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【2】new order

【2】new order


 階下を臨む最上階にその部屋はあった。

 局長の趣味だろうか、少なくない数の観賞用植物が部屋に彩りを施している。部屋にある大きな水槽には小魚が照明の光を反射しキラキラと光っていた。


 ――いつ来ても代わり映えしない部屋だ。


 部屋の主は先ほどからコポコポと忙しなく音を立てるコーヒーメーカーの前から動こうとしない。


 仄かにコーヒーの香りが部屋に漂い始める。



「――それで、話というのは何ですか?

 園堂局長」



 楓の問いかけに局長、園堂えんどう 修司しゅうじはにっこりと微笑んだ。



「ちょっと、待ってくれたまえよ」



 修司は白いカップに黒い液体を注ぎ始めた。なみなみと注がれたそれはコントラストを成し今にも溢れそうだ。修司は慌てて口で掬った。


 一口。



「ああ、んまい」



 続けて、



「ああ、そうそう。話だったよね」



 そう言って再び笑みを浮かべた。




 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□




 楓は少し困っていた。

 何時まで経っても本題が始まらない。


 目の前の局長は絶え間なく話し続け彼の口が閉じる事はない。


 内容は些細なもので、家のペットの事、観賞用植物の種類の事、魚の飼い方など。

 後は長すぎて覚えていない。


 かれこれ30分はこんな状態だった。


 楓は適当に相槌を打っていたが、教隆の方は、ぼうと外を眺めていただけだった。


 局長の話はいつも関係の無い話題から始まる。

 でも、もうそろそろ終わるだろう。



「――なんだよね」



 ふうと、一息つき、局長はゆっくりとコーヒーを煽った。


 隣の教隆が小さく、やっと終わった、と呟きつつ一言告げた。



「局長。そろそろ本題をお願いします」


「……本題?」



 本題、本題と局長は口の中でその言葉を何度も反芻した。



「ああ、ああ。任務の件だね。

 すまないね。すっかり忘れていたよ」


「局長。しっかりしてください」



 教隆は呆れるようにそう諌めた。

 局長は照れ笑いを浮かべつつ、いやぁ、歳だね、と呟いている。



「さて、本題に入ろうかな」



 楓は自分の顔が引き締まるのを感じた。

 次の任務だ。



「本題って言うのは、楓君の次の任務についてなんだよね」


「はい。そこまでは副局長から伺っております」


「ああ、そうか。なら詳細だね」



 局長はガサゴソと自身のデスクを探り、1枚の紙を取り出した。



「君の次の任務は些か特殊なんだ。

 まあ、凄く簡単に言うと兵器の開発……いや、ちょっと違うかな」



 まあ、見た方が早いかな、と続けその紙を楓に手渡した。



「……対seven 人造ヒト型兵器……」



 冒頭にはそうあった。


 seven。

 それは突然に現れた異形。

 特異器官によってmagicマジックと呼ばれる特異能力を起こし人を殺戮する。

 人類の敵。



「そうそう。sevenを基にして産み出した新しい兵器さ」



 ――兵器。


 上から順を追っていく。

 対seven 人造ヒト型兵器

eveイブ


 女性型のフォルムを持ち、右肩からmagic媒体である特異器官を形成。

 極めて強力なmagicを持ち戦闘能力は計り知れない。


 文字はそこで終わっていた。


 これじゃあ、全然情報が足りない。



「流石にそれだけじゃ、何するのか分からないよね」


「はい」



 だよね、と局長は呟いた。


 兵器の開発だと言っていたけど。



「単刀直入に言うとね、

 その兵器を育てて欲しいんだよね」


「育てる……ですか」



 なるほど。確かに兵器開発だ。



「ああ、混乱するのは分かるよ。僕も少し唐突すぎたね。

 その兵器は産まれたての赤ん坊なんだ。だから教育もまだ成ってないし、何より兵器として役に立たない。だから君にはね――」



 その先は分かっていた。



「――つまり、自分に父親と成れ。

 ということ、ですよね」



 その言葉を聴いて局長はにっこりと微笑んだ。



「そうだよ。

 まあ、この先は地下の研究室に行ってからにしよう」



 そう言うと、局長は何処かに連絡を取り何言か話した後、じゃあ、行こうか、と言って楓たちを催促した。

 どうやら今から会いに行くらしい。



 教隆はいつの間にか、外で待機していた。彼は既に行き先を知っているらしく迷いなく先頭を進んでいる。



「ああ、そうだーー」



 前を行く局長が何か思い出したように楓に言う。



「今から楓君はあれの父親役になる訳だけど――」


「――危なかったりしたら、即刻射殺して構わないからね――」



 その言葉を残し、微笑んだ局長はくるりと前を向いて再び歩き出した。


 楓の耳にはずっとその言葉がこびり付き離れなかった。


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