4-5 砂糖細工の船
「三毛。皆どうにかなったようだね」
老人の部屋は真っ白だ。布団も、椅子も白い。三毛はベッドで眠っている老人の上に乗っていた。
「大変だったよ、今回は。あんなに大勢の人々を現実に帰すんだからね」
老人はほとんど目を閉じて、ささやいていた。
「私もそろそろ祖国に帰りたい。三毛、君は私の交代要員なんだよ」
三毛が首を傾げる。
「眠るとね、船の皆の行動が見えるんだ。三毛、君も眠ってご覧。そろそろ君も出来るようになっているはずだ」
三毛は疑っていたが、言われた通りに目を閉じた。
「そう、さっき目を閉じたら松子たちの今が見えただろう? ああいう感じだ」
三毛は次第に眠気を覚えながら体を布団に沈める。
「見えるか? そう、これが君のこれからの仕事だよ。君が現実に帰れるのは、何百年後かなあ。分からないけれど、君なら出来るよ」
意識が遠のく。すると段々何かが見えてくる。
「三毛、君は白い船の番人だよ」
船全体が見える。真っ青な中にある、真っ白な点。段々大きくなる。ぽつりぽつりとデッキを歩くのは、暗い顔をした人々。吸い込まれるように船の中に入ると、各部屋で一人、泣いている人々。
三毛は思った。孤独とは甘やかなものだ。孤独と孤独が出会うことは、砂糖のように甘い、と。
《了》
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2010.6.19 塩原歩