冒険者 仕事する
そろそろ西に月が傾きはじめていた。
月光の中、長い首をそらして派手な七色の羽を揺らしながら、レインボーフェザードラゴンの群れがゆっくりと草原を進んでいく。
その姿はある意味神秘的で、発見した人物が『ドラゴン』と名づけたのも解るような気がした。
「カメリア、ユライアさんの護衛を頼む」
「あいよ!」
小声で出した命令に、カメリアはにっと笑って親指を立てた。
野営場所でカメリアと戦闘能力のないユライアさんは待機だ。
ここからは、私と魔法の使い手、アイリスとリリーの仕事となる。
作戦はいたって単純。
やっかいな『迷いの森』から出てきたレインボーフェザードラゴンの群れに、リリーが呼び出す光の精霊で気をそらす。
その隙に風下から素早く近づく。
アイリスが古代魔法の『眠りの雲』の呪文をかける。
その後、眠らなかったレインボーを蹴散らして追い払い、眠り込んでいる鳥を生きたまま捕まえる。
食材にするなら、なるべく新鮮なままがいい。
それなら生け捕りが一番だ。
人間相手だとこんな手は使えないが、今回の相手はなんといっても『鳥』だ。
作戦は単純な方が、間違いがなくていい。
「リリー、光の精霊を呼び出して、あいつらの気をそらしてくれ。
その隙に距離を詰める」
「わかりましたわ」
リリーが両手を向かい合わせて、呪文を唱える。
両掌の中心に、ぼおっとした青白い燐光が現れた。
精霊界から呼び出した、光の精霊の鬼火だ。
「さあ、あちらの鳥の所まで飛んでおゆきなさい」
彼女は両手を空に突き上げて、鬼火を解き放った。
それはリリーの意志に従って、まっすぐに鳥の群れに向かってゆく。
五羽のレインボーは、私の予測どおりに鬼火に気をとられて足を止めた。
「さ、行くよ!アイリス」
「承知!」
私と魔法使いは、最速でもって突進した。
走ると同時に、冷たい夜気が私の頬をなでる。
覚醒した闘争本能で上気した肌に、それが心地良い。
あれこれとユライアさんにペースを乱されたが、やっと自分らしく冒険者らしく仕事ができる。
冒険という仕事をこなしてこその冒険者。
私の心は高揚していた。
自分の剣を抜き放って、戦いに備えた。
傍らを走るアイリスが、魔法の杖を翳す。
いよいよ呪文を解き放つようだ。
鬼火に気をとられた群れは、思惑通りに混乱をきたして鋭い声をあげていた。
「ケエエェエエエェ~~」
美しい姿に似合わない、なにやら情けなくてけたたましい声だ。
リリーの操る鬼火は、ふわりふわりと鳥の間を漂っている。
淡い月光の中、虹色の尾羽を全開にして鬼火に蹴りかかる五羽のレインボーは、声さえなかったら美しい舞を見ているようだった。
その全てを裏切っているのが、なんともいえない鳴き声だったが・・・。
アイリスは足を止めて、いくつかの動作を行い『眠りの雲』の呪文を発動した。
『世界に宿る魔法の力よ。私の言葉に従って、眠りを誘う雲となれ』
古代魔法語でそう唱え、魔法の杖をレインボーの群れに向かって振り下ろす。
その杖の先端から、白い煙がまっすぐに鳥の群れに向かっていく。
呪文が完成され、発動したのだ。
頭上に漂う鬼火に気をとられた鳥たちを、白い煙が取り巻いた。
『眠れ』
アイリスが古代語でそう断言する。
それと同時に5羽のうち、2羽のレインボーフェザードラゴンが地面に蹲った。
残り3羽は、呆然と立ち尽くしている。
「ここからはローザの役目だ」
と、リリーガ宣言する。
「任せろ!」
私はおきている鳥を追い払うために、そちらの方向へ駆け出していった。