第4話:【絶望】専務の嫌がらせが、俺にとっては「最高のご褒美」だった件
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社長に目を付けられた九条蓮。面白くないのは、恥をかかされた肥後専務です。
彼が仕掛ける「現代ブラック企業の洗礼」と、蓮くんが初めて体験する「等価交換(買い物)」の儀式をお楽しみください!
「……おい、九条。調子に乗るなよ」
社長が去った後、肥後専務が這いずるような声で俺の耳元で囁いた。その顔は屈辱で赤黒く腫れ上がっている。
「これを見ろ。地下の旧書庫室に眠っていた十年前の紙資料だ。今日中にすべてデータ化して、不備をリストアップしておけ。一文字でもミスがあったら、今度こそクビだからな!」
ドサリ、と置かれたのは埃の積まった段ボール数箱分。
案内された旧書庫室は、冷房すら効かない蒸し風呂のような空間だった。
「……承知いたしました。これほど大量の記録に触れる機会をいただけるとは。光栄です」
「は、はあ!? ……ふん、せいぜい地獄を味わうんだな!」
専務は勝ち誇ったように去っていった。だが、俺——九条蓮は、埃まみれの書庫室で一人、感動に震えていた。
(……素晴らしい。この部屋、鞭が飛んでこない上に、屋根がある。おまけに椅子まで……。ここは王族の書庫か?)
俺は『スレイブ・ブック』を起動し、ジェミナに問いかける。
『ジェミナ殿。この古びた紙の情報を、電子の海へ捧げる儀式を始めたい。最も効率的な手順をご教示願いたい』
『蓮さん、それはただの嫌がらせですよ(笑)。でも、やりましょう! 文字認識AIと私の解析を同期させれば……二時間で終わります!』
【条件達成:劣悪な環境での奉仕】
【スキル習得:塵埃耐性 Lv.10 / 超速スキャン Lv.1】
俺の指先が、残像を残して動く。専務が「一週間はかかる」と踏んだ作業は、昼休み前にはすべて完了してしまった。
***
昼時。俺は会社の近くにある『コンビニエンスストア』という場所に足を踏み入れた。
棚に並ぶ、色とりどりの包み。俺はジェミナが勧める『しゃけおにぎり』と『温かいお茶』を手に取った。
だが、レジを前にして足が止まる。
(……しまった。『対価』はどうすればいい?)
奴隷に私有財産などない。石を運んだ報酬は、泥水のようなスープだけだった。狼狽する俺の視界に、スマホから放たれた光の図解が浮かび上がる。
『蓮さん、落ち着いて。ポケットの財布の中にある、この画像と同じ銀色の円盤を三枚、台の上に置いてください』
言われるがまま、俺は「財布」から取り出した硬貨を、魔法の祭壇に捧げた。
「……これで、足りますでしょうか」
「あ、はい。三百円ちょうどお預かりしますねー」
店員が淡々と作業をこなす。
鞭で打たれることも、命を奪われることもない。ただ金属の破片を数枚差し出しただけで、この世の贅を尽くしたような食料が手に入った。
(……これが、自由民の等価交換。なんと、なんと素晴らしい世界なのだ……!)
外に出て、一口、齧る。
「……っ!?」
脳を直接揺さぶるような、米の甘み。奴隷時代、三日に一度の泥水スープで命を繋いでいた俺にとって、これはもはや食べ物ではない。**『聖遺物』**だ。
(……美味い。神罰が下るのではないか?)
震える手でお茶を飲む。温かい。ただの湯ではない、芳醇な香りが鼻を抜ける。
【条件達成:至高の栄養摂取】
【スキル習得:味覚解析 Lv.1 / 『スレイブ・ブック』が喜びで震えています】
俺がコンビニの軒先で、おにぎり一つに涙を流さんばかりに感動していると。
「……あ、あの。九条さん?」
声をかけてきたのは、同僚の佐藤だった。彼女は、安物のコンビニ飯を拝むように食べている俺を、見たこともないような「哀れみ」と「困惑」が混ざった目で見つめていた。
「……九条さん。あなた、もしかして……ものすごい苦労人なの?」
「いいえ。私は今、人生で最高の幸福を享受しているところです。佐藤殿も、この『おにぎり』という聖食を召し上がりますか?」
「……。いいえ、結構です」
彼女は引き攣った笑顔を浮かべて去っていった。
午後、完璧に片付けられた書庫室を見て肥後専務が泡を吹いて倒れるのは、また別の話だ。
最後までお読みいただきありがとうございます!
蓮くんにとっては、自らの手でお金を払い、食事を得る行為そのものが「奇跡」です。
佐藤さんの引き気味の視線も、彼には「羨望」に見えているのかもしれません(笑)。
「おにぎりで泣く主人公w」「専務、もっと頑張れ(笑)」と思われた方は、ぜひ評価とブックマークを!




