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ある日突然、拉致られる


スイ、と人差し指で画面をスクロールする。


ぱっと現れたのはふわふわと可愛らしく、かつきらびやかな店内の写真。

今度は横にスクロール。

白い粉糖が振りかけられたチョコケーキの中から、とろりと溶けたチョコレートが流れ出てきていた。


フォンダンショコラだ。


「うっっわ、美味しそ!」

「でしょ!?」

「あたしフォンダンショコラ世界でも5番目くらいに好きなお菓子なんだよね」

「それはね、『ミカエル殿下の腹黒ショコラ』って名前のデザート」

「なんつー名前だよ……」


思わずげんなりしたあたしに有紗はケラケラと笑った。


「中のチョコがミカエルの真っ黒い腹の内みたいだね〜っつーこと!」

「悪趣味ぃ……」

「でもフォンダンショコラに罪はないでしょ」

「そりゃそーだ」


フォンダンショコラに罪はない。

あたしはこくんとひとつ頷いた。


「いーよ。一緒に行くよこれ。なんだっけ? リュョル?」

「アグレッシブな略し方しないで。『竜と夜の光』だよ、『竜と夜の光』。それのコラボカフェなの」

「そうそうそれそれ行く行く」

「マジで来てくれんの? やった! サンキュ〜! やっぱ持つべきものはフッ軽で食い意地張った親友!」

「悪口じゃね?」


なんだよ『食い意地張った』って。

フッ軽だけでいいだろせめて!


反論の言葉をぐっと飲み込んで、代わりの言葉を口にする。


「有紗の奢りね」

「もっちろん」


じゃあ今度の土曜日、駅前でね!

そう言って有紗と手を振って別れた。


──あたしの記憶はここまでだ





不明瞭な視界。

ボヤボヤして何も見えない。


……いや、何か見える。誰かいる?

おかーさんかな? 起こしに来てくれたのかも。


ボヤけた何かはだんだんとはっきりした形をもってきた。

キレーな長い金髪。真っ白なドレス。羽。


……羽?


いや、おかーさんな訳ないだろ!!! パツキンドレスに羽ついてる人間がおかーさんな訳あるか!

うちのおかーさんはもっと年相応に野暮ったい服着てるんだよ!

誰だあんた!


ガバッと飛び起きた。


「誰!?」

「あれ、お目覚めですか? 随分お早い。もう少し寝ていてくださってよかったんですよ」

「寝られるか! あんた誰よ!? あたしの部屋勝手に入ってこないで! かたくしんにゅー罪だよ、かたくしんにゅー罪!! わかる?!」

「家宅侵入罪ですね、わかりますよ。でも違います」

「違くない!」

「違いますよ。だってここ、あなたの家ではありませんから」


言われて初めて辺りを見渡した。

暗い。それに広い。


暗くて広くて、それになんにも無い。

あたしはなんにも無いところに寝っ転がっていた。


「嘘……ここ、どこ……? 誘拐……?」

「う〜ん、当たらずとも遠からずってところですかね?」

「どっちよ」

「では『どちらでもない』ということで。ところであなた、ゲームはお好きですか?」

「ゲーム? 別に」


お泊まり会でレーシングゲームやるくらいしかしない。ひとりだったら電源もつけない。

ゲームって人数いないと楽しくなくね? って思っちゃうし。


だから正直にそう言ったらパツキン不審者は眉を下げた。


「そうなんですか? 困りましたねぇ。乙女ゲームもご存知ない?」

「やったことないけど知ってるよ。あたし漫画好きだもん。乙女ゲームの世界にトリップする漫画一生分くらい読んだ」

「そうですか、それなら安心です」


にっこり。


もうその擬音がぴったりな胡散臭い笑顔。

その時嫌な予感がしたよね。

あ、こいつ絶対今からろくでもないことするな、って思ったもん。


警戒しすぎて思わず飛び退いた。

多分カエルくらい飛んだよ、あたし。


「何っ……何する気!?」

「嫌ですね、何もしませんよ」

「嘘つけ! 酔っ払いは酔ってないって言うし、テス勉してるやつは勉強してないって言うし、何かするやつは何もしないって言うんだよ!」

「おや、賢いですね」

「褒めてる場合か!」

「まあアレですよ、ちょっと救ってほしいんです」

「何を!? 世界!? 個人!?」

「世界であり、人であり、個人です。同じことですよ」

「同じじゃねーよ! 規模違いすぎんだろ! つか何RPG系なの!? 無理だってあたしそーいうのマジ下手なんだって!」

「大丈夫です。あなたなら出来ます」

「話聞けぇ!」


そんなことを言ってるうちに真っ暗だった部屋は段々と謎の光に包まれ始めてくる。明るい……てか眩しい! 明るいとかいう次元じゃない!!


