守る者
OVL大賞9
第一話 守る者
この国は昔から鬼や妖が住むと言われていた。
事件を起こしても何故起こしたのか分からずにいる、それは妖に取り付かれ起こした事だった。
妖や鬼は人を喰う事も有った。
だが、そんな妖や鬼を退治する能力者達が居る一族が有った。
一族から守り人が産まれると、自然に前後で仲間が産まれる。
一族を纏める者は30階建てのビルを持ち、各界とのパイプを持ち世界でも有数な企業の代表者が能力者達の面倒を見る。
能力者を産んだ家には養育費として大金が払われる。
今、その当主になったのは速水幸次(20歳)だった。
「巫女姫、よく来てくれたね、疲れただろう?」
優しい微笑み、物腰の柔らかさ、何処から見ても好青年だった。
「いいえ、車まで出して頂きありがとうございました」
頭を下げお礼を言う。
「当たり前の事だよ、巫女姫」
幸次は少女にそう言った。
「私は本当に守る者なのでしょうか?何の術や技も出来ないんです」
今にも泣きそうな顔で幸次に言う。
「本当だよ、巫女姫、君が産まれた時、既に兆候が有った。目覚めるのはこれからだ」
「姉も従妹も皆、術が使えます、私じゃない」
幸次に訴える
「あん」
強い言葉にあんと呼ばれた少女は身体を硬直させた。
「大きい声を出してすまなかった、守る者、巫女姫には代々右の胸に星型の痣がある、君にもあるだろう?」
幸次に言われあんは頷く
「それが守る者、巫女姫の証なんだ」
あんに迎えが来るとなった時、皆は疑った、術も使えないあんが巫女姫になるなんてと言われた。
痣が有るだけで何も出来ないのにと言われた。
「君はまだ目覚めていないだけで、本当に巫女姫なんだ、自信を持って」
幸次に言われ、はいと小さく答えた。
「そろそろ、使い手達が来るよ。今回は皆男の子だけどね。」
使い手は男女関係ないが今回は男子だけの様だ。
あんは小さくため息を付いた。
第二話 結集
「社長、皆様お揃いです」
「わかったありがとう、じゃあ巫女姫下に行こうか」
そう言われ幸次に付いて行く28階にレストランのがあった。
其処には4人の男子が居た。
「皆、良く来てくれたね、この子が巫女姫の高峰あん16歳だ」
何故か幸次があんの紹介をした。
「さあ皆も巫女姫に自己紹介して」
幸次が催促すると
「火の使い手、火野カガヤ18歳」
不満気に言う、背の高い強そうな青年だった。
「水の使い手の及川水人17歳です」
優しそうでいて凛とした青年だった。
「土の使い手、山本土門16歳です」
ちょっと弟の様な感じがする少年だった。
「風の使い手、野原爽17歳」
爽やかな風の様な青年だった。
「此処のフロアは食堂として使ってくれ、29階は君達の部屋がある」
そう言って部屋のカードキーを渡す。
「私は、殆ど30階にいるから何かあったら言ってくれ、学校の手続きは此方でしておいた」
じゃあと言って幸次は出て行った。
「ここの寮長みたいな事しているフミよ、宜しくね、皆の食事とか作ってます」
何処からか女性が来た。
「28階からは誰も来ないから安心してね」
そう言ってキッチンの方に行ってしまった。
「それで、なんて呼べば良いの?」
カガヤがあんに聞く
「ええっと何でも良いです」
あんが言うと
「姫、巫女、巫女姫、あんどれにしようか?」
土門が楽しそうに言う。
「ああ僕達の事は名前の呼び捨てで良いからね」
爽が言う。
男子が話会い、普通にあんとなった。
29階に皆で行き荷物の整理を始めた。
整理するほどの荷物は皆無い、親達はただ大金が貰えるから育てただけで不気味な者でしかなかった。
程なくして各部屋に荷物が大量に送られてきた。
洋服、靴、趣味の物、幸次は皆の趣味サイズ好み全てを把握していた。
第三話 闇よりの使者
「今日から新しい学校だね、楽しみ」
土門が無邪気に言う。
皆、他の土地から東京に来ている。
初めての東京で土門は上機嫌だった。
「転校なんてめんどくせえ」
カガヤはいつも不機嫌だ。
「黙って食事を楽しもうよ」
爽が言う、水人は無言で食べていた。
フミが作った朝食がとても美味しかった様だ。
「お食事中申し訳ございません、皆様の身の回りのお世話をさせて頂きます、長瀬時人と申します」
背の高い執事の様な格好をしていた。
「初めまして、妹の長瀬南と申します、姫様のお世話をさせて頂きます」
二人共深々と頭を下げその場を後にした。
高校は都内有数の進学校でお金持ちが通う高校だった。
「制服が可愛い」
用意をしていると、あんが言った。
「はい、良くお似合いですよ姫様」
南が言うと、あんは少し照れたようにありがとうと言った。
「それとこれを幸次様よりお預かりしています」
小さな箱を渡され開けると奇麗な緑の石が付いたネックレスだった。
「いつも身に着ける様にと言われております」
「分かりました。後、姫は辞めて下さい」
南にお願いすると
「では、あん様で宜しいですか?」
と、言われ、はいと答えた。
皆が集まり車に乗る、男子も皆、アクセサリーを付けていた。
カガヤは赤い石のピアス、水人は水色の石のブレスレット、土門は黄色い石の付いた指輪、奏は透明の石が付いたネックレスだった。
初めての学校はやはり直ぐには馴染めなかったが、同じ年の土門はもう馴染んでいた。
学校の帰り、迎えが無い事を聞き皆で歩いて帰る。
公園を通った時だった。
黒いモヤモヤした大きな雲の様な物が有った。
それは人の形になり、髪の黒い青年になった。
「あん、巫女姫、目覚めていないか、目覚めたらお前を迎えに来る。」
そう言って消えてしまった。
「何だあいつ、凄い力を感じた」
カガヤが珍しく驚いていた。
ビルに帰り皆でその事を幸次に報告に行く
「それは、妖や鬼の長で夜城カイと云う、長年に渡り巫女姫を狙っている。殆どの巫女姫は殺されているが、本来は花嫁にしようとしている」
