かつての世界
テロ、紛争、戦争が日常的に発生している。
世界が争いの渦に巻き込まれつつある中、軍事的レベルの高い国々と接し太平洋へ出る港。
そんな重要性が高い位置にある日本は、奇跡的に相互の国々のにらみ合いとけん制下に置かれるだけで済んでいた。
その間に日本が行うことは……交渉のテーブルを用意し、ただただシェルターを建造し、防衛用に兵器を強化し核保有をチラつかせることによって、無言の圧力といった保身に走ることのみであった。
もういつ第三次世界大戦が発生してもおかしくない。
さて
そんな地上のらんちき騒ぎに頭を痛めた者たちによって、比較的平和で中立な東京の上層部でまた別の話し合いが行われていた。
各国の神々が集まって、この騒ぎにどう決着をつけるか話し合っているのである。
会場となった場所は広大なる亜空間。
普通の人々からは観測できないであろうが、その手のものには日本を包み込むぽっかりと開いた大玉が見え、戦慄を禁じ得ないであろう。
しかし、神々の話し合いは難航していた。
一大勢力のキリスト教の天使たちは「最後の審判」を行い、前者と悪を分けるべきだという。
しかし、反対勢力のイスラム教の(言葉にできない)は互いに、最後の審判では我らを貶める気であろう、とカウンターを行い決着がつかない。
仏教も勢力が分かれ、習合が進んだ結果、話し合いがまとまらず。
ギリシャやヒンドゥなど世界自体が一度滅びて再生する派はどの派閥からもダメ出しを受けて、なんだと? と一触即発状態である。
地霊や伝承などから来ている神々も参加してはいるがそもそも世界をどうこうしようというつもりもないものがほとんどだ。滅ぼしたり、裁きを行うべきではないという意見が一般的。
「──各国の神で分割して裁きを下すのが一番合理的であろうな、その後、我らが降臨し人々に啓示を与える」
と、声には出せないキリスト教の唯一の神が重い口を開く。
「それしかないか?」「寂しくなるなぁ」
「ならば納得もしようが…」「いや、顔の人が言うなら仕方ないけど」
「たくさん人いなくなるね」「地獄は満員になるな」
「やだなーでも領地内か」「領地内ならば仕方なし」
会場の各神々はざわつくが、支配地域のうちうちで行うことだ。異議を唱える者はいない。
このままでは人間は神々の判断によって処分されてしまうこととなる。
そんな重たい空気に包まれた会場のドアをバタン! と開き、殴り込みをかける者がいた!
「いいえ、そんなことはこの碧、納得がいきません!」
大きな声で威風堂々と叫ぶ、この日本人女性は輝くエメラルドの瞳をしており、新緑の若々しい色に染まった髪をしている、短くまとめたおさげが巫女服に映える、何よりも渋く輝かせているのはそこに構えている日本刀だが。
「女、人間だな! 何故入ってこれる、この場は神々しか入れぬはず」
守衛を行っていたギリシャの守護神アテナが早々と踏み込むと闖入者へ槍を突き付け問いかける。
だが、その問いかけには別のものが応えた。
「まぁまぁ槍をお納めください。私たちが招待しました。何やら面白い提案があるとの事なので」
死後、神として祀られるようになった徳川家康がそう答え。アテナに歩み寄る。
「関東を守護するものとして、人が愚かなれど未だに矯正の余地があるというならば試したい」
同じく死後祀られるようになり東の国を守護する平将門公もそう述べ。巫女を自らのもとへと案内する。そして、刀を巫女から返してもらっている。
どうやら門を破ったのはマサカド公の神力によるものらしい。その途端、巫女の新緑の髪色は元の人らしい黒き髪色、瞳へと変化する。どうやら人であるべき姿へと戻ったらしい。
「──なるほど、将門公の差し金であったか、そして提案と申したな、しかし、この会場にいるものすべてに響くものでなければそれは認められないぞ?」
キリストの神はそういい、碧を会場の中心へと移動させる。どうやら発言が認められたらしい。
「わかっております。私の提案とは……」
てくてくと歩いていくと巫女の碧は物怖じせずに答える。