依頼主 秘密を明かす
私は鼻歌を歌いながら料理を続ける彼女の姿に、なにやら不気味なものを改めて感じた。
感じてはいたが。、
香ばしいソーセージの香りと、いれ立ての珈琲の香り。
新鮮なバターやクリーム、焼きたての白いパン。
それにとろとろのオムレツとカットされた果物の盛り合わせ。
簡易テーブルに並べられたみごとなまでの朝食に、お腹の虫が降参してしまった。
「毒を喰らわば皿までだ」
私は盛大に鳴くお腹の虫をなだめつつ、そう決定を下した。
「今まで食べ続けて何もなかったのだ。
魔法感知の呪文を唱えたが、食材からは何も感じなかった。
だから大丈夫である」
魔法使いのアイリスが、杖を翳しながら断言する。
「そーだね。ま、食べてから考えればいいか」
「確かに、今さら心配しても始まりませんもの」
カメリアもリリーも食欲を刺激するいい香りに魅せられたように、簡易テーブルの方へ歩き出した。
「お待たせしましたわね~、皆様。お~ほっほっほっ♪」
朝からハイテンションのユライアさんが、にこやかに欠食児童の私たちを出迎えてくれた。
私たちだって、疑惑を疑惑のままほったらかしていたわけじゃない。
目的地に向かう道中、お花を摘みに行くための小休憩を利用して、ユライアさんの目をかすめて大八車の積荷を調べてみた。
調理器具と組み立て式簡易テーブルのセット、そして数々の食器。
調味料に様々な乾燥ハーブ、昼食用の食材。
ユライアさんの着替え一式。
それに四角い大き目の箱と、大きな壷が見つかった。
だが、夕食用の材料と酒はどこにもなかった。
「やはりな」
私は次々に命令をくだした。
「カメリア、ユライアさんが戻ってきたらすぐに知らせろ。
リリーはこの怪しげな箱にセンスオーラを。
アイリスはこの壷に魔法感知をしてみてくれ」
「あいよ」
「わかりましたわ」
「まかせろ」
それぞれ返事のあと、3人は得意の技を駆使して命令を実行する。
アイリスが杖を翳して、魔法感知の呪文を唱える。
『万物に宿る魔法の力よ。我の前に姿を示せ』
古代の魔法の言葉をとなえると、アイリスの杖が青白く輝く。
その杖に反応するように、大きな壷も青白く輝きだした。
『わが友の精霊よ。そこに囚われているのなら、
私にその姿を見せていただけませんか?』
リリーが精霊に向かって、独自の言葉で語りかける。
その言葉に反応するように、四角い箱がこれまたほのかに白く輝きだした。
リリーは精神を集中して、箱に囚われた精霊を見分ける。7
、
『あなたは、氷の精霊ですのね』
「帰ってきたよ!」
カメリアの鋭い声が、2人の魔法を中断した。
「みなさま。お待たせしましたわね~。
さあ、次の休憩でとびっきりの昼食を用意じましてよ。
そして今夜には愛しの愛しのレインボーちゃんと会えるんですのよ~♪」
あくまでもハイテンション、にこやかに笑うユライアさん。
ああ、ほんとうに奇矯だが、この笑顔のすてきな人を嫌いになれる人がいるんだろうか?
依頼主に隠れてその荷物を調べていた私たちは、どうにもこうにも後ろめたく感じた。
それでも、怪しいことは確認しなければ。
「ユライアさん、お聞きしたい事があるんですが」
「まあ!改まってなにかしら、ローザさん」
にっこり微笑んで小首をかしげるユライアさん。
・・・妙齢のご婦人だが、仔犬のような無邪気さだ。
萎えそうになる自分の心をはげましつつ、私は疑惑を口にした。
「あたなの積荷にある大きな箱と壷は魔法の品ですね。
あれはなんなのですか?
それに、炎天下でも腐らない食材の正体。
あれはいったいどうして入手してるんですか?」
アイリスがよく言ったと、大きく首を縦にふる。
私はまっすぐユライアさんを見つめた。
ユライアさんは目を見開いて、驚いた表情をうかべた。
「あらあらあら、まあまあまあ~~~私ったら。
話していませんでしたわね。いやあぁあん~♪」
彼女は顔を真っ赤にして、その場に座り込んでしまった。
「あのですねえ~そのね~食材は、ですね。
私のメイド達が毎晩もって来てくれるんですのよ」
・・・はっきりきっぱり、意味不明、理解不能な答えだった。
箱と壷の正体は不明、それに食材はメイドが運んでいるだって?
「実演しますわね~」
ユライアさんは呆気にとられる私たち4人を尻目に、さっと立ち上がって壷にちかよる。
その壷を抱えて、その中に向かって号令をかけ始めた。
その様子は今までの彼女とは別人のようだった。
「ユライア親衛隊第一小隊!本日の食材をもって至急出頭せよ!
繰り返す、至急出頭せよ!『壷よ、道を開け!』」