西王母あたりかしら?


「憑依するのはこの小さなおっさんこと魏延です!」


 ……は?


 場の空気が凍り付いた。


「そんな霊力も信仰もない裏切者をつけて何になるのだ」


 関羽はストレートな疑問を口にする。


「う、うるさい、俺は裏切り者じゃないし武力はある。だがなんで選んでくれたのかはさっぱりわからねえ!」


「お前もわからないのか!」


 碧以外の一同から強烈な突込みが入る。


「エヘヘ、まぁみててよ、私にだって考えはあるんだから」


 当の碧は自信ありげにいうが、正味誰もかれもが疑問と不安を隠しきれなかった。

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