幸次の言葉に、
「花嫁にしたいなら何故殺すのですか?」
あんが聞くと幸次は間を置き
「巫女姫に夜城が求めている力が無いからだ、でも、こんなに早く顔を出すと云う事はあんはその力が有るのかもしれないな、皆、あんを守ってくれ」
第四話 守る者の力
幸次に言われ、今力が無いのに何故?と思う気持ちが強くなる。
夕食中意を決して皆に本当の事を言う
「皆さん、食事中すいません、私には力が有りません」
あんはそう言って頭を下げた。
「はあ?」
カガヤは驚きなのか怒りなのか分からない声を出す。
「そうなんだ、これからじゃないかな?」
水人は冷静に言った。
「うーん、そうなんだ?でも選ばれたんだから気にしなくれも良いんじゃない?」
土門は軽い感じで云ってくれる。
「あん、力の目覚めは人それぞれだよ、焦る事は無いと思うよ」
爽は優しく言い聞かせる様に言った。
あんはごめんなさいと言い席に座った。
夕食を終え部屋に帰る、ビルの下には奇麗な庭園が有った。
あんは気分転換に庭園に行った。
奇麗な花々が咲き心が休まる、そんな時だった。
幽霊の様な黒い影があんに近づく
「嫌、来ないで」
あんに触れようとした時、あんの周りに光のバリアが出来た。
バリアの中には黒い影は入れない様だった。
「炎の力で焼き払え」
黒い影は焼かれて消えた。
後ろを見るとカガヤが居た。
「お前、一人で外に出るなよ、守れないだろ」
怒っている様な、心配している様な感じだった。
「ごめんなさい」
謝ると、他の皆も来てくれて居た。
「あん目覚めたね」
水人が言った。
「あれが私の力なの?」
あんが言うと
「そうだよ、あんはバリアを張り皆を守る、守る者の力だ」
爽が教えてくれる。
この事は、秘書により幸次に伝えられた。
「やっと、目覚めた。夜城が妖や鬼を大量に投入してくるぞ」
幸次はそう言って書物を出した。
第五話 昔からの書物
土曜日の朝、朝食を終えた時だった、幸次が来た。
「皆、分かっていると思うが、あんが目覚めた。これから妖や鬼が沢山やって来る。君たちの力が必要だあんを守り、敵を消し去ってくれ、前の代は皆死んだ。纏める者、私の立場の人間も死んだ。
私の役目は皆の養育、生活、そして此処の結界だ、昨日の夜は結界に入られてしまった。すまない、もっと強固な結界を張る」
そう言って席に座った。
「昔から巫女姫は狙われていたのに殺された、何故あんが狙われるのか?他の姫に無かった力が有るのか?ただ一人何かを持ってしまったのか」
水人が言う。
「私も、初めの時からの書物を調べたが、昔、一人だけバリアの他に癒しの力が有った。その姫を夜城は狙ったが、姫一人になり自害したと記されていた。」
幸次が調べた事を話す。
「しかし夜城って何歳だよ」
カガヤが言うと
「多分だが不老だろう」
幸次が答えた。
「姫以外殺されたのですか?」
あんが幸次に聞く
「そうだよ、夜城のやり方は、姫を守る者から殺し、纏める者を殺し姫一人きりにして絶望を与え連れ去ろうとする。」
あんの疑問に答えるとカガヤが
「下衆な野郎だな」
と言った。
「今までは巫女姫と使い手のバランスが悪かったのは事実なんだ、巫女姫が強くて使いてが弱い、反対に使い手が強く、巫女姫が弱い、ただ今回はバランスは良いと思って居る」
幸次が皆に言う。
「そうだ、あん痣が変わったとか、身体に異変はないかい?」
思い出したかの様に幸次が聞く
「言われれば昨日シャワーを浴びていて痣を見たら黒い痣が赤くなっていました」
あんは不思議そうに答えた。
「痣の色なんて変わるっけ?」
土門が聞くと
「ただ一人だけいた巫女姫も痣が赤くなったと記してあった。あんも癒しが出来るかもしれない」
「癒しが出来たら何なのですか?」
水人が幸次に聞く
「君達が傷付いた時、巫女姫の癒しで傷が治る、妖や鬼の傷は治らない。しかし赤い痣の巫女姫ならその受けた傷を治す事が出来る」
「だからあんが目覚める前に夜城は姿を出し迎えに来ると?既にあんの能力が分かっていたって事か?」
爽が言うとあんは身震いさせた、そんなあんの肩を爽は抱きしめ
「大丈夫だよ、僕達が守るから」
そう言うと、ありがとうございますとか細い声で答えた。
第六話 花
あんはビルの下にある庭園が好きっだった。色とりどりの花が咲いていて普通の人間と思えるからかも知れない。
それを28階から見ていた4人が
「本当にあんにそんな力が有るのか?あんなに華奢な体で戦えるのか?」
カガヤが言うと水人が
「珍しいね、カガヤがあんの事を心配するなんて」
「あの夜城に狙われているんだ、僕らが守らないといけないね」
爽が言った。
「でも、あんは笑わないね。まだ僕達に慣れてないのかな?」
土門が寂しそうに言う。
「俺達だって慣れてないだろう?」
カガヤが突っ込む。
「聞いた話だと目覚めていなかったあんが巫女姫に選ばれた時に周りから虐めとまでは行かないけどゴタゴタが有った様だ。それで自信が持てないんじゃないかな?」
水人が聞いた話を皆に言った。
「巫女の家は殆どが女だからね、嫉妬とか凄い感じがする」
土門が言った。
すると、あんはとても奇麗な花を見つけ笑顔になった。
その笑顔は柔らかく野に咲く花の様に儚い笑顔だったが奇麗な笑顔だった。
その花に手を伸ばすと手を取った者が居た。
夜城だった。
「巫女目覚めたね。さあ私と行こう」
あんは貧血の様になり倒れた。
「あん」
4人は瞬間移動で夜城とあんの間に入った。
「目障りな使い手達だな」
夜城が言い捨てる。
「何故必要以上にあんを狙う?」
カガヤが言うと
「お前達にこの巫女の価値がわかるか?私にこそ相応しい、やっと本当の巫女姫を見つけたのだ、邪魔をするな」
