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―その後僕は、一度市内の病院に行き、診断を仰いだ。内科、外科と次々に盥回しにされ、時刻はもう夕時になっていた。最終的に、経過観察を行うと言う事になり、一週間後また来るように言われた。
不覚にも、女性物でサイズが合う服が無かった為にこの時は、【新条楓】に服を借りた。
「かわいーね。」
と、揶揄して来たのは未だに内心イライラしている。
さて、家に戻り、母が夕食の準備をしようとしている所、彼女はまだ居た。驚く僕を察するように、
「お邪魔してまーす。」
「楓ちゃん、夕食食べていくって。」
と、母が横槍を入れた。
「親御さんには何も言われなかったのか。」
「今両親旅行中で居ないから大丈夫!」
そう言う問題では無いと内心抱えつつ、自室に踵を返した。
―ガチャ
部屋の扉が開き、【新条楓】が僕の部屋に無断で入って来た。
「ふーん、君こういう部屋してるんだ。」
「何回も来た事あるだろ。用がないなら出て行ってくれ。」
「冷たいな~。良いでしょ、ちょっとくらい。」
本棚から彼女が本を手に取ろうとした。だが、その本は駄目だ。急いで手に取ろうとした本をぶんどった。
「え、どうしたの?」
僕は無言のままその本を背面に隠す。覗き込もうとしてくる彼女と向かい合うように。
「ご飯できたよー。」と、聞こえた。何とか持ちこたえた。
「はーい。」と返事をした彼女は部屋を出て行った。
夕食を取り、次は入浴の時間だ。未だ彼女はリビングでお淑やかに会話をしている。
脱衣所で服を脱ぎ、洗濯籠に服を入れ、取り敢えず浴槽に身を沈めた。玄関からドアの開く音と閉まる音が聞こえた。【新条楓】が自分の家に戻ったのだと思っていたが、もう一度、玄関からドアの開く音と閉まる音が聞こえた。
何故か、脱衣所の扉が開き、服を脱いでいるだろう音が聞こえた。
「入るよー。」
目を向けると、服を脱いだ状態でシャンプーとリンス、ヘアオイルを抱えている彼女が居た。
急いで目を背け、質問をする。
「何をしている。」
「何って、君が”女の子”としてすべき事を教えにきただけだよ!」
「何も、一緒に入らなくても良いじゃないか。外で指示をするとか。」
「え~だって君、こういうの苦手でしょ。私が教えてあげるからさ!」
「ほら、早く。」
為されるがままに座らされ、彼女に髪を洗われ始めた。
「ガシガシ洗ったら駄目なんだよ。やさしく。リンスはこうやって使うの。」
この時の事はあまり覚えていない。年頃の男には少々辛かったモノがある。
「でね!ヘアオイルは...って聞いてる?」
「もう分かったから。離れてくれないか。」
彼女が浴室に入って来てから、ずっと瞼を閉じていた。
急いで脱衣所に戻り、髪を乾かし、自室に戻った。
―コンコン。 扉がノックされる。
「おーい。どうしたの~?」
【新条楓】の声だ。
「頼むからほっといてくれ。」
それだけ言い残し、僕は眠りに着いた。
―小鳥の囀りと共に朝起きると、何故か【新条楓】が横で寝息を立てて眠っていた。おまけに腕に抱きついている。脳内で状況を整理しようとしたが、僕には無理だった。今、体は女子な訳だから、無問題なのではとも思った。いや、問題が有り過ぎる。