ソロ最初の壁
続きます
ダンジョンの2層を攻略し1週間が経ったが、未だに俺は3層に挑めないでいた。
「ソロ最初の壁ね...」
この1週間ダンジョンの2層でゴブリンを相手に戦闘経験を積みながら3層の情報を集めてきた。
しかし皆が口を揃えてこういうのだ。
「ソロで3層に行くのはやめておけ。」
詳しく話を聞いたところ3層の魔物はコボルトらしい。
ゴブリンと同じく子どもほどの背丈でゴブリンとは違い犬の特徴を持っているため身体能力が高く匂いに敏感なのが厄介なところだ。
しかし、コボルトがソロ最初の壁と呼ばれる理由はそこではない。
飛び道具と団体行動。
3層ではコボルトが3~5匹でパーティーを組みながら行動し、パーティーによってはボウガンや弓を持ったコボルトがいることがあるという。
「もしSランク唯一のソロ冒険者『桜姫』や桜姫ほどではなくてもAランク、Bランクの冒険者レベルの魔法なら余裕だけどよ、アズマは金属魔法だろ?少し試すくらいならいいが本格的に攻略しようとすんのは止めとけ。」
「そういうガンさんの魔法は何なんだよ。」
「俺か?俺は普通の土魔法だよ。アズマと同じ系統だな。戦い方も同じようなもんでソロ向きじゃねーな。」
「ガンさんも人のこと言えねえじゃねーか、そんでさっき言ってた桜姫ってのは?」
「知らねえのか?Sランクの中で最も若くそれでいてソロの実力者。戦うときに桜が舞うから桜姫って呼ばれてんだ。」
「知らん、Sランクのことなんぞ知っても何の参考にもならんだろ。」
「ロマンがねえことを言うなあ。だが正解だ。SランクどころかAランクですら化け物揃い。間違っても目指そうなんて思わんことだな。」
「まるで見てきたかのように言うんだな。」
「当たり前だ。前まで王都に居たんだ、功を焦って死んだやつなんぞいくらでも見てきた。」
「おい、ガンさんランクいくつだ」
王都のダンジョンってCランクからだろ。
「いくつだろうな?まあほぼほぼパーティーについていっただけだよ。考えみろ、俺が土魔法で敵を倒せるように見えるか?」
「いや、見えん。」
申し訳ないが大柄だがそれほど鍛えてるようにも見えない、ただの雑貨屋のおっさんだ。
「だろ?ってその話はいいんだ。何が言いたいかって言うとな、世の中数多の冒険者がいる。だがその中でCランクになれるのはほんの一握りだけなんだ。そこからBランクになるともっと減っちまう。上に行きたいなら自分の実力を、能力をしっかり見極めて向き合うことだ。それが出来りゃ簡単には死にはしねーよ。」
「分かったよ、気に止めとく。」
「まあ2層でゴブリン殴り殺しまくって陰ではバーサーカーって呼ばれてるやつがそう簡単に死ぬとは思えんがな!」
「はあ!?そりゃ俺の話か!?ちょっと詳しく教えろよ!?」
「さあこれ以上は商売の邪魔だ!3層の情報はくれてやったろ?満足して帰るんだな!ガッハッハ!」
「おい!おっさ...ちょ...今度聞かせてもらうからな!?」
許さねえあのおっさん
「..........」
そんな会話としながら店を出た俺をじっと見つめる視線に俺は気づくことはなかった。
「ガンさんの言う通り、いつでも退けるとこでコボルトとは戦うか。」
結局俺はコボルトと戦うことにした。
別にあの後ギルドに行ってパーティーメンバーを探しても良かったのだが1戦だけコボルトと戦ってみたくなったのだ。
「最初から油断は無しで行くぞ。」
両手からとげを伸ばして警戒しながら3層へ降りる。
ちなみに左手のとげは右より少し大きくしてある。
今回はいつでも逃げられるようにあまり入り口付近から動かずにコボルトを待つ作戦だ。
少し待っているとコボルトが現れる。
「4匹か...」
今回現れたコボルトパーティーの数は4匹。
しかも
「ボウガン持ちもいると。」
「グギャ!」
コボルトのパーティーの武器構成は剣が2匹にこん棒とボウガンが1匹ずつ。
「1対3すら初めてなのにな...」
ソロ最初の壁と言われる理由も納得できる。
攻撃魔法すら持っていない人がおおよそ敵う相手ではない。
ただ...
「よっしゃ!いっちょやってみるか!」
やる前から諦めていては何も始まらない。
「グギャ!」
縦振りで飛び掛かってきたコボルトの剣を避け、一旦距離を取る。
1匹に気を向けすぎると他のコボルトに気が回らず危険な状況に陥る可能性があるため距離を取ってよく周りを見るのだ。
そうしていると2匹のコボルトが距離を詰めて攻撃を仕掛けてきた。
大きく横に動いて躱し、その内の1匹を仕留めようとするも、
ヒュッ
「っぶな!?」
身体の近くを矢が通過し、慌てて下がったため体勢が少し崩れてしまう。
「グギャァ!!」
「やっべ」
その隙を狙われ最初のコボルトがもう1度縦振りで追撃してくる。
「ぐっ!!」
ザシュッ
「ぐぁっ!?」
避けきれず剣を籠手で受けたところで矢が横腹を掠める。
「グギャ?」
これは無理だ、退こう。
俺は剣を弾き、コボルトたちから眼を離さないようにして後退していった。
「あんまり追いかけて来なかったな...」
3層と2層を繋ぐ階段まで来た俺は座り込みながら戦いの反省をしていた。
「全く攻撃する隙がなかった。連携上手すぎるだろあれ。」
1対1なら確実に、問題なく勝てる。
しかし、人数差があり隙のない連携攻撃を仕掛けてくるとなくと話は別だ。
「あれは俺じゃ無理だな、パーティーメンバーを探そう。」
俺はポーションの飲み地上を目指して歩き出した。
そして地上に出てすぐのこと。
「お前が籠手で戦うと言われてるアズマだよな?」
「ん?そう...だ...が?」
背後から話しかけられ振り返るとそこには俺の背丈ほどもある大盾を持つ男が立っていた。