夜城が力を使う、4人も力を使うが夜城の力は凄かった。
4人は吹き飛ばされる。
その時あんが目を覚まし、光のバリアを出す。
「巫女、何故私を拒む?そなたの幸せは私と共にあるのだ」
「いいえ、皆を傷付ける貴方と幸せにはなれません」
あんの傍に幸次が来て掌を夜城に向け攻撃した空気の鉄砲の様な感じだった。
「速水か、いつもいつも忌々しい、今日は帰るが、巫女は貰いに来る、お前達を殺して」
そう言って夜城は消えた。
あんは皆の傷に手を当てると傷が治る。
「あん、癒せるようになったのか?」
幸次が聞くと
「分かりませんが出来ました」
そう答えた。
「速水さん、簡単に結界が破られている、これではあんは生活出来ない、強い結界にしたのではないのですか?」
爽が速水に詰め寄る。
「すまない、結界は強くしたが、夜城を侵入させてしまった。」
あんが急に倒れた、爽があんを抱き上げ部屋に連れて行く。
第七話 あんの正体
あんを部屋に寝かせ爽が28階に戻って来た。
「あんなに夜城があんに執着する理由が分からない、いくらバリアと癒しが使えたとしても、妖や鬼を使わず自ら出て来た」
カガヤが言うと
「何故かは分からない、昔の書物を見ても夜城が姿を現した事が少ない、もっと調べてみよう」
幸次が言う。
「あん、君は何者なんだ」
水人が呟く。
「でも、あんが傷付ける奴とは行かないって言ってくれて嬉しかったな」
土門が嬉しそうに言う
「そうだね、僕らもあんをちゃんと守らないとね」
爽が土門に言った。
「皆、ちょっと30階まで来てくれないか?」
幸次が言い皆で幸次の事務所に行く。
膨大な資料が有った。
「これは初めての時から記録してある物なんだ、何が有ったかが書かれている。何かヒントが有るかもしれない」
「そう言えば、速水さんも使い手なの?」
土門が聞くと
「いいや、私は使い手では無いよ」
資料を見ながら答える。
一緒に資料を見ていた時人が
「幸次様、これを」
と言いながら、一番古い書物を見せる。
皆が集まり書いて有る事を読む
「数千年に一度守り、癒し、攻撃が出来る巫女が誕生すると予言有り」
と書かれて居た。
「まさか、あんはこれなのか?」
幸次が驚きながら言う。
「今までにこの様な巫女は居たのですか?」
水人が聞く
「いいや、これまでにこの様な巫女は居ない」
幸次が答えると
「もしも、あんがこれだったら夜城が自らあんを奪いに来る意味が分かる」
そんな話をしている時だった。
走る音がしドアをノックする
「入れ」
幸次が答えると南が入って来た。
「南、はしたないぞ」
時人が注意すると
「申し訳ありません、急ぎ報告がありまして、あん様のお着替えをしていましたら胸の痣が半分色が変わっております。半分は赤、半分は紫に変化しています」
それを聞いて幸次は
「本当に、あんが予言の巫女なのか?」
椅子に座る。
「これまでに無い位の力を持つ使い手と予言の巫女、全面戦争になる。皆、心してくれ、今までで一番の戦いになる。君達の力が必要だ。」
分かったと言い皆が事務所から出た。
第八話 思い
あんは倒れてからまだ目覚めない。
皆は夕食を食べながら気持ちが重くなっていた。
「皆、食事は美味しく食べるの」
フミに言われ食べた後に皆で話をした。
「俺はあんが予言の巫女だったら本当に大丈夫なのかと心配になる」
カガヤが初めて本心を言った。
「何が心配なの?」
土門が聞くと
「正直、か弱い感じがするし、優しすぎる気がする」
「そうだね、あんは優しいね」
カガヤの言葉に水人が答える。
「本当に戦えるのか?」
「それは分からないよ、今まで居なかったのだから」
今度は爽が答えた。
「皆様、あん様がお目覚めになりました」
南が言いに来た。
皆であんの所に行くとあんは
「皆、傷大丈夫?痛くない?」
と、自分以外の者の心配をしていた。
「僕達はあんが癒してくれたから大丈夫だよ」
爽が答える。
「良かった」
ほっとしているあんにカガヤが
「自分の心配しろよ、お前予言の巫女かもしれないんだぞ」
ちょっと強めに言う。
「予言の巫女?」
今まで調べた事をあんに聞かせる。
「東京に来る事になった時、ババ様にお前が最後の巫女になると言われたの」
あんが言うと、
「そのババ様は分かって居たって事なのか?」
水人が驚く、ドアのノックの音がする
「どうぞ」
あんが言うと、幸次が入って来て
「忙して悪いが、これから私と皆で鎌倉に行ってもらう」
皆で車に乗り鎌倉に向かう
「此処が速水の本家だ」
幸次が言い中に入って行った、皆幸次に付いて行く
ある部屋に止まり、
「幸次です」
「入れ」
その声に襖を開ける。
其処には速水を束ねる総裁が居た。
皆は総裁の前に正座する。
「君が奈々の孫のあんだね?」
「何故ババ様の名前を?」
「君が居た場所に男が居なかったのはなぜかわかるかい?巫女と子を作り男なら連れて帰り、女だったらそこで育てる。それが使い手や巫女姫を作る方法だと昔から決まっていた。私は奈々と出会い奈々を愛した、奈々も私を愛してくれ二人で逃げようとした、だが、当時の総裁に捕まり丁度奈々が妊娠していた。女の子を産んだ、私たちは引き離され二度と会う事も許されず、他の女性と結婚した。これが古よりの決まりなんだ」
総帥と呼ばれる男性は今でも奈々を愛している事が分かる。
「奈々の孫だ、初めての巫女姫になっても不思議ではない。奈々はとても力を持っていたが、痣が無かった、私も使い手に成れる力を持っていたが、当主にはなれなかった。」
二人共愛し合い子を作りでも幸せに成れず、力が有るのに選ばれずこんなに悲しい物語が有ったなんて誰も知らなかった。
二人の強い思いが伝わって来る。
あんは泣いていた。
第九話 もう一度
速水家の総帥の話を聞き何だか切ない気分になった。
