依頼主 料理する
野営の準備で一番張り切ったのは、依頼主のユライアさんだった。
「プロの料理人の名にかけて!!
皆様に最高のお料理を作ってごらんにいれますわ~
お~ほっほっほっほっ♪」
夕暮れが迫る黄昏時。
何故か大きめの岩によじ登って、腰に手をあて誇らしげにに宣言する。
夕焼けを逆光にして立つその勇姿は、私たち一行の脱力感をいっそう強くした。
私は彼女のハイテンションに、ため息しか出なかった。
朝からずっとあの調子だ。
疲れるという事は無いのだろうか…あの活力は…謎だ。
「あれだな」
アイリスがぽつりと呟く。
「れいんぼーちゃんへの期待が大きいのだろう」
「それだけなのかしら?」
「それだけだ。間違いない」
リリーの問いに、アイリスはきっぱり断定した。
「マダム2000ガメルが元気なら、それでいいじゃないか」
カメリアがそう締めくくっや。
こうして全員が、ユライアさんの行動に悩むのは止めることにした。
ユライアさんは宣言どおり、すばらしい食事を作ってくれた。
私たちが火をおこしたり水を汲んだりしている間に、魔法のように簡易オーブンを組み立て、詰め物をしたチキンローストと野菜スープとを用意して、私たちに振舞ってくれた。
その料理の味は、それはそれは素晴らしいものだった。
塩加減といい、
鶏肉の香ばしい焼き具合といい、
根菜たっぷりのスープのこくといい、ゆうことなしだ。
欠食児童よろしく、私たちは供された料理を瞬く間に食べつくした。
「ごめんなさいね~こんな簡単な料理で。
レインボーちゃんが手に入ったら、貴方たちにもご馳走しますわよ~♪」
大八車に積んできたパンを切りながら、ユライアさんはにっこり微笑む。
食後の口直しにと、パンと白チーズと、どうしたものかよく冷えた白ワインまでだしてきたのだ。
この時ばかりは、ユライアさんが天使のように見えた。
これから毎回こんな料理が食べられるなんて!
食い意地のはった私にとっては、毎日が夢のようだ。
さすこの依頼を受けたのは間違いかもと考えた。
否、とんでもない!
あれこれ奇矯な依頼主だが、この料理が食べられるなら!!
私は旨い白ワインの入った木製の杯を掲げて叫んだ。
「ユライアさんに乾杯♪」
「「「「かんぱ~~~い♪」」」」
他の3人も、なぜかユライアさんもいっしょになって、杯を掲げて飲み干した。
旅の道中はずっとこの調子で、毎晩の食事は宴会状態だった。
大八車から新鮮そのものの食材と、よく冷えたワインや蒸留酒が出てくる。
・・・よく考えたら、とても不自然きわまりないことだった。
秋とはいえ、晴天が続いて気温は高い。
真昼ともなると炎天下の行軍となる。
それなのに食材は新鮮なまま。
おまけに酒は常によく冷えている。
ユライアさんの料理があまりに美味しくて、その不自然さに気づかなかった。
この疑問に最初に気がついたのは、最も博識な盗賊のカメリアだった。
「ローザ、おかしいよ。
いくらなんでも、毎晩食べてる食事の材料が腐らないなんて。
ユライアさん、なにか秘密にしてるんじゃ?」
そっと彼女が私に警告してきたのは、3日目の朝だった。
目的地の迷いの森には、今日の午後には到着する。
ユライアさんはハミングをしながら、朝食の準備をしている。
腰に装備した幾本もの包丁を、目にも止まらぬ速さで駆使しながら、新鮮なソーセージに隠し包丁を入れている。
そう、新鮮なソーセージにだ。
「そういえば…そうだな」
私も今さらながら、彼女の大八車に詰まれた食材に疑問が湧いてきた・・・
炎天下でも腐らない新鮮な食材って、いったいなんなんだ?
「ふんふふふ~ん♪お・い・し・いソ~セ~ジ~♪」
私は鼻歌を歌いながら料理を続ける彼女の姿に、なにやら不気味なものを改めて感じた