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「ユライア親衛隊第一小隊!
本日の食材をもって至急出頭せよ!
繰り返す、至急出頭せよ!
『壷よ、道を開け!』」
ユライアさんが叫ぶとともに、彼女の抱える壷に描かれた文様が青白く発光し始めた。
四方八方に光を放ちながら、ゆっくり脈動し始める。
ユライアさんの顔に、歓喜の笑みが浮かんだ、
「さあ、来ましてよ~♪」
「一体何が?」
青白い光は我慢できないぐらい眩くなって、私たちは全員目を閉じてしまった。
ユライアさんの方から、強い風が吹いてくる。
光と風に煽られ、私は両手で顔をかばった。
しばらくして風も光も収まって、やっと当たりは静かになった。
そして幾人もの人の気配がして・・・。
「お待たせしました~ユライアさま!」
と唱和する、若い乙女達の声がした。
私はあわてて目をあけた。
眩い光のせいで少し目がちかちかしてはいたが、視力に異常はないはずだ。
だが、私は自分の目を疑ってしまった。
壷を抱えて立つユライアさんのまわりに、信じられないものが存在していたからだ。
おそろいの糊のきいた真っ白なエプロンと青いワンピース、緑のギンガムチェックの頭巾をつけた若い乙女達が4人立っていたのだ。
彼女たちはみんなそろって、両手に山盛りの食材を抱えていた。
「ユライアさま、今日はとびっきりの新鮮なマグロが手に入りましたの~。
綺麗に解体して一番美味しい赤身のブロックをお持ちしました」
「私は今朝取れたての野菜と香草を、近郊の農家から仕入れてきました」
「私は地鶏の卵と、しぼりたての牛乳。
それに新鮮な生クリームとバターですわ」
「私は頼まれました包丁一式、ぴっかぴかに研いでまいりました」
きゃわきゃわきゃわ~~♪
おそろいの服を纏った若い娘たちが、ユライアさんと壷の周りを飛び回っている。
場違いこの上無しの光景だ。
私たぢ『花咲ける乙女達』のメンバーは、あごかっくん、膝かっくんで、、その場に座り込んでしまった。
※
「ゲートの壷ですと?」
魔法使いのアイリスは、驚愕の表情で叫んだ。
「そうですの~♪先祖代々伝わった、魔法の品ですの=」
ユライアさんは紅茶のカップを優雅に傾けて、にっこり微笑んだ。
毎日、食材を運んでいたのは、『ユライアの晩餐会』亭に勤務している、彼女のメイド達だった。
彼女たちは自らを『ユライア新鋭隊』と称し、4人編成で第一から第四小隊まで存在する。
お店とユライアさんの自宅で、かわるがわる働いているという。
例の怪しい壷は「ゲートの壷」という。
古代魔法王国時代の品で二つ一組なのだそうな。
片方の壷を遠く離れた土地に置いて呪文を唱えたら、少人数の人間をその地に送れる移動魔法がかけられているのだ。
「それは非常に珍しい品で、何十万ガメルもするんでは?」
カメリアが恐る恐る問いかける。
「そんな品を旅に持ち出すなんて…信じられませんわ」
リリーは頭痛をこらえるようにして、かすかに首をふった。
今、私たちはメイド小隊にお茶を入れてもらいながら、ユライアさんから事情を聞いていた。
彼女曰く。
「新鮮な食材を使ってこその、最高級の料理なんですのよ」
炎天下の旅で、保存食料を使っての料理なんて死んでも作りたくない。
自分の料理人のプライドが許さない。
ならば「ゲートの壷」と、もう1つの先祖伝来のお宝「氷の箱」を使用して、食材の保存と配達をすればいいと思いついたそうだ。
毎日、メイド部隊を指揮して、食材と酒とを配達させていたらしい。
・・・私はショックだった。皆もそうだ。
それなりの冒険をしてきた冒険者だというのに、毎晩来ていたメイド部隊の気配に気がつかなかったとは・・・。
野営の時は順番に当直をしていたのに・・・だ。
今晩からレインボーフェザードラゴンの狩りにかかるというのに、私たちは依頼をこなすことができるのか。
最高に美味しいお茶とお菓子を目前にして、どよ~~んとする私達とは対照的に、ユライアさんとメイド部隊はほんわかほんわかしているのだった。