もう一度二人を会わせたいと思った。
総帥が奥から古い箱を持って来た。
それを開けあんの指に着ける、矢の模様が有る指輪だった。
「ありがとうございます」
あんを見て二コリと笑う総帥は優しい人だった。
「この指輪は、能力が無ければ付ける事を拒む、すんなり入ったね、君は能力が有る。幸次、くれぐれも巫女姫を危険な目に合わせるな、そして使い手達巫女姫を守ってくれ、此処でダメなら次は何千年待つか分からない」
「はい」
と答えるのが精一杯だった。
「ごめん、私も知らない事ばかりだった」
幸次が帰りの車で言った。
「二人が一緒に居られたら幸せに成れていたら、惨い掟です。」
泣きながらあんが言うと
「それが一番巫女姫と使い手を作る方法だと思われていたんだ、始まりの時に決まり今までその掟に従い巫女姫と使い手を作った。私も作られた者だ」
幸次が悲しそうに言った。
「もしも、私たちの代で夜城を倒せば、終わるのですか?」
あんが聞く
「ああ終わるかもしれない、でも、妖や鬼は人の邪気から出来ている、また復活するかもしれないが、操作する者が居なければ苦戦はしない」
幸次が説明していると
「来る」
あんが言った。
皆があんの見る方を見ると妖、鬼が十体立ちはだかっていた。
皆、車から出ると、あんが
「空間遮断」
と言った。
いつもの光のバリアじゃ無く、その空間から妖も鬼も出られない様になって居た。
「風の力で切り裂け」
爽が言うとまるで刃物の様に風が舞う
「土の力で留めおけ」
土門が言うと妖や鬼の足が土に捕らわれ動けなくなる
「炎の力で焼き払え」
カガヤの声で焼き尽くされ消えた。
「遮断解除」
あんが言うと取り囲んでいた空間が無くなった。
そしてあんはまた倒れた。
「あん」
水人があんを抱き上げ車に乗せる。
車の中で幸次が
「本当に今回は異例な事ばかりだ、本来なら巫女姫は20歳位、使い手も20歳前後だ、でも、今回は皆高校生だ、まさかあんが遮断までするとは思わなかった。」
「今までに遮断をした巫女姫は居ないの?」
土門が聞くと
「居ない、癒しの力が強すぎて痛みを受け心が壊れてしまった巫女姫は居た。」
「そんな」
カガヤが驚き
「まだあんは16歳だ、こんなにか細いのに一気に色々な事が出来る様になったら身体と心が持たない」
カガヤがあんの事でこんな風に言うのは初めてだった。
「だから、君達も同じなんだよ、まだ若すぎる」
第十話 夜明け
あんは夢を見ていた。
白い服を来た女性達が大勢いた、そこに行くと、皆は来てはいけないと言った。
そしてあんに祈りを捧げていた。
あんが目を覚まし、身体は痣以外に変わった所は無いか鏡で見ていたら左の胸にも星型の痣が出来ていて半分は黒、半分は青になって居た。
「きゃ~」
あんの悲鳴に皆があんの部屋に行くと下着姿のあんが居た。
皆は後ろを向き
「あん、取り合えず服着て」
水人が言った。
あんは急ぎ服を着るそして痣が増えている事、色が違う事を言った。
怖がるあんをカガヤが抱きしめ
「大丈夫、落ち着け、何が有っても俺達があんを守るから」
そう言うとあんは少し落ち着く。
「あれ?あんを抱きしめて無いの僕だけ?じゃあ」
土門はそう言ってあんに抱き付き耳元で
「あん、大好きだよ、僕らが居るからね」
と囁いた。
あんは顔を真っ赤にし後ずさりした。
あんの痣の事は直ぐに幸次の元に届いた。
それを時人から聞いた幸次は
「全く驚く今までで一番若い者達が一番過酷な戦いをしないといけないのか」
ため息を付きながら言い
「あん、君は何て星の下に産まれたんだ。」
天を仰いだ。
「本気であんを奪いに来る夜城なら、もう2回も姿を現せている。これもまた異例」
朝になり皆が食堂に来るとフミは嬉しそうに
「いっぱい食べてね」
と言ってお皿を置いて行く
「美味しい」
あんが言うとフミは嬉しそうに
「沢山食べて少し太った方が魅力的よ」
と言ってキッチンに行ってしまった。
皆ちゃんと食べ学校に行った。
帰りも何も無く帰って来た。
第十一話 赤い月
ビルの結界は強固な物になって居た。
しかし、事件が多くなっていたのも事実だった。
「こんな所でじっとしていたら何も出来ない、外に出る」
カガヤが言い皆で外に出て行った。
「幸次様、宜しかったのですか?」
「確かに此処に居れば何もないでもそれは彼らが選ぶ事だ」
皆は公園や庭園など人があまり居ない所に行った。
直ぐに鬼が出てきた。
「いっぱいいるな」
カガヤが言うと
「鬼20体と妖10体だ」
水人が冷静に答えた。
「範囲が広いけど、空間遮断」
「炎の力で焼き払え」
一面が火の海に成る。
「風の力で切り裂け」
炎が揺らぎ風の刃が切り裂く
「水の力で洗い流せ」
水人が言うと憑りつかれていた者は正気に返り、鬼はカガヤと爽で消し去った。
「空間解除」
その後も続々とやって来る
「あん空間遮断はしなくていい」
カガヤが言う、あんに負担を掛けない為だった。
あんは弓を引き放つ鬼を貫き消し去った。
「何だか今日は多いな」
爽が言う通り妖や鬼が大量に出て来る。
窓の外を見ていた幸次が焦り始めた
「幸次様どうしました?」
時人の言葉に
「月が赤い、夜城が来るかもしれない」
そう言って急ぎ皆の元に行く、そして大量にいる敵を見た。
「あん」
幸次はあんを後ろから抱きしめた。
丁度同じ時だった夜城が現れた。
「またお前達か忌々しい、長年探していた巫女が今手に入ると云うのにお前達が邪魔をする」
「お前頭大丈夫か?」
夜城にカガヤが言う。
「さあ私の人形達行け」
鬼がまた増えた。
「あん」
幸次の腕からあんが連れ去られた、そして夜城は消えた。
鬼を倒し終わりあんが居ない事に気づいたカガヤが
「速水さん何を見ていたんだ、何故攫われた」
皆の気持ちは同じだった。
第十二話 貴方は何?
