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記憶の目覚めと縛りプレイの決意

「……あれ?」


 目が覚めた瞬間、私は自分が誰で、どこにいるのか、一瞬わからなくなった。

 ふわっふわの天蓋付きベッド、レースもりもり、すべすべシルクのナイトドレス、そして壁の油絵と、枕元のナイトテーブルには銀細工の水差し。


 いや、待ってこれ、現実じゃなくない?

 少なくとも、日本のゲーオタ女子大生が起きる部屋じゃないよね? こんなパジャマ、見たこともないし。まだ夢の中?


 そう思いながら、起き上がった私の目の前の鏡に映るのは——


 ストロベリーブロンドの髪に、透き通るような肌。エメラルドのような翠色で意志の強さを感じさせる瞳。ノーメイクでもプルプルさくらんぼリップの美少女。でもどこかで見たことあるような……?



 唐突に脳裏に浮かんできたのは、ジャケ買いした乙女ゲームのタイトルとパッケージの説明文。


『薔薇色の夢』

——プレイヤーは美しき令嬢となり、攻略対象たちとの恋を楽しみましょう☆


「いやいやいや、違う違う!! このゲーム、そんな薔薇色じゃないから!!!」

 

 そう突っ込んだ次の瞬間、頭の中に溢れてきたのは、ゲーム『薔薇色の夢』をプレイしたゲーオタ女子大生、“有村莉奈”としての記憶。そしてここにいる美少女、“リディア・アルステッド”としての記憶——


「え、まさかこれ、ラノベでよくある異世界転生……ってやつ……?」



 私、有村莉奈は、リディア・アルステッドに転生した。乙女ゲーム『薔薇色の夢』に登場する悪役令嬢。

 

 しかし、このゲーム、ただの乙女ゲーじゃない。

 悪役令嬢である『私=リディア』が“主人公”なのだ。

 昨今の悪役令嬢ブームに目をつけたゲーム会社が、悪ノリと勢いで作った“悪役令嬢”の、“悪役令嬢”による、“悪役令嬢”のための、ゲーム。


 プレイヤーは悪役令嬢となり、彼女の視点でゲームは進む。庶民出身の令嬢であるヒロインと、攻略対象との好感度バトルを勝ち抜き、ハッピーエンドを目指すのだ。

 

 攻略対象は王太子、筆頭宮廷魔導師、人気舞台俳優、騎士団長長男の4人。



 しかし彼らはいずれもリディアに対して、既に心を閉ざしている。

 そう、最初から嫌われてる状態でスタートするという、鬼畜仕様。そこまでリアルにする必要、ある!?


 “バッドエンド”では、ヒロインがあれよあれよと恋を実らせ——リディアは断罪される。処刑されたり、追放先で消息不明、という悪役令嬢お決まりの悲惨な末路をたどるのだ。

 選択肢も気をつけないと、ヒロインをいじめたとみなされる展開に。


「なんでなん!!」


 美少女にあるまじき叫びが漏れる。


 しかも。


 仮に頑張って、嫌われてた攻略対象との関係を修復して、恋人になって“ハッピーエンド”を迎えたとしても。

 なぜか各ルートで必ず、戦争、政変、災害など、世界規模の悲劇が起こる。


『世界の危機を乗り越えて、2人の絆は強まった』


 などという、それっぽいテキストが流れるのだ。ほんとに誰得だよ、というゲーム展開。

 この鬼畜さがクセになる、とかいうレビューもあったけど、そんなの、実際目の前にしたら——


「え? どっちに転んでも破滅ルートじゃない? 私、転生してもう……人生詰んだ??」



 しかし、そんな混乱した頭で、ふと思い出した。


 このゲームのプレイヤー界隈で“トゥルーエンド”と呼ばれている隠しルートだ。


 リディアが断罪されることもない、世界に危機も訪れない、攻略対象とヒロインと悪役令嬢が「皆でいつまでも幸せに暮らしました」という、子どものお伽話のラストような世界線。

 公式は肯定も否定もしていない幻のルート。システムのバグという説もある。



 攻略掲示板で見た条件は確かこうだった


 •攻略対象たちとの友好度を、“友人以上、恋愛未満”で維持

 •ヒロインとの友情をMAXにする

 以上2点を卒業式までに達成する(つまり、ゲーム内時間で一年以内)



 ゴリゴリの縛りプレイ。

 誰とも恋人になれない。でも唯一、誰も死なない、世界に危機も訪れない、破滅しないのがこのルート。


「……よし、これしかない!」


 私は両手で自分のほっぺをぺちんと叩いた。

 もはやこれは乙女ゲーではなく、縛りプレイ系サバイバルゲームである。


 愛されすぎてもアウト、無視されてもアウト、ヒロインに敵対すれば即終了。

 もはや恋もできない恋愛ゲーム、『薔薇色の夢』が始まるのだ。



 ドアのノックの音が聞こえた。


「リディアお嬢様、お目覚めですか?」


 私付き侍女のアーニャの声がドアの外から聞こえる。

 もう逃げられない。わたしは今、ゲーム本編のスタート地点に立っている。


「行くわよ……縛りプレイに!」


 誰にも負けない覚悟で選んだ。誰とも恋に落ちず、誰も不幸にしない道を。


 悪役令嬢リディア・アルステッドの、破滅エンドを回避する死闘が、今始まる。

読んでいただき、ありがとうございました。

もしよろしければ、評価、感想いただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
まさかの悪役令嬢メインのゲームというのが斬新。好感度メーター見えない状態でどうやって調整するんだろ。あとヒロインの性格によって難易度変わるよなぁとか続きが楽しみになる要素が多いです。 文章も読みやす…
縛りプレイの転生とは珍しいです♪ アイデアとしては新鮮で良いと思います ブクマしときました!
RT企画のご参加、ありがとうございます! ゲーマー女子大生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生するという設定が王道でありながら、非常にユニークなひねりが加えられていて面白いです。特に「悪役令嬢が悪役令嬢たる所…
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