海の上
「要するに、家事を手伝えばいいんですか?」
「違う、水夫だ。その他、様々な雑用もしてもらうぞ」
彼女を動きやすい服に着換えさせると、俺は代価について提案した。
その際に涙目で睨まれたりしたが、そこまで一方的な条件だったろうか。
「それで、具体的には何を?」
そう問いかけてくる彼女に対して、まずは部屋の掃除をお願いすると、俺は航海の準備に取り掛かる。
短い旅だが、食糧の準備や船の整備など、やるべき事は多い。
活気のある港町だし、ついでに商売の準備もしておきたい。
俺は家のことは彼女に任せて、準備に専念することにした。
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「味付けが濃いですか?すみませんが、自分で調整してください。」
こいつと海に出てから幾日か経過し、気付いた事がある。
「掃除をしますから、甲板に出ていてください。」
どうやら、俺の船は乗っ取りを受けているようだ。
一度、彼女に真意を確認してみた。しかし、「くだらないこと言ってないで、さっさと甲板に出てください。」と軽くあしらわれてしまった。
順調に進む船の上、今日も俺はお天道様にじりじりと焼かれながら、手慰みに釣り糸を垂らす。
ぼんやりと遠くを見ていた俺の目に、不吉なものがちらつく。
おぼろげにしか見えなかったが、あの悪趣味な船影は間違いない。
俺は舌打ちをすると、慌てて船内に戻る。
彼女が不満そうな声を上げるのを無視して、おもむろに梶を切る。
彼女も俺の只ならぬ雰囲気に気が付いたのだろう。
いつの間にか、じっと息を潜めて俺を見つめていた。
船影が離れていったのを確認し、俺は胸に詰まっていたものをゆっくりと吐き出した。
事態を察したのか、彼女が泣き出しそうな謝罪の言葉を口にし始める。
俺はそんな彼女に大丈夫だと言う代わりに、ぽんっと頭に手を置いた。