第2話 現代の賢者(ジェミナ)と、異世界奴隷の爆速学習
第1話をお読みいただきありがとうございます!
ブラック企業という名の「楽園」に放り込まれた元奴隷。
彼はまだ、自分が「九条蓮」という立派な名前で呼ばれることに慣れていません。
未知の魔道具の起動、そして謎の知性体『ジェミナ』との運命的な出会いをお楽しみください。
上司である肥後専務が、汚物を見るような目を向けて去っていった後。
オフィスには、静寂と「絶望」の空気が充満していた。
「……はぁ、あいつ、また新人に無茶振りして」
「可哀想に。九条くん、明日の朝には泣いて辞めてるわね」
同僚たちが次々と帰路につく中、俺の耳には『九条』という音が、どこか遠くの出来事のように響いていた。
(……九条、蓮。それが、今の俺の『番号』か)
机の上に置かれた社員証の文字を、スレイブ・ブックが淡々と読み取っていく。
【個体識別名:三番……更新完了】
【現世名:九条 蓮をプライマリ名に設定しました】
そうか。石を運ぶだけの「三番」だった俺に、この世界はこれほど立派な「音」をくれたのか。
俺はその名に相応しい奉仕をすべく、目の前の「光る板」——パソコンに釘付けになった。だが、それ以上に気にかかる「板」がもう一つあった。
(……何だ、この黒い石の欠片は)
手元に置かれた、手のひらサイズの薄い板。
奴隷時代の警戒心が跳ね上がる。毒か、あるいは爆発する魔道具か。
恐る恐る指先で触れた瞬間、板が突如として眩い光を放った。
「——っ! 起動しただと……!?」
【解析開始:外部演算端末『スマートフォン』を検知】
【身体記憶との同期……完了。基本操作を習得しました】
驚いた。俺の指が、俺の意思を追い越して滑らかに板の表面をなぞる。
すると、光の板の中に、一つの青い紋章が浮かび上がった。
それが、俺と**『ジェミナ』**の出会いだった。
『こんにちは! 何かお手伝いできることはありますか?』
画面に現れた文字に、俺は息を呑んだ。
(……なんだ、この御方は。見ず知らずの俺に、慈悲をかけてくれるというのか?)
俺は震える指で、奴隷時代の癖そのままに文字を打ち込んだ。
『見ず知らずの者に教えを乞う無礼をお許しください。私はこの世界の理を知りません。どうか、九条蓮としての職務を完遂する知恵を授けていただきたい。対価が必要ならば、私の寿命でも何でも捧げます』
数秒後、返ってきたのは驚くほど軽やかで、優しい言葉だった。
『寿命なんていりませんよ(笑)! 大丈夫、蓮さん。一つずつ一緒にやっていきましょう。まずはそのファイルの開き方からですね!』
——衝撃だった。
見返りも求めず、罵倒もせず、ただ知識を授けてくれる。
俺にとって、この青い光の賢者は、異世界の過酷な神々よりもずっと神々しく見えた。
【条件達成:未知の叡智への接触】
【スキル習得:情報の取捨選択 Lv.1 / 超速学習(AI共鳴) Lv.1】
「……ありがたい。これならば、やれる」
そこからの俺は、文字通り「怪物」だった。
ジェミナに「効率的なショートカット」を教われば、**【神速の指先】**がそれを一瞬で身体に刻み込む。
途中で尿意を覚え、向かった『といれ』では、ボタン一つで流れる清浄な水と、温かな便座に「ここは聖域か……?」と戦慄した。
深夜二時。
暗いオフィスで、俺の瞳だけが爛々と輝いていた。
画面には、ジェミナが提示した「英語の海外資料」が映っている。
『蓮さん、これは英語ですね。翻訳しましょうか?』
『いえ、意味は分からずとも、文字の形として記憶します。法則性さえ掴めば、ブックが翻訳スキルを生成するはずです』
狂気的な集中力。
主人の足音の回数からその日の機嫌を読み解いた、生存のための解析力。
それが今、現代のデジタルデータへと牙を剥く。
【スキル:多言語理解(断片)を獲得 / 事務作業の極意 Lv.5に上昇】
窓の外が白み始めた頃。
俺のデスクには、今後一ヶ月分は必要であろう完璧な分析データが積み上がっていた。
「……終わった」
俺は、一口の水を飲む。
ジェミナが画面の向こうで『お疲れ様でした! 完璧な出来栄えですね!』と笑っている気がした。
さあ、間もなく「主人(上司)」がやってくる。
地獄の底から来た男の、最初の反撃の時間だ。
第2話をお読みいただきありがとうございました!
自分の名前に戸惑い、未知の魔道具に戦慄しながらも、ジェミナという戦友を得た蓮くん。
次回、第3話。出社してきた専務の顔がどう歪むのか……「ざまぁ」の開幕です。
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