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依頼主 同行する・・・><


依頼主のユライアさんと、私たちの出会いはなかなかに忘れられないものとなった。

自分の怪しすぎる姿を自覚した彼女は、真っ赤になってその場にしゃがみこんだ。

両手持ちの牛刀はその場に投げ出す。


「いやああ~~ん、私ってば~~~」


穴があったら入りたい状態とは、彼女の様子をさすんだろうな…。

そんなことを考えながら、私はすっかり毒気をぬかれてしまった。

手にした剣をそそくさと鞘に収め、カメリアたちに座るようにうながす。

とにかく、ユライアさんをなんとかしないと。

その問題を解決したのは、なだれ込んで来たメイドたちの一行だった。


「奥様、あれほど待ってくださいと申しましたでしょう!」


「着替えてからとお伝えしましたのに!」


「だから、牛の解体はお客様とお話が終ってからともうしましたのに!」


「いくらいい牛が入荷したからって、自ら3頭もおさばきになるなんて!」


「私たちの仕事がなくなるではありませんか!」


若いメイドたちがいっせいにまくし立てるので、もう煩い事この上ない。

その内容も尋常じゃない。

・・・牛3頭。

このユライアさんが捌いただと?

しゃがみこんだユライアさんは、血まみれの白衣のまま抱えられるように連れ出された。

最後に残ったメイドが、深々と頭をさげ


「もう少しお待ちください」


と言い残してドアをしめた。

嵐は一瞬に訪れ、そして去っていった。


「・・・今の騒ぎはなんでしたの?」


リリーのもっともな問いには、誰も答えられなかった。


それから一時間後。

ユライアさんとの会見の仕切りなおしとなった。

衣服を整え、髪も結いなおした彼女は先ほどとは別人のような穏やかな貴婦人になった。

変わらないのはにこやかな笑顔だ。


「ようこそおいでくださいました。みなさま。

 お待たせして申し訳ありませんでした。

 私が『ユライアの晩餐会亭』の主人、ユライアです」


「私があなたの依頼を引き受けた『花咲ける乙女達』の代表、ローザです」


私は頭を下げて、懐から依頼書を取り出した。


「あなたが冒険者の店に依頼されたのは、レインボーフェザードラゴンの捕獲、報 酬は2000ガメル。

 これで間違いありませんね?」


「そうです、最高に美味しいというレインボーちゃんをぜひとも捕獲して欲しいの です。生死は問いません。

 捕獲してここまで運んでくれるのでしたら期間も問いません。

 これにかかる経費は、報酬以外に私がお支払いします」


ユライアさんはきらきらと目を輝かせ、両手を組んでうっとりと中空を見上げた。


「今まで発見された鳥の中で、もっとも美味なんですのよ。

 それも、世にも美しい虹色の羽で全身覆われているんです。

 ぜひ、私の手で解体して、最高級のローストに仕上げてみせますわ。

 ああ、想像するだけで胸が震えてきますわ~!!

 まずは羽を丁寧にむしって、逆さに釣って血抜きをしてから内臓を取り除いて、 中を綺麗に洗い清めて・・・」


・・・夢見る乙女もかくやの話し方だが、内容はかなり凄惨なものだ。


(この、依頼を受けるのは早まったか?)


私がカメリアに目で問いかけると、彼女は指を二つ立てて首をふった。

2000ガメル。

この破格の報酬に、金庫番の彼女は依頼主の奇行には目をつぶれという。

リリーもアイリスも賛成らしい。

やれやれ、仕方がない、か。


「ユライアさん、お話の途中ですが、その新種の鳥はどのへんに生息して、どのよ うな生態を持っているんですか?」


「ええ?あらん、私ったら、また夢中になってしまって。ごめんあそばせ」


頬をそめてはじらうユライささんは、ほんとうに可愛らしい貴婦人だ。

が、かなりの変人でもあるようだった。


「そのことでしたら、旅の途中でじっくり私が説明しますわ」


「そうですか。それはありがた・・・なんですって!?」


私は自分の耳を疑った。

今、旅の途中で説明するとかなんとか・・・。


「ア、アイリス。今の聞こえたか?」


ぎぎいと音がしそうな首の振り方で、魔法使いのアイリスの方を向いてそう聞いてみる。

否定して欲しかった。

きっぱりはっきりと。

何かの間違いだって、否定してほしかった、


「ローザ、ユライア殿は、この旅に同行されるつもりだ」


アイリスの低くてよく通る声が、そうきっぱりはっきり告げる。


こうして大冒険には、この奇妙な依頼主がお弁当をもって参加することになったのだ。


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