目を覚ましたあんが見た者は夜城だった。
「目を覚ましたか?私の巫女」
夜城の手があんの頬を優しく撫でる。
「此処は何処ですか?」
と、聞きながら自分の服が黒いドレスになって居た。
「此処は私の世界、そして私はあん、君の産まれて来るのを永い間待っていた夜城カイだ」
「何で私なんですか?」
夜城は20歳位に見えたが、初めの時から居る、歳は分からない。
「何故?良いだろう私の巫女の知りたい事は教えよう、そなたの力と私の力を持った子供が生まれたらどうなるだろう?」
あんは暫く考えて首を振り
「だめ、絶対だめ」
そう云うあんの腰を抱き顎を上げ口付けをした。
「嫌、初めてだったのに」
涙を流すあんを見て夜城は微笑み
「私の者に成れ巫女、そうすれば、そなたは暗黒の女王だ」
「そんなのに成りたくない、皆の元に返して」
「それは出来ない」
「貴方は何なの?」
思った事を聞いた、するとあんが座って居たソファーの隣に座り腰を抱き
「私は時代が平安の頃、好きになった女が居た。その女も私を好いてくれていた、結婚する事を約束しただが、速水に奪われて行った。家の決まりと云うやつだ、私は怒りと恨みで暗黒の世界に落ちた。その女は巫女そなたの先祖だ」
寂しそうな、悲しそうな顔で話してくれた。
「可哀相だとは思うけど、巫女をいっぱい殺したでしょ?使い手達も沢山」
「ああ殺した。いつも速水が邪魔をする、これと思った巫女も皆違った。」
「私も違うかもしれない」
そう言うと夜城は微笑みあんの頬を撫で髪を触り
「いいや、何も違わない、そなたは私が待っていた巫女だ」
「何故言い切れるの?」
夜城は優しく頭を撫でながら
「速水の家の記録には無いだろうが、初めの巫女、私の愛した巫女は今のそなたと同じ技、術を使った。顔も、髪も、声さえも同じ、そなたは生まれ変わりなのだ」
「何故私が生まれ変わりだと云うの?」
そう聞いた時だった、ドレスの胸の部分を引き裂き両痣に口付けした。
「嫌~」
裂かれた胸元を抑えあんは泣いた。
「彼女にも同じ痣が両方にあった、巫女乱暴な事をしてすまない、ローザ」
ローザと呼ばれた女性が来て
「姫様お着替えを」
と言いながら違う部屋に連れて行く。
また違う黒いドレスを着せられる。
「ローザさんは夜城さんの事、詳しいのですか?」
あんが聞くローザは首を振り
「聞きたい事はカイ様にお聞きになれば教えて下さいますよ。姫様が思うよりお優しい方ですから」
そう言いまた夜城の元に連れて行かれた。
「お願いです、皆の所へ返して下さい」
頭を下げ頼むが夜城は聞いてはくれなかった。
第十三話 遠い記憶
ローザに連れられ部屋に入る、そこにはベッドが有った。
着替えさせられもう寝る様に言われた。
疲れていたのか、直ぐに眠りに落ちた。
「カイ様~」
あんが夜城に抱き着くが、少し違う様にも見えた
「お会いしたかった」
「私もだ、あんな」
あんな?誰?でも私?
「あんな、私の家は公家では小さな家だ、それでも私と共に生きてくれるか?」
「はい、私はカイ様が居れば幸せです」
笑顔のあんなに口付けをした夜城とあんなは本当に幸せそうだった。
「嫌です。何故、速水の家に嫁がねばならないのですか?私にはカイ様と云う方が居ります」
「あんな、口答えは許さぬ」
「あんな、お前は女しか産まぬな、もうお前には様は無い山に村を用意したそこで女子を育てろ」
二人の女の子を連れて山奥の村に付いた生活は出来る様に計らって貰ったみたいだ。
「カイ様、カイ様、貴方は何処へ行ってしまったのですか?他の男の子供を産んだ私を許してはくれない、ごめんなさいカイ様、でも会いたい」
これは夢?切ない悲しい恋、あんは寝ながら泣いていた。
あんのベッドに腰かけ涙を拭い
「あん、そなたはどんな夢を見ているのかこんなに泣いて可哀相に」
夜城が呟くそして
「あんな、そなたが私を欲していた時に傍にいたら、他の男との子を産んだとて私は、あんなを愛していた。」
そう言って部屋を出た。
朝、目を覚ましたあんは、着替えをして夜城の所に行く
「おはよう巫女良く眠れたか?」
「あんなさんを探さなかったのですか?」
あんは夜城に聞いた。
「あんなの記憶を見ていたのか?探した、闇に落ちても探したでも見つけられなかった」
「結界」
「そうだ、用済みと捨てた女を速水は結界で見つけられない様にしたのだ」
夜城は遠い目をしていた。
「でも、私はあんなさんじゃない、生まれ変わりだとしても違う人格です」
「速水か?それとも他の4人か?そなたが心引かれているのは」
「違います。これ以上戦いをしないで」
あんの言葉を夜城は
「無理だ、私が最後に聞いたあんなの声は、速水の手下に押さえつけられ動けなかった私に助けてと言ったのだ。助けられなかった、この無念を、憎しみをそなたは分かるのか?」
あんは首を振り
「分かりません、でも、貴方が愛したあんなさんはもう死んでしまった。これ以上数千年戦う意味は何ですか?」
夜城はあんに近づき
「あんなが生まれ変わるのを待っていたのだ、今度こそ誰にも渡さぬ。この時代でこの戦いは終わる」
そして椅子に座りあんを見て
「安心せよ、速水達には案内状を出しておいた、暫くすれば此処に来るだろう」
夜城はあんの指輪を見てあんの手を取り
「あんなの指輪か、この指輪は私が送った物だ」
驚いた。まさか夜城が送った指輪が何故速水の家に有り武器として使われるのか。
第十四話 迎えに来た
「速水が来るまで時間が有る、話をしよう、何もしないから座りなさい」
言われた通りに座る。
「私の家系は鬼が出る家系でな、私が闇に落ちたらこの指輪の弓で私を射て殺してくれと言ったのだ。あんなは、私を殺したら自分も死んで一緒に成ろうと言ってくれた」
「本当に愛し合っていたのですね。時代が違えば夫婦に成れたのに」
あんが言うと夜城は
「今の時代に産まれ、普通にそなたと出会ったら結婚し子を儲け普通の幸せを過ごしていたかもしれないな」
あんは涙を零した。
「そなたは泣いてばかりだな、あんなは笑ってばかりだったぞ」
あんの涙を拭ってくれる。
こんなに優しい人が何故こんな風になってしまったのか?
