依頼主 燃える
「さあ、何処からでもきやがれ、派手な鳥さんよ!」
私は戦い前の軽い高揚感を覚えていた。
全身に力が溢れ、今ならなんでもできそうだ。
特大レインボーは、大きな頭を私の方に向け様子を伺っている。
しばらくじっとしたまま、微動だにしない。
そして動物らしく、いきなり攻撃をしかけてきた。
巨大な足で蹴ってきたのだ。
ビュウと、風をきって鋭い鉤爪が私の目前をかすめてゆく。
後ろにとびのいて、この蹴りをやり過ごす。
あんな一撃を喰らえば、あっという間にあの世行きになりそうだ。
奴の速度は、予想以上に速かった。
考えていたより敏捷そうだ。
だが、私よりは遅い。
大きい分、やはり雛のレインボーより鈍いのだ。
これなら、ユライアさんたちから引き離せる。
私の役目はあくまでも囮、こいつを倒す必要はない。
微妙な距離を保ちながら、私はレインボーフェザードラゴンを野営地とは反対の方向へ導いていった。
少しずつ、でも確実に距離はあいてゆく。
明るく輝く月夜の草原で、七色の巨大な鳥との追いかけっこ。
なにやら詩的で奇妙な光景だ。
(これは、賢者の学院に報告しなけりゃいけないな。
さて、いくらの報奨金がでるか?)
頭の隅でそんな事を考えながら、私は鳥との鬼ごっこを楽しみ始めていた。
そうして、どれぐらい特大レインボーと鬼ごっこをしていただろうか。
さすがに私も疲れを覚えはじめた。
そろそろ潮時かもしれない。
野営地との距離もだいぶ稼いだことだし。
後は、全速力で逃げ切るだけだ。
そろそろ本気で逃げるとするか。
そのためには・・・。
私は全速力で駆け出し、鳥との距離をとった。
一瞬私の姿を見失ったレインボーフェザードラゴンは、うろたえたようにその場に立ち止まった。
よしよし、思惑通りだ。
背中に背負った石弓を構えて、音の出る鏑矢を仕掛ける。
殺傷能力はないが、大きな音と飛距離がでる矢だ。
あいつの興味を私からそらすにはこれが一番のはず。
そのまま、レインボーフェザードラゴンの巨大な頭を掠めるように、狙いを定めて鏑矢を放った。
「ウリュウウウウ」
奇妙な振動音とともに、鏑矢は鳥の頭を掠めて飛んでいった。
音に反応した鳥は、七色の羽を撒き散らしながら音のした方へ進みだした。
豪華な尻尾を揺らしながら、その姿が遠ざかってゆく。
「あばよ、2000ガメル)
そう、呟いて私は野営地の方向にきびすを返した。
月光を背に受けて・・・。
(ふっ、決まったぜ。今回の冒険はかっこよく終われそうだ)
冒険者の終わりの美学に自己陶酔しながら、私はゆっくりと歩き出した。
我ながらかっこいいじゃないか。
だが、そうは問屋が卸してくれなかった。
「お~ま~た~せ~!」
遥か彼方から、大八車とメイド部隊を引き連れた、爆走してくるマダムユライアと、泣きそうな顔で走っている私の仲間たちの姿が目に映ったのだ。
もう、一騒動あるのか?
私のかっこつけた最後は?
一体どうしてくれるんだ~~!!
草原の草を撒き散らしながら、ユライアさんが到着した。
彼女は白衣と白い帽子に身を固め、巨大な牛刀を背に、腰の周りには様々な刃物を装備した完全武装だ。
メイド部隊は4人編成で3小隊いる。
マダムと同じスタイルで、牛刀のかわりに様々な武器を帯びている。
下手な傭兵部隊より、よほど立派な装備だ。
「ローザさん、準備の時間を稼いでくれてありがとうございます。
これから皆さんと協力して、あのまことに美しいレインボーちゃんを!
是非、是非とも、捕らえますわよ。
命を奪う以上は、私も命がけであれに挑みます。
それが料理をする者の運命なのですから!!」
右の拳を握りしめ、彼女は天に向かってそう宣言した。
熱い。
熱すぎる。
ユライアさんの目は、激しく燃えさかっている。
私の脳裏で、前から後ろへ回り込みながら、激しい炎を背景にたつユライアさんの姿が展開している。
どうやら、今夜3回目の戦いが幕をきるようだった。
…。
……。
…とほほほ~><




