れいんぼーちゃん 出現
メイド部隊が『ゲートの壷』を使って、帰還したあと、脱力していた私たちはなんとか気力をふりしぼって目的地までやってきた。
いよいよ、本来の目的である「レインボーちゃん」捕獲作戦だ。
レインボーフェザードラゴンが生息するという『迷いの森』は、みるからに鬱蒼と茂った不気味で広大な森だった。
夕暮れ時。
森をねぐらとする様々な鳥が、さかんに飛び交って鳴き交わしている。
鮮やかな夕焼けを背景に、暗く広がる広大な森は好対照をなして私の心に不安を与えた。
「いよいよか・・・」
「ローザ、これからどうする?」
カメリアが聞いてくる。
彼女もこの森に不安を煽られたようだ。
眉を顰めて、じっと森を見つめていた。
「今晩はずっと火を焚いて、2交代の寝ずの晩だな。
何より優先するのはユライアさんの安全だ」
アイリスとリリーもそばに寄って来た。
私たちは、今まで4人でいくつもの冒険を乗り越えてきた。
私たちは、冒険者のパーティーとして、様々な経験をつんで来た。
「ここで目的を再確認するぞ。
まずは依頼者の安全を確保すること。
それからレインボーを捕獲すること。
それから生き延びること。
これが冒険の基本中の基本だ。みんなも解っているだろうが」
3人がいっせいに頷く。
それぞれ、真剣な表情で自分の武器に手をやる。
メイド部隊に気がついていなかったことで、テンションがさがったけれど、今の私のセリフで気を引き締めたようだ。
よ~し。
ユライアさんにペースをかき乱されたが、これでなんとかなりそうだ。
冒険のプロフェッショナル『花咲ける乙女達』として、本格的活動開始だ!
心密かに燃え上がりかけた私たちだったが。
「み・な・さ・ま~ご飯ですわよ~」
お玉を振り回してにこやかに微笑むユライアさんと、食欲をそそる美味しそうなシチューの香りが緊張感を壊してしまった。
豪華な夕食後、「レインボーちゃん」が狩りをするという、森のそばに広がる草原に移動して夜明けを待つことにする。
レインボーフェザードラゴンは、真夜中から夜明け時に狩りをする。
今晩は2交代で見張りをすることになった。
組み合わせは、戦士の私と魔法使いのアイリス。
盗賊のカメリアと精霊使いのリリー。
魔法と剣の組み合わせは、野営をするさいの基本。
どちらの攻撃にも。対応できるようにしないといけない。
最初の見張りはカメリアとリリーだ。
そのあと、私とアイリスが交代する。
「私も見張りにくわわりますわ~」
と、ユライアさんが申し入れてきたけど。
「いえいえ、明日の朝ご飯の仕込みがあるじゃありませんか~」
と、カメリアが実にナイスな理由をみつけてお断りした。
「ああ、そうでしたわね、おほほほっ♪」
どうやら、ユライアさんの操縦方法が見えたような気がした。
入念な仕込み作業のあと、彼女は大人しく寝付いてくれた。
カメリア組が長い長い見張り番のあと、私たちと交代する。
焚き火が消えないよう、集めた枯れ木をくべながら、私は神経を研ぎ澄ます。
時おり遠吠えする狼や、夜行性の鳥の声が聞こえる。
だが、不振な音や気配はなにもしなかった。
ゴブリンや夜盗の類も現れない。
「どうやら静かな夜のようであるな、ローザ」
アイリスがぽつりと呟く。
「ああ、空振りかもしれない」
「レインボーフェザードラゴンとはどのような鳥なのだろうな」
「飛べない鳥、駝鳥に似ているそうだが」
私は賢者の学院で手に入れた「レインボーちゃん」の図を引っ張り出す。
小さな羊皮紙に描かれたそれは、長い首と鎌のような鉤爪の足を持った七色の羽の鳥だ。
アイリスがそばに寄ってきて、その図を覗き込む。
「足が速いだろうな。この形状では」
「この鉤詰めが曲者だろう」
「そうであろうな」
アイリスはそう肯定して、自分の杖を握りしめる。
「最初に群れを見つけたら、眠りの雲をぶつけて眠らせてしまおう」
「そのあと、群れを蹴散らして、眠り込んだ鳥を捕まえるか」
そう私が告げる。
「然り」
アイリスがそう肯定して、私の背中をたたく。
「ローザの働きを期待している」
「ありがたい・・・しっ」
何かの気配を感じて、私は草原の方を振り向いた。
ガサリ。
何かが草を踏む音がする。
私は身をかがめて、音のした方を見つめた。
月明かりを背景に、何かの影が森の暗闇から現れてきた。
1、2,3・・・影の数は全部で5体。
それは2本足で首の長い影だった。
月明りが照らし出したその姿は。
「レインボーフェザードラゴン」
アイリスが冷静な声で断言する。
「アイリス、呪文の準備を。私はカメリアとリリーを起こす」
「承知」
いよいよ、狩りの始まりだ!