第1話「酒は飲んでものまれるな」前編
大学のサークルの飲み会に参加したことを今日ばかりは本当に後悔していた。思わずため息が出る。
「おい高橋、何で俺の顔見てため息つくんだよ。」
「…言わなきゃ分からないんですか?木崎さん。」
ひどい!と泣き真似をする木崎さんを無視して、周りを見渡すとそりゃあもう酷い光景しかなかった。
阿鼻叫喚、とでも言うのだろうか。酔い狂う男女の絡みほど見るに耐えないものはないと思う。
「高橋ー、そんな顔すんなよ。悪かったって!せっかくのデートを台無しにして!」
「分かってるじゃないですか。どうです?今から舌でも抜いて俺に詫びますか?」
「閻魔様!?」
そう言って逃げようとする木崎さんを尻目に、俺は外に行こうとした。
「高橋くーん。」
げ、という言葉を飲み込んだ俺を誰か褒めてほしい。入り口の前には一歳上の黒川先輩がいた。厄介な人に捕まってしまった。
「お前、今すっげぇ嫌そうな顔したな。あん?」
「いえ…そんなことは…。」
早く外に行かせてくれよ、心の中でそう願うがそれが叶わないことなんてこの人に遭遇した時点で分かっている。
「よし、まだ飲み足りないんだな。分かった分かった。」
いや、分かってないよ。
「木崎!高橋に酒飲ませてやれ。」
「はぁ?偉そうに命令するなぼけ!」
「は、ちょ、っと!」
黒川先輩が無理矢理俺をさっきまでいたテーブルに引っ張った、というか引きずっていった。無理矢理座らされて俺は口許にグラスを持ってこられた。
「おら、飲めよー。」
「だから飲みませんって。」
「黒川ー、こいつ彼女とのデートおじゃんになって機嫌わりーよ。」
ケラケラ笑いながらそう言う木崎さんをキッと睨んで黙らせる。プライバシーの侵害で訴えようか。
「黒川さん、木崎さんがさっき黒川さんの髪型変だよなって言ってました。」
「なっ!てめ、それ!」
「あぁ?!てめーに言われたかねーよ!てめーも髪型変だぞ!」
「ああん?お前の方が変だよ!お前のは寝癖かセットしてんのかわかんねーよ!ばーか!」
「頭の悪い受け答えだなお前。」
よし、この隙に帰ろう。お金は…、木崎さんが何とかするだろう。俺はそうっと立ち上がった。
「おい高橋くーん。逃げられると思ってんのか?あん?」
ガシッと肩を二人から掴まれたのが分かった。ああ、今日の占いのお姉さん恨む。何が第一位だよ。
「すみませ、?!ごほっ!ごほっ!」
振り返った瞬間、グラスを口に持ってこられて傾けられたので思わず飲んでしまった。少し噎せていると体がカーっと熱くなるのが分かった。
「ごほっ、これ何のお酒っ、ですか?」
「黒川特製『これで足腰たたなくなっちゃうぞ☆』カクテルだけど?アルコール度数は、23%?」
何というネーミングセンスだろうか。って、ちょっと待て。頭がグラグラ…、してきた。
「これ、やば…」
本気で足腰たたなくなるぞこれ。…やばい、ふわふわしてきた。何か気持ちいいし。
「…木崎しゃん。」
「しゃん?…って、ちょ、おい!」
俺はさっきの飲みかけのお酒を飲み干した。さらにふわふわしてきて、もっとお酒をのみたくなった。
「お酒、もうないんですかっ…。木崎しゃん。」
「おい、もうやめといたほうが…。」
「いいじゃねえか、本人が飲みたいって言ってんだから!ほら、酒飲め飲め!!」
…なにはなしてるか、わかんない。ふわふわした状態で俺はとりあえず黒川さんが持ってきたお酒をふんだくって飲み干してみた。
「あ…」
ぷつん、と何が切れた音がした。
「ちょ、高橋!?」
「え、まじかよ。」
体に力が入らなくなると同時に俺は意識を手放した。