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依頼主 切る

私とユライアさんは、地面に倒れたレインボーフェザードラゴンのそばまで近づいていった。

精神エネルギーを闇に食われて、意識を完全に失っているようだ。

神聖魔法を使って、術者の精神力を分け与えれば意識を取り戻すだろう。

だが、このまま捨て置くと、やがて命を失うことになる・・・。


「ユライアさん、とどめをさしますか?」


「このまま、お店に持ち帰ることができたらいいんですけど~。

鮮度を保てますしね」


ユライアさんは料理人として、倒した獲物の価値を見定めている。

真剣な目つきで、羽やその下の地肌、鋭い鉤爪のついた大きな脚をさすったり撫でたりしながらレインボーの状態を調べている。


「かわいそうですが、とどめをさしてここで解体調理いたします。

香辛料と塩をまぶしておけば、保存も可能でしょう」


ユライアさんはそう、判断を下した。

・・・とどめをさすのは解るけど、ここで解体するだって?

私たち「花咲ける乙女達」は全員、目が点になってしまった。

この大物をこんな荒野で解体して、どうしようってゆうのだろう。

まさか・・・

まさかとは思うがこんな大物を『ゲートの壷』で持ち帰るつもりなんだろうか?

すると、ユライアさんはまるで私の心を読んだかのように、その疑問に答えた。


「ゲートの壷を使えればいいのですが、

 あまりにレインボーちゃんが大きすぎて、運ぶのは無理なんですの。

 ここで解体調理して大八車につんで行きますわ。

 私の料理人の誇りに賭けて、必ず腐らせたりしませんことよ!!」


ユライアさんが、またもや拳を振り上げて夜空に向かって宣言する。

熱い、彼女の魂は熱く燃え滾っている。


「ユライア様、私たちもお手伝いいたします!!」


後ろに控えていたメイド部隊が、声をそろえて叫ぶ。

彼女らの魂も、マダムといっしょに燃え滾っているようだ。


「・・・とどめさしますから・・・」


ぼうぼうに燃えている彼女らに毒気を抜かれた私は、棒読み状態でそう言い大きな頭のそばに近寄っていった。

さて、気をとりなおして。

レインボーフェザードラゴンの眉間に手をあて、そっと撫でてから喉の部分に曲刀をあてがう。


「お前の命、もらい受ける」


ズブリ・・・大きすぎる手応えとともに、鳥の喉に刃を突き刺した。

そのまま切り裂く。

それと同時に、鮮血がほとばしった。

レインボーの見開かれた目から、光が失われた。


「任務、完了」


アイリスが、そう断言した。



それ以降は、ユライアさんとその部下のメイド部隊が大活躍だ。

一旦、メイド部隊の一隊が、様々な香辛料や香草をマダムユライアの調理場へ取りに戻った。

その間、両手持ちの大剣も恐れ入りそうな、よく手入れされた牛刀を構えたユライアさんが気合をこめてそれを振り下ろし、一刀のもとにレインボーフェザードラゴンの頭を切り落とした。

一流の剣士も裸足で逃げ出しそうな、見事な腕前だ。

残りのメイド部隊が一斉に展開して、虹色の羽をむしっていく。

まさしく、一糸乱れぬチームワークだ。

店から戻ってきたメイドたちは、てきぱきと動いて、大八車を解体再構築して、巨大な物干し台のような物に組み変えてゆく。

私たちはその様子を、ただぽかんとして見つめているだけだった。

むしられた七色の羽は、ほとんど集められ袋に詰められた。

それでも集め切れなかった小さな七色の羽根が、風に舞っている。


「まるで七色の花びらのようですわね・・・」


リリーが、小さくそうつぶやく。

そろそろ夜明けが近いようだ。

東の空が白くなり始めていた。

地肌をむき出しにされた巨大な鳥の前に、ユライアさんが仁王立ちで立ち向かう。

両手で牛刀を中段に構え、息を整えて集中する。


「参ります」


牛刀を真っ直ぐに鳥の喉元に突き刺した。

そのまま、真横に腕を動かしながら両足を踏ん張り、レインボーの巨体を真一文字に切り裂いてゆく。

その姿は鬼気迫る凄まじいものであった。


「料理人とはかくも凄まじい者であったのだな」


「まったくだ…」


アイリスとカメリアが、それぞれつぶやく。


「私たちを雇わなくてもなんとかなったんじゃないのか?」


私がそう言うと、アイリスがこう答えた。


「いや、あれを追跡してしとめるのは専門技術がいる。

 だからこそ、我々を破格の条件で雇ったのだ。

 それも料理人としての判断からであろう」


神業で牛刀を振るうユライアさんを見つめながら、私はつぶやいた。


「まさしく、神の料理人なのだろうな。マダム・ユライアは」


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