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短編集<そこから物語は生まれる>

ヒトガタ

作者: papiko

 戦争が始まってしまった。王や貴族たちの圧制に耐えかねた民衆の悲鳴が、革命を起こした。


「おい」


誰かが呼びかける。おいのあとにヒトガタといわれた気がしたが、それが自分のことだとトモコは気がつかなかったが殴らて、ようやく自分のことだと分かった。結構、美形なお兄さんだが、目が怖い。


「ぼっとしてんじゃねぇよ。お前の仕事をしろ。出来損ない」

「し、仕事?」


 トモコは殴られたのに痛みを感じないことに気をとられていたのと、相手の言っている仕事なるものが何かわからなかった。


「少佐ぁソレ壊れてんですよ。いつまでも連れてたらあんた死ぬぜ」


 一見して軍人かと見まごうほどがっちりした男がからかうように言う。なぜかそれは、トモコを非常に不愉快にした。そして、一瞬のことだった。体が勝手に動いたと思ったら、少佐をからかった男を投げ飛ばしていた。


「味方をなげてどうするか!」


 ガツンと頭に鉄拳が落ちる。なのに痛くない。

 トモコは自分に痛覚がないことにようやく気がついた。ふと、手をみると黒い。コールタールのように黒い。人の肌の色ではない。


(ああ、アタシ人間じゃない。ヒトガタってことはサイボーグかなんかかな)


 困った顔で少佐を見上げる。この男、背が高いのだ。見上げないと顔が見えない。じろりと睨まれるけど、あんまり怖いと感じなかった。


「何だ?まだぼけてるのか」

「はぁ・・・その・・・仕事ってなんですか」


 トモコはまた殴られるなと思いつつ、少佐の答えをまった。でかい手が頭の上に乗っかると、がしがしゆらしながら、死ななきゃいいさとつぶやくのが聞こえた。


(人間じゃないのに?壊れなければいいの間違いでは?)


 トモコは疑問に思いつつも、ただ小さく、はいと返事した。


 それから何日も闘った。トモコは全身に武器を内蔵している。だから、ヒトガタなのだ。つまり兵器。敵を倒すための。


 敵とは、帝国軍。こちらは革命軍なのだ。だけど、ヒトガタは仲間として認めてはもらえない。それは、元が帝国軍の兵器だから。それを操れる人間もまた帝国軍の裏切り者でしかない。革命が成就しないかぎり、少佐は仲間から信頼されはしない。


(かわいそうな少佐)


 トモコは、そう思いながら最前線で帝国軍を打ち破っていく。同じヒトガタが、出てこようとも躊躇ちゅうちょなくほうむりさる。


(ああ、私はあの人の武器なんだ)


 トモコは、闘えば闘うほど自分が何者かわからなくなっていく。何かの夢を見ているのだと、最初は思っていたけれど。トモコという名前も、本当は自分の名前ではないような気がし始めた。そして、ついに王城は落ちた。


 ヒトガタの生産工場も破壊されつくし、王の首が広場にさらされる。


「お別れです」


 トモコは笑ってみた。革命がなったのだから自分は処分されて当然なのだ。

でも、少佐は握った手を離してくれなくて。


「離してください。危ないですから。それに自壊の言葉は知っています」

「お前はそれで本当にいいのか、トモコ」


 トモコは瞳をみひらいた。少佐が名前を呼んだから・・・。


(ああ、思い出した私はこの人の武器なんだ。そうずっと守ってきたんだ。でも、私が居ることはこの人のためによくないんだ……)


「守るものはもうないでしょう。あなたが願ったのは自由だから。私がいてはいけない」


(私があなたの側にいるということは、最後の王の血がここに残っている証となってしまうから)


「さあ、手を離してください。ユリウス王子」

「手は離さない。自壊したければ、自壊しろ」


 トモコはうっすらと笑みを浮かべた。人工ラバーのないむき出しの外郭がいかくでは笑顔などできないとわかっているけれど。


(そう、この名前は、この人がつけたもの)


 ならば、コレが最後の命令。


「さようなら、お元気で、我が君マイロード


 トモコは自壊した。つないだ手だけのこしてばらばらになった。

こうして最後のヒトガタは世界からいなくなった。





 革命も過去になり、人々は平和な時代へと歩み始めていた。


「ねぇ、おじいちゃん。そのお人形アヤにちょうだい」

「駄目だ。他のなら好きにもっていけ」

「え~だってこの子が一番可愛いもん。他の子は笑ってないもん」

「やれんもんは、やれんな」


 アヤは毎年クリスマスになるとユリウスじいさんに人形をねだる。じいさんは人形作家で、そこそこ人気があった。


 でも、アヤはじいさんがいつも傍らにおいている子供くらいの人形がほしかった。まるで生きているみたいに綺麗な赤い目に、銀の髪をしていて、磁気のように真っ白な肌。その肌をいっそう美しくみせる黒いドレスと黒い手袋。


 世界に一つしかないその人形をほしがるのは、アヤだけではなかったけれど、じいさんは決して誰にも譲ろうとはしなかった。じいさんはトモコとその人形に話しかけることがあった。アヤはよほど大事なのだと、年をとるごとにだんだんと理解した。


 そしてじいさんが死んだ日。棺にトモコもいれてやった。真っ白いドレスを着せて……。


 なんとなく、そうしてあげることが、この人形とじいさんへのはなむけのような気がした。

 一つだけ不思議だったのは、トモコの右手は真っ黒な金属でできていたということ。それはアヤが昔聞いた恐ろしい帝国の兵器ヒトガタの手に似ていた。


 老人と人形は一つの棺に納められ小さな丘の墓地に埋葬された。

 


【終わり】


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