時代が違えば、家が違えば速水さんとババ様も、この人もあんなさんも幸せに成れたのに。
「泣かないでくれ、そなたが泣くと私は辛くなる」
夜城が涙を流していた。
あんが夜城の涙を拭いた時だった。
「カイ様、来ました」
ローザが言うと皆が来てくれた。
「あん迎えに来た」
皆が声を揃えて言った。
「来たな速水、使い手、でもまだ私は戦わぬ、ローザ他の者も呼べ」
「かしこまりました」
ローザの他3人が加わった。
「あん待ってろ直ぐに行く」
カガヤが言うが相手は水を使う。
「あん」
土門がこっちに来ようとするが敵が立ちはだかる風を使う
「趣味が悪い、あんに黒は似合わないよ」
水人が言うと敵が水人に攻撃する土を使う
「色が違えば似合うけどねドレス」
爽が言うと火を使う相手が攻撃をした
「夜城、貴様の望みは何だ?あんなのか?」
「速水、私はお前の家を恨んでいる、そして速水が作り出した使い手とやらにもだ。私の望みはお前達の全滅とあんを手に入れる事だ」
さっきまであんなに優しかった夜城が変わって行く
「夜城さん、私を皆の元に返して、私はあんなさんじゃない」
そう言っても、もう駄目だった。
「私が攻撃すれば」
夜城に弓を引く、でも、身体がそれ以上動かない。
「あん、ごめん術を掛けた。この結末を見て居なさい」
夜城に術を掛けられた、でも、この人は最後まであんに優しかった。
第十五話 激戦
鬼との戦いは激しい物になった。
あんは、傷付いた仲間を癒せないで居る自分が嫌になって居た。
バリアも張れず、何が守る者なのだろう?
此方は劣勢に見えた。
速水も戦うが使い手でない者は簡単に倒されたが、生きている。
あんの身体が熱いそしてあんは術を解き癒し始める。
離れていても癒す事が出来たが、癒し以外は出来なかった。
「あんお前」
カガヤの傷が治りあんを見た。
皆の傷を癒す。
敵を変えて此方が優勢になった。
しかし遠くの仲間の傷を癒すには体力が足りない。
あんは意識を失った。
そんなあんを抱き上げ他の部屋に連れて行く
「あん」
皆があんを助けようとするが、強い鬼4体に加え下級の鬼、妖が出てきた。
あんをベッドに寝かせる。
ミズキと言って鬼を呼ぶ
「あんを見ていてくれ」
そう言って夜城は戦場に戻った。
「あんを返せ」
カガヤが夜城に言うと
「返せぬ、あんは私の花嫁だ。」
「ロリコン」
土門が言う
下級の鬼、妖は倒せたが、ドンドン湧いて来る。
対している上級の鬼は強く使い手達はまた傷付いて行く。
「此処から先、カイ様の元には行かせません」
ローザが術を使いカガヤに方からお腹まで斜めの傷を負わせる
「うっ」
カガヤが膝を付く
「カガヤ」
水人が助けようとしてもカガヤの元に行けなかった。
あんが目を覚ます、ベッドから起き上げると目の前がクラクラする。
「姫様、まだ、起きない方が宜しいかと」
「皆の所に行きます」
そう言ったものの、身体が動かない。
「貴女は?」
「私はミズキと申します。」
第十六話 悲しみの鬼達
「ローザさんもミズキさんも鬼なんですか?」
あんに聞かれミズキは頷き
「今戦っている上級の鬼、私も上級です」
「何故、鬼になったのですか?」
動けない間に鬼の情報を得ようと話を聞く
ミズキは分かって居る様に微笑み
「カイ様のお話は聞きましたね?」
あんは頷く、
「私達鬼は、元は人間でした、が、恨み、憎しみ、悲しみが強く残り死んだ者達なのです。私は江戸と言われた時代に生きておりました。好き会っていたと思っていた男に吉原に売られました。ですが、私は不器量だったのです。吉原の最下層に入りでも客は付かず、折檻を受けました。身体だけは良いと言い頭に袋を被せ顔が見えない様にされた事もございました。生きていても仕方なく簪で首を刺し闇に落ちました。カイ様に救って頂き顔も変えて頂きました。私は多くの男を殺し喰い上級まで上がりました」
聞きながらも皆の事が心配でたまらない。
そんな、あんを見ながらミズキは他の話を始めた。
「ローザは明治になったばかりの頃この国に来ました。しかしこの国の人達は目の色が青い、髪の色が金色だった為、鬼と言われ行き成り目の前で子供、夫を殺され服を脱がされ凌辱され死を選びました。
この国の者なら誰でも殺し喰い上級になったのです。」
戦いの音が全く聞こえず、今、皆がどうなっているのか?
「仲間の事が気になりますか?」
「勿論です」
あんが答えるとミズキは
「もう少しお話したらお仲間の事が見える所までお連れしましょう」
時間稼ぎをされているのか分からないが、皆を見る事が出来るならと思い話を聞く
「今、戦っているハジメは、昭和になったばかりの時に好いた女子と一緒に暮らしていました、お互いに親、兄弟が無くでも、その女子は身体が弱く働く事が出来ず、ハジメは大工でしたがその給金では薬代にしかならず、盗みをしてそれを闇市で売って生活しておりましたが、女子が亡くなり盗みがバレ腕と足を縛られ海に捨てられたのです」
「そして、アキラは最近ですが、幸せな家庭を持っていて、仕事も順調でしたが、買い物に出かけた時、通り魔に妻と子を目の前で殺され何度も何度も妻と子は刺されました。裁判で犯人は心神喪失で無罪になってしまい出て来る時にその男を刺し殺し、自分も自殺したのです」
ミズキは立ち上がり
「姫様行きましょうか?」
そう言ってあんの手を引いて戦闘が行われている部屋に連れていってくれる。
「もう1人居るのでは?」
あんが聞くと、歩きながら
「ツトムは学校で女子に人気が有り、手紙やプレゼントなど沢山貰う男の子でした、でも心に決めた女子としか付き合わないと言いツトムの事が好きな女子がツトムをつけ回し殺し自分の物にしようとし殺されました。今でもツトムは何故殺されねばならなかったのか分かっていません」
ミズキはドアを開けた。
皆が傷つき血を流しながら戦っているのを目にし叫んだ。
「嫌~皆」
叫んだ時、あんの身体が寒くなり光の霧が傷ついた仲間を包み傷を癒し、体力を戻した。
