鑑賞用
「あんたはなんで船に乗りたいんだい?」
私の隣に腰を下ろすと、彼は私に対して問いかけてきました。
「その…海の向こうへ渡りたくて……」
私の答えに対し、彼の視線が更なる質問を投げ掛けているのを感じます。
私はキュッと口元を引き絞ると、力を込めて再び口を開きました
「この翼では飛べないんです。私は『鑑賞用』でしたから。」
綺麗に風切り羽が切り揃えられた羽を広げて、私は震える声で話し始めました。
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私の話を聞き終えると、彼は「そうか」と一言だけ答えました。
小屋の中が、重苦しい静寂に包まれます。
「あ、あのっ」
静寂を破ったのは私でした。
私は彼に正直に白状します。
「ごめんなさい。私は貴方を厄介ごとに巻き込もうとしている上に、謝礼金もお支払い出来ないんです。
だから、その、明日にはここを……」
だんだん声が小さくなっていく私の言葉を遮り、彼は驚くことを言い出しました。
「金が無けりゃ、身体で払ってもらうしかねえな」
その言葉を聞いて、頬が熱くなるのを感じます。
それはつまり、事情を知ってなお、私を助けてくれるということ?
いや、それよりも『身体で払う』っていうのは、つまり……。
思わず彼の顔へと視線を向けると、彼は「ひらひらした服は邪魔になるな」なんて物騒なことを呟きながら考え込んでいました。
「よし、それじゃあ前払いで頼む。ちょっと待ってろよ。」
そう言って部屋を後にする彼の後ろ姿を、私はごくりと唾を飲み込みながら見送ることしか出来ませんでした。