依頼主 熱く語る
なんだかわからないまま、なし崩し的に依頼主がクエストに同行。
そんな奇妙な事態に納得させられた翌朝。
私たち『花咲ける乙女たち』はユライアさんを迎えに行くため、『ユライアの晩餐会亭『まで歩いていった。
昨晩、今回の目的であるレインボーフェザードラゴンについて、カメリアとアイリスが賢者の学院まで調査に行った。
賢者の学院には、あらゆる知識と情報が集まる。
定期的に冒険者を雇って、新種のモンスターや動物、または流行病について調査研究を怠らない。
私たちみたいな冒険者でも、一定の利用料さえ支払えば、自由に調べ物ができる便利な場所だ。
だが、調査の結果は芳しくなかった。
いま知っている事ぐらいしか解らなかったのだ。
成果は、この鳥が生息している場所ぐらいだ。
レインボーフェザードラゴンは、『迷いの森』に生息している。
『迷いの森』は、私たちがいる街から徒歩で数日といった距離だ。
この森はは、古代に栄えた魔法王国の迷いの魔法が機能している。
人間やエルフ、ドワーフが森の中に入っても、いつの間にか外にでてしまう。
そのため、動物やモンスターの天国となっている。
だからこそ、このレインボーフェザードラゴンの存在が、今まで知られていなかったのだろう。
ユライアさんを待ちながら、私はアイリスたちの調査結果を聞いていた。
「迷いの森に逃げ込まれたら、厄介だ。長期戦になりそうだな」
「然り。かの鳥は狩りをする時だけ、森の外へ出て来るようである。
そこを捕らえるのが、一番であろうな」
アイリスが書き写してきた情報をもとにきっぱりと断言する。
ついでカメリアが自分の仕入れた情報を話そうとしたとき、
ガラガラガラガラガラ・・・
と耳障りな大きな音がしたので、私たちは話を中断してそちらをみた。
そして、全員が目を点にしてその場で固まってしまった。
そこに現れたのは、巨大な大八車を引いたユライアさんだ。
なめし皮の皮の胴着と、少し裾の短いスカート、丈夫そうな革靴。
日よけの帽子。小物を入れるためのウエストポーチ。
ここまでは順当な旅装だ。
順当じゃないのは、背中に背負った2メートルありそうな牛刀と、腰にぶら下げた様々な刃物。
そして山盛りの大八車の荷物だ。
可愛らしい貴婦人のまま、にこやかな笑顔で手を振っている。
「おっはようございます~花咲ける乙女達のみなさま♪」
「アイリス・・・」
私は、脱力状態で問いかけた。
「あれを同行させるんだよな~」
「間違いない」
冷静そのものの声で、アイリスが肯定する。
「私、今度の冒険がうまくいくのか心配ですわ」
「気にすんな・・・
あれは「2000ガメル』が服着て笑ってんだ」
リリーの心細げな呟きに、カメリアがどんぴしゃな例えで答える。
「そう思うしかないな。依頼は引き受けちまっているんだ」
リーダーたる私が、そう決定する。
他の3人はその言葉に従った。
いや、従うしか道はないとゆーか、なんとうゆーか。
「……ようこそ、ユライアさん。それでは出発しましょうか~~?」
私の声がほんの少し震えていたのは、しかたがないよねえ。
※
旅の始まりは、予想以上に順調だった。
すぐに大荷物にネをあげると思ったユライアさん。
彼女は、なかなかの健脚と怪力の持ち主だった。
私たちは順番に、彼女の大八車を押したり引っ張ったりした。
バランスさえ崩さなければ、大八車は比較的扱い安いのだ。
「ユライアさん、この荷物の中味は?」
「道中の食料と、レインボーちゃんを料理するための道具。
レインボーちゃん用の材料と香料一式なんですの」
私の問いかけに、ユライアさんは夢見る乙女モードで熱く語り始めた。
「最高に綺麗で最高に美味しいレインボーちゃん♪
彼女を料理するためには最高級の香料、
最高級の素材、
そして最高級の道具こそ相応しいですのよ。
東方独特のわさびという香草は、ぴりりと辛味がありましてね。
鳥の身とよ~~くあいますの。
レインボーちゃんを解体してから、血抜きをしてですね、
これを全身に塗りこめまして・・・」
私は、はあとか、へえとか、ほうとか。
首振り人形になってずっと彼女の話を聞くしかなかった。
野営の場所に着くまで、彼女は私たち4人に向かって熱く熱く語り続けた。