「ミズキ、何故あんを連れてきた」
夜城はミズキを怒りの目で見た、ミズキはさっきまでの人間らしいミズキでは無く人形の様になってしまった。
第十七話 大切な者
夜城はあんを抱き戦闘を見せる。
「そなたの大切な者達が傷つく姿はどうだ?」
「助けたい、帰りたい」
「私が闇に居るから嫌なのか?」
夜城に聞かれ
「いいえ、沢山の人を殺し、喰い、操る、それが嫌なのです」
「では、殺すのを辞めれば、そなたは私と共に居てくれるのか?」
夜城はあんに願うかの様に聞いた。
「私は皆の元に帰りたい、夜城さんとは一緒にはいられない」
そう答えると夜城はあんをきつく抱きしめた。
「辞めろ、あんに触るな」
いつも冷静な水人が叫び、下級の鬼や妖を一気に水で攻め消滅させた。
夜城はあんに口付けをした、あんは膝から崩れ落ちる、そのあんを抱き上げ椅子に座らせ自分も座る。
「貴様、あんに何している」
爽が風の刃を夜城に向けるが距離が有り簡単に跳ね返される。
「そなたらは、あんが大切の様だな、私はあんに何度となく口付けをし身体にも口付けをした」
「てめえだけは絶対に許さねえ」
カガヤが炎で焼き尽くしていく。
「あん、待っててね」
土門も土の力を使い敵を動けない様にしていく
「速水、もうボロボロでは無いか?」
「夜城、お前は速水が憎いのでは無いのか?なら私を殺せ、あんに手を出すな」
「では、望み通りにしてやる」
夜城が幸次に指を指しビームの様な物を出す。
幸次が覚悟した時、幸次を光のバリアが守る。
「あん、君は」
意識の無いあんは幸次を守った。
そしてあんはまた夢を見ていた。
「カイ様、見て下さい奇麗な花が咲いています」
「本当だな、あんなの次に奇麗だ」
あんなは夜城の腕に手を回し照れていた。
「あんな、そなたは私の大切な宝物だ」
「私は何が有ってもカイ様と居れれば幸せです」
幸せだった頃の二人の夢だった。
第十八話 死なせない
あんが目を覚ますと皆がまた傷付き戦っている。
幸次も微力ながら戦っていた。
「もう辞めて、お願い」
あんが呟くと、霧雨が降り注ぎ皆の傷をまた癒した。
「うっ」
あんが胸を押さえ苦しみを堪えて居た。
「あん、力を使うな、そなたの身体が持たぬ」
夜城がそう言い座らせる。
「ダメ、皆を殺させない」
「速水、これ以上戦いそなた達が傷付き、あんが癒せばあんの身体が持たぬぞ、もう帰れ」
「なら、あんを返せ」
夜城は首を振り手を振ると全員が壁に貼り付けられる、圧迫で苦しんでいた。
そんな皆を見たあんは祈った。
すると、夜城の術が解け皆が尻もちを付いた。
息が吸うのが荒くなる、また戦い始めた。
キリが無い程の敵が出て来る。
上級の鬼もまだ倒せていない。
「もしも私が居なければこの戦いは終わるのだろうか?」
あんはそう思ってしまった。
戦いを終わらせたい、もう誰にも死んで欲しく無い
あんは夜城の腰に有った刀を奪い自分の胸を刺した。
仲間は皆その姿を見て
「あ~ん」
悲鳴にも似た叫び声を出した。
夜城はあんの胸に刺さった刀を抜き傷に口付けした。
あんの傷は消えあんはただ意識を失っただけになった。
そんなあんを抱きしめ
「私はもう何も失いたくないのだ、何故こんな事を」
あんを抱き上げたまま夜城は姿を消した。
「待て夜城、あんを返せ」
幸次が叫ぶ、夜城は振り向いたが今までに無い位冷たい目で見ていた。
そして闇の世界から現実の世界に戻された。
「あんを取り戻せなかった」
皆は無力感でいっぱいになって居た。
第十九話 離さない
「速水さん、他に何か手は無いのか?」
イライラしながらカガヤが言う。
「あんが夜城の花嫁になったら」
土門が俯く
「あんは死んでなかった。夜城が助けた。夜城はあんを殺さない」
水人が言う。
「あんの負担にならない戦いをしないといけない」
爽が言った。
「私も出来る限り書物からヒントを探す、待っていてくれ」
幸次が皆に言い事務所に戻る。
「幸次様大丈夫ですか?」
時人が幸次の体調を気にする。
「今回は異例ばかりで本当に分からない」
幸次は頭を抱えた。
あんの意識が戻り皆の心配をしていた。
「あん、気が付いたのか、大丈夫だ、そなたを取り戻そうとしている者達は元の世界に戻しただけだ」
ふうっと息を付いた時だった。
あんの両肩を両手で抑え、涙を流しながら
「何故あの様な事をしたのだ、死んでいたらどうするのだ」
あんは自分がした事を思い出した。
胸元を見て傷が無いのを不思議に思い
「なんで?傷が」
「私が治した。もう私は何も失いたくは無い、そなたがもう人を殺すな喰うな鬼や妖を増やすなと云うなら私はしない。だから死のうとするな」
夜城の涙を拭きながら
「貴方はこんなに優しいのに何故、大勢の人の命を奪うのですか?」
涙を拭くあんの手を取り
「怒りと憎しみ悲しみ恨みこの感情が鬼や妖にする。止められないのだ。私は永く生きているがまだ心に穴が開いた様な気持ちが有るのだ。そなたが胸を刺した時、また失うのが怖かった」
恐れられてる闇の王がこんなにも怖がるなんて思わなかった。
「私はあん、そなたを離したくない、あんなの身代わりや生まれ変わりでなくとも良い、そなたを離したくない」
そう言ってきつく抱きしめる。
「私に力が有るからですか?最初に言ってましたよね?」
「あれはそなたを力で何とかしようと思ったからだ、そなたに力が無くとも良いのだ、ただ、あんに傍に居て欲しいだけだ」
第二十話 恋に似た
あんはどうしたら良いのか分からなくなっていた。
闇の王で沢山の人達を永い間殺し、巫女や使い手達を殺して来たこの人を何故か可哀そうな人に思えて仕方がない、でも、あんを守るために身体を張って助けに来てくれたり、元気付けてくれたり、優しくしてくれた仲間の元に帰りたい。
闇の城のベランダで月を見る。
「私はどうしたいのだろう?」
独り言を言う。
皆は食堂で話をしていた。
「俺はあんを助ける、あんな奴にあんを好きにさせてたまるか」
