❷話 己
福本伸行すこ
..................................................................(もはや、音さえ聞こえない...これが死か。しかし、精神は残っているのか。)男の精神は、何度も闇の中に飲み込まれてゆくような感覚に襲われるも、ギリギリのところで耐え続け、こうして存在し続けている。
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男の脳裏に疑問が駆け巡る。
(しかしなぜ、俺はなぜ視力を、目を失ってしまっていたんだ?)
(赤いウワサとは?)
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しかし男にとってそれはもうどうでもよかった。
(いや、いい。すべて、終わったんだ。第一、俺にわかるわけがない。わかったところで、どうにもならない.....俺は、終わったんだ......)
そして、次にわいた男の感情は、意外にも開放の喜びだった。
(俺は、俺という現象は、ついに解き放されたんだ....死にたくないという本能から....解き放たれたんだ...........残業からも)
(ほら、死ぬ直前俺はあんなに死にたくないって思ってたじゃないか。しかしそれも、本能の奴隷だったってことなんだな.....今は何ともない、俺を縛り付けるものも、過去すらも、今の俺には平等に無価値だ)
...................(過去、過去か.....俺の人生は、どうだったかな..よく、やれていたかな)........................(うまく思い出せない....まるで手で砂をすくっているように、記憶が俺からすり抜けてゆく.........)
そして男の精神は、今にも波にのまれようとしている。
(飲み込まれる、か。俺が、俺の意識までもが、完璧に......欲を言えば、もっと過去を思っていたかったが.....)
フフ
まあ、こんなものだろう。
男の意識はそこで途絶えた。
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............................................................................................................................、、?
(おかしい、おれは消えたはずだ。なのになぜ、音が聞こえる?かすかに....これは、フクロウの鳴き声か?)男は耳を澄ませる。
『ゴロスケ....ホッホー....』
確かに聞こえる、フクロウの鳴き声だ。男は訳が分からなかった。(おかしい....俺にはまず、もう体がない。すなわち、もう何も感じることのできないはずだ。なのにおかしい.......しかもそもそもの話、俺は消えたのではなかったか。)男はただ困惑していた。
「起キテ....おきて...起きテよ.....」
別の声が聞こえる。
(なっなんだ、フクロウの声が聞こえたと思えば、今度は女の声...しかし、どこか聞き覚えが.......)
「起キテよ、今日は大切な日なのよ...あなたがね、これから生きていラレるための.....」
(な、なんなんだ一体。おれはさっきから、何に見舞われてるんだ?)
「ァ、ああ....そういうことね....しょうがなイわ....これじゃあ.....起きれないワヨね......死んでるんじゃァ 」
男は恐怖に襲われた。
(なんなんだよ...おれは死んで、消えたはずだ。もう意味が分からない.........起きる?生きていられるために、だと?)
「あげるよ.....目、これで、起きれるでしょ.....初めてじゃないもんね...できるよね.....」
男にはもう声すらもなかった。
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男の意識に光が差し込む
(まっまぶしい....まさか、これが「起き」たのか...俺は)
「さア...いこうね...愛しいイとシイ、私の赤ちゃん......」
第二話とりあえず完
こっからきつくしてく