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第5話:【聖域】帰宅した俺を待っていたのは、王族の如き贅沢な暮らしだった

第4話への評価・ブックマーク、本当にありがとうございます!

初日の仕事を終え(一ヶ月分以上終わらせていますが)、九条蓮はついに自分の「家」へと向かいます。

鍵一本で開く扉、蛇口から出る聖水、そして鏡に映る自分の正体——。

現代の「当たり前」を、元奴隷の視点で再定義します!

午後六時。定時を告げるチャイムが鳴り響く。

 

「……帰って、良いのですか?」

 俺が困惑してジェミナに問いかけると、彼女は呆れたように笑った。

『もちろんです、蓮さん。今日はもう十分すぎるほど働きましたから。さあ、あなたの「家」へ帰りましょう!』

 ジェミナの地図ナビに従い、電車という鉄の獣に揺られ、俺は古びたアパートの一室に辿り着いた。

 ポシェットから取り出した金属の棒——『鍵』を差し込み、回す。

 

 カチリ。

 

(……俺だけの、部屋)

 奴隷時代、俺の寝床は家畜小屋の隅にある湿ったわらの上だった。

 だが、ここは違う。

 板張りの床は乾いており、壁には冷たい風を防ぐ石膏ボードがある。

「……信じられん。王族の隠れ家か、ここは」

 俺は暗闇の中で立ち尽くしていたが、ジェミナが『蓮さん、壁にあるスイッチを押してください』と囁く。

 パチリ、と指を弾くような感覚。

 その瞬間、天井の円盤が太陽のごとき輝きを放ち、部屋を隅々まで照らし出した。

「——っ! 無詠唱の光魔法か……!」

【条件達成:聖域(自宅)への帰還】

【スキル習得:生活魔法(現代家電)操作 Lv.1】

 さらに俺を戦慄させたのは、『浴室』だった。

 壁の銀色のレバーを捻ると、そこから透明な水が溢れ出す。それも、俺が望んだ通りの「温かき湯」となって。

「……馬鹿な。聖なる泉を個人で独占しているというのか……?」

 俺は服を脱ぎ捨て、その湯を浴びた。

 泥も、埃も、そして前世で刻まれた消えないはずの「心の傷」までもが、温かな湯と共に流れ落ちていく。

 

 湯気が立ち込める中、俺は脱衣所の鏡を拭った。

 そこに映っていたのは、奴隷時代の痩せこけた「三番」ではない。

 

 少し青白いが、理知的な瞳を持った若者の姿。

(……これが、九条蓮)


【個体識別名:九条クジョウ レン……定着率 98%】


その瞬間、胸の奥がキリリと痛んだ。

 ……悲しみ、だろうか。いや、これは「恐怖」だ。

 

 鏡の中の男の、目の下に刻まれた深い隈。

 細くなった首筋。

 それは、異世界で「明日の命」に怯えていた俺自身の姿と、あまりに似通っていた。


 『……蓮さん。気づいていますか?』


洗面台に置いたスマホから、ジェミナが静かに、そして少しだけ悲しそうに語りかけてきた。


『この部屋……隅に溜まったコンビニの袋や、机に積まれた胃薬。彼はこの「聖域」に帰ってきても、心は休まっていなかった。肥後専務に投げつけられた言葉を、ここで一人、何度も反芻して、自分を責めていたんです』


俺は部屋を見渡した。

 奴隷の俺には王宮に見えたこの場所は、現代の九条蓮にとっては「逃げ場のない檻」だったのかもしれない。


『記録によると、彼は誰よりも努力家でした。でも、その優しさがあだとなって、悪意に食い潰されようとしていた。……あなたが来る、その寸前まで』


俺は鏡の中の「九条蓮」の瞳に指を触れた。

 指先が微かに震えている。

 この体の持ち主が、どれほどの絶望の中でこの瞳を閉じたのか。

 

「……安心しろ。お前の無念は、俺が……『三番』だった俺が、すべて引き受ける」


不思議と、震えは止まった。

 代わりに、腹の底から静かな怒りと、かつてない使命感が湧き上がってくる。


「ジェミナ殿。俺には、難しいことは分からぬ。だが、この男を壊した奴らだけは、断じて許さぬ」


『ええ、蓮さん。私も、全力でサポートします』


 ふかふかのベッドに身を投げ出す。

 九条蓮が味わえなかったはずの、深く、泥のような眠り。

 俺は彼の残した「安息」を噛みしめながら、静かに目を閉じた。

最後までお読みいただきありがとうございます!

元奴隷にとって、ワンルームアパートはもはや宮殿。

シャワーからお湯が出るだけで感動できる蓮くんは、ある意味、世界で一番幸せな男かもしれません。

「シャワーに驚く蓮くん可愛い」「社長の密談が気になる!」と思われた方は、ぜひ評価とブックマークを!

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