「それは僕も同じだよ、あんにキスするなんて許さない」
カガヤと土門が言う。
「そうだね、僕もあんを守りたい、あんだから守りたい」
「あんはどう思って居るのだろう?僕もあんを抱きしめる夜城を見たら怒りが湧いた」
水人と爽が言った。
「まるで皆、あんに恋している様だね」
幸次が資料を持って来た。
皆は顔を見合わせ赤くなった。
「それより何かヒントが有ったのかよ」
カガヤが聞くと
「いいや、すまない異例過ぎて無理だった。」
「速水さん使えない」
土門が不貞腐れる。
「本当にすまない、夜城家に行って来た。昔から鬼になりやすい家系らしいカイと云う人も居たのも確かだった。そのカイが愛した女性があんの先祖だった」
それを聞いて皆が驚く
「だって巫女の家系は速水とか使い手達と子供を作るんでしょ?」
「そうだね、でもカイと結婚の約束をし相思相愛だったのはあんなと云う巫女なんだ、ただ何故かそれ以上は分からなかった。速水の家には伝わって居ない」
「では、夜城が巫女に拘ったのは恋しい女性と結ばれなかったからなのか?」
爽が聞くと幸次は
「分からないけど、あんながどんな巫女だったかも分からない、もしも、あんが生まれ変わりだったとしたら、あんへの執着は説明が付く」
「それか、ただあんの事が好きになったかだね」
水人が言う。
「分かったのはその事と、向こうへ行けるかもしれないって事だけだ」
幸次が言うと
「向こうに行けるのが分かったのかよ」
カガヤが幸次の目の前に行く。
「試した訳ではないが、書物には書いてあった。巫女の村に行かなければならない」
「じゃあ直ぐにでも行こうよ」
土門が急かす。
第二十一話 声の届く場所、巫女の村
時人の運転で皆で巫女の村へ行く、山奥の道を進むと村が有った。
「此処が巫女の村だ」
幸次が言い皆は幸次に付いて行く
固く門が閉まっている、村に入るにはインターフォンを鳴らし電話で会話をする。
「速水幸次、火野カガヤ、及川水人、山本土門、野原爽、計5人です。」
そう言うと門が開き女性が来て
「此方にお願いします」
と皆を門の近くに有る家に通す、お茶を入れ帰って行く。
すると、老女がやって来た。
「速水様、今回は何か有りましたか?」
優しい微笑みで幸次に聞いた。
「あんが夜城に攫われ、一旦は助けに行ったのですが失敗しました、あちらの世界に行く方法がこの村に有ると書いてあったので、連絡もせず押しかけて申し訳ありません」
皆で頭を下げる
「そうですか、あんが」
皆が頭を上げる
「私、あんの祖母でこの村の長をしております、奈々と申します。」
奈々は皆の顔を見て最後に幸次を見た。
「速水様、書物の他に夜城家に行かましたね?」
そう言われ幸次は、はいと答えた。
「声は届きますが、行けるかは分かりません」
奈々に言われ、4人は
「あんと話せるんですか?」
と聞いた。
「用意を致しますので暫くお待ち下さい」
奈々は出て行ってしまった。
暫く待っていると迎えが来て外に出た。
大きな円その周りに何かの文字が地面に書かれていた。
円の外には5人の女性が鈴を持ち何かの行事の様だった。
円の真ん中に奈々が立ち
「あん、聞こえますか?」
その声にあんが反応した。
「ババ様?」
奈々は手招きして5人を呼ぶそして札を1人1人に渡しパチンと手を叩いた。
5人はあんの元に来た。
「あん」
皆があんに抱き着く
「どうして此処に?」
驚くあんに幸次が答える。
「来てくれてありがとう、嬉しいです」
再会を喜んでいるとあんが消えた。
「人の城に土足で入るな」
夜城の声がした。
「あんを返せ」
カガヤが周りを見ながら言う。
周りが暗闇に変わった。
最終話 浄化
「また戦いに来たなら相手をする」
「先ずは出てこい」
水人が言うと、夜城が1人で現れた。
「あんを返せ」
「お前達があんを必要としているのは、あんを戦いに使いたいのだろう?」
夜城が言う。
「違う、お前が居なく成れば戦いは起きない僕達はあんが大切だから迎えに来たんだ」
土門が言う。
「大切か、私はあんを愛している。花嫁にしたいと思って居る、お前達は違うのだろう?」
夜城の言葉に皆が考える。
「この中の皆があんを好きだ、将来だって考えている、夜城と同じだ」
「そうか、では力ずくで奪え」
5対1の戦いが始まった。
あんは窓から見る事しか出来ない。
「皆が私を思ってくれているの?」
あんも皆が大好きだった。
でも夜城にも引かれていたのは事実だった。
出来れば見たくは無かった。
5対1でも夜城は強かった。
「もう手下は呼ばないのかよ」
カガヤが言うと
「あんの事は私自身の問題だ」
皆の攻撃をいなしながら攻撃をしていく夜城を奇麗だと思ってしまった。
「強い、けど負けない」
爽が言う、爽の攻撃が当たり夜城の腕に傷が出来る
あんは目を瞑る。
徐々に夜城の身体に傷が付いて行く
皆もボロボロに成りながらあんの為に戦う。
そんな皆を見ていられないと思った時
「あん、あんの好きな様にしなさい。何にも縛られずに自由に心のままに」
「ババ様」
今まで聞いた人間達の夜城や鬼達の儚い恋の話を思った。
ふと、あんは
「まさか夜城さんは負けるつもりで1人で戦っているのでは?」
そう思わずにはいられなかった。
いくら強くても使い手達も強い5対1なんて戦いなんて何故?
決着が付いた時にあんは戦いの場にこれた。
倒れていたのは夜城だった。
あんは夜城に駆け寄り声を掛けた。
「あん、私の巫女無様な姿だな、すまない、もう時間が無いのかもしれないね」
そう言いながらあんの頬を撫でた。
「さあその弓で私を」
あんの指輪を触る、あんは泣きながら弓を引き放った。
弓は夜城を貫いた。
夜城の手に指輪を握らせた。
「あん?」
幸次が言うと
夜城とあんなの姿が浮かび上がりお互いに見つめ合い抱きしめ合い天に昇って行った。
「ありがとう」
二人の声がした。
夜城は最後まで優しい人だった。
あんが元気になりまた普通の日々が始まった。
「あん、学校いくよ」
「はい」
完