光源どこだよ! なんでもありってか!!


「ちょっ……マジで聞いてる!? ねぇ! ちょっと!!」

「一人の人間の日常を奪うこと、これでも心苦しく思っているのですよ。罪滅ぼしにもなりませんが、ではあなたの元々いた世界へ伝言を致しましょう。何か伝えたいことは?」

「え!? そんな急に……えっえっ、あ! 有紗! 有紗に伝えて!」


フォンダンショコラ、土曜日無理そう! リスケよろ!


なんとかそう叫びきったくらいの時、部屋の明るさがMAXになって目も開けているのもしんどくなった。

眩しすぎて不審者の姿すら見えなくなって、一瞬だけ目を瞑って……そして、今。


目の前にはわけの分からない文字列が光っているって訳。


「は……? なにこれ……?」


画面っぽく見えるけど、画面じゃない。プロジェクションマッピング的な? わかんないけど。

青白い文字だけがぼんやりと浮いている。


『あなたの 名前 を教えてください』


文字は急かすかのようにちらちらと点灯しては止まり、また点灯しだした。


「……はぁ?」


なんだこれ。なんで急にそんなこと聞かれなきゃいけないわけ?

つかあんた誰? あたしの名前知りたいんなら先にあんたが名乗りなよ。


言いたいことはいっぱいあったのにどれも言葉にならなかった。


「にいなだけど……新しいに菜っ葉で新菜。糸川新菜」


丁寧に名乗る。

なんなら漢字まで説明しちゃったし。

苗字までつけちゃったし。

誰か聞いてくれてるかすらわかんないのに。


なんにもわかんないけど、それでもこのプロジェクションマッピングもどきはあたしの声に反応してすっと別の文章を出してきた。


『ニーナ でよろしいですか?』

「いやよろしくないんだけど。漢字教えたじゃん。つか伸ばし棒やめてくんない? バカっぽい」

『漢字は実装されていません』

「なんでだよ! しろよ!」

『へメラ王国。それはイヴェルシャトーの一族を王家とし、古くから栄えてきた由緒正しく歴史ある王国である。東西北を深い森に囲われ、南側は海に面した地形では──』

「えっ怖い怖い怖いなんか始まったけど!? え!? 何!?」






──へメラ王国。それはイヴェルシャトーの一族を王家とし、古くから栄えてきた由緒正しく歴史ある王国である。


東西北を深い森に囲われ、南側は海に面した地形では他国から狙われることも少なく、800年の間、イヴェルシャトーの血筋は絶えることなく続いてきた。


しかし、へメラ王国はただ平和で穏やかな国という訳にもいかなかった。


へメラ王国の領土の三方に面する深い森。

その森には竜が住むのである。


古来より人間と敵対し続けた竜。

日の光を嫌い薄暗い森を住処とする竜こそがへメラ王国建国以来の最大の敵であり、へメラ王国が他国との繋がりが希薄である最たる理由であった。


そうは言ってもお互い牽制のみに留め、戦火を散らすことなく過ごしてきた日々が、ある時から徐々に崩れていったのだ。


竜が凶暴化したのである。


年々凶暴になっていく竜。

不安の火を消しきれずに日々を過ごす数多の民。

原因不明の凶暴化への対策を迫られる王家や貴族。

寝食の時間すら削り命を懸けて国境警備にあたる騎士団。


誰もが疲弊し、誰もが他を信用できず、明日に、次の季節に、1年後の未来に希望を見ることができなくなった。


民の心がバラバラになっていく国の行く末は滅亡か。

理性を失った竜を待ち受けるのは殲滅か。


何者でもない貴方の選択が人の、国の、世界の運命を変えていく。





脳みそに直接響くみたいな奇妙な音声が訳の分からないことをつらつらと喋ったと思ったら、聞いたことのあるような声が、頼みましたよ、いってらっしゃいと囁いて、それからまたまた視界がブラックアウトした。


この短期間でどんだけ意識飛ばすんだよあたしは。

はじめまして!

ここまで見てくださってありがとうございます。


これから新菜(と作者)が慌ただしく頑張る姿を、生暖かく見守ってくださると嬉しいです。

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