旅立ち
続きます
「どうしたもんか...」
その夜俺はベッドに寝そべりながら今後について考えていた。
あの後みんなの魔法や武器の検証をしていたのだ。
とはいってもテニトは魔力が足りなくて魔法が使えないし、ティオラとマズはかなり知られているアイテムと魔法だったのでそこまで長くならなかったが。
正直俺はあの3人とは違ってやりたいことが明確ではない。
テニトとマズは騎士団に入りたい、ティオラは王都で自分の店を開きたい。
それに比べると俺はこの農作業ばかりの生活から逃げるために村を出たいだけなのだ。
まあどんな道に進もうと戦いがしたくはあるのだが。
俺は本当はテニトとマズと一緒に騎士団に入るつもりだったのだ。
「だけどこんな祝福じゃあなあ」
籠手に金属魔法
とてもじゃないが騎士団にふさわしい祝福とは言えない。
「となると...やっぱり冒険者か...」
冒険者...この世界で神様の祝福を受けた人のほとんどがなると言われている職業だ。
地下の巨大な空洞、いわゆる「ダンジョン」に生息する魔物を相手にして落とした素材を売ることで稼ぐ者もいれば、「魔境」と呼ばれる地上にあり魔力が非常に濃く、魔物が跋扈する危険地帯を狩場とする者もいる。
ちなみに騎士団はときどきダンジョンや魔境から外に出てしまう「はぐれ個体」と呼ばれる魔物や盗賊などを相手にすることが多い。
俺たちが住むこのミノラ王国にもいくつものダンジョン、魔境があり王都には王国最大のダンジョンが、ずっと北へ進むと世界最大の魔境があるのだ。
冒険者になれば今までのような退屈な毎日を送ることはなくなる。
...命の危険はあるが。
「決めた、俺は冒険者になる!!」
そうと決まれば明日からの計画を立てなければ。
つーか俺なんで前日の夜にこんな大事なこと決めてんの?
まあいいか。なるようになるだろ。
「となると目指す街は...アカシかな」
目的地はアカシという街に決めた。
冒険者ギルドがあり、かなり小さめのダンジョンがある。
冒険者デビューをするにはうってつけの街だろう。
問題があるとすれば、
「...あいつらとは途中で別れることになるのか...」
そう、このアカシという街
王都とは少し方向が違うのだ。
最初は同じ道だが途中からは別れてしまう。
「だとしても俺は冒険者になりたい。」
「冒険者として実力をつけたら王都へ行こう」
そう決意して俺は眠りについた。
「結局アズマは冒険者になることにしたのか。」
「あなたの選択だから止めはしないけど気を付けて行くのよ。」
「うん。ありがとう父さん母さん。行って来ます。」
「ああ。」「ええ。」「「行ってらっしゃい。」」
翌朝両親に挨拶した俺は村の入り口へと向かう。
「もー!!アズマ遅いよー!!」
「すまん、昨日ちょっと寝るのが遅くなってな」
「楽しみで眠れなかったの?」
「そんなわけないだろ。待たせて悪かったな、ほら行くぞ」
「ちょっ何で最後に来たアズマが仕切るんだよ!?ここは1番最初に集合した俺が仕切るとこだろ!?」
「知らん知らん。マズが仕切りたいならそうすりゃいいだろ。俺とテニトはそういうのに興味ないんだ」
「ねえなんで私の名前はないの!?私も仕切り役に興味はないよ!?」
「そりゃ精神がまだ子供だからだろ。俺は未だにティオラが同い年なの信じてないからな」
「ねえちょっとマズ聞いた!?アズマに何か言ってやってよ!!」
「ティオラも仕切り役狙ってんのか!?」
「私の話聞いてた!?」
「なんで4人揃うだけでこんなに騒がしくなるんだよ。アズマが来るまではだいぶ静かだったじゃねえか。入り口で喋ってないでさっさと出発するぞ。」
「あー!?今度はテニトが仕切り出した!!アズマの嘘つき!何が俺とテニトはそういうのに興味ないだ!」
「知らねえよ。つーかお前のその仕切り役に対する執着はどっから来てんだ。」
「ねえアズマ?私まださっきの発言許してないからね?」
「「出発くらい穏やかに行こうぜ...」」
こうして俺、テニト、ティオラ、マズの4人は育った村との別れの寂しさを微塵も感じさせないままカカル村を旅立ったのであった。
「なら、俺はここまでだ」
この先は別れ道、ここでみんなとはお別れだ。
ここに来るまでに半日ほどかかっているはずなのにあっという間に感じてしまうのはどうしてだろうか。
「アズマがいなくなるとなんだか寂しくなっちゃうね」
「実際俺たち4人組のリーダーみたいな雰囲気あったからなー」
「まだアズマとは戦ってないからな。簡単にくたばるんじゃないぞ」
「だから戦わないっての。せっかく無事に再会できたのに死んだら意味ないだろ」
「王都に来れるレベルの冒険者になっても槍の対策すらしないつもりか?」
「そのときにはもう対策しても意味ないくらいに強くなってんだろうが」
「ははは、もちろんそのつもりだ。王都で待ってんぞ」
「アズマ...ちゃんと私のお料理食べに来てね?」
「分かったよ、王都に行ったときは店に寄らせてもらうよ。それまで潰れんなよ?」
「もー!!アズマ!?なんで最後までそんななの!?」
「ごめんって、元気でなティオラ」
「まったく...元気でねアズマ」
「俺たちもゆっくり待つからアズマもゆっくり来ればいいよ」
「マズはマイペースすぎないか?テニトと同じタイミングで騎士団に入っても昇級意識のないお前を置いてテニトだけどんどん昇級していくのが目に見えるぞ?」
「いーんだよいーんだよ、あいつは祝福がとんでもないんだから」
「そんなこと言って、意外となんでも器用にこなすから気づいたらテニトの隣に立ってそうにも思えるけどな」
「へへっ、そうだといいな」
「ただよく分からないところにこだわるその性格は直しとけよ?」
「んーぼちぼち直しとくわ」
ん、直す気ないな
少し話過ぎたか?日が暮れ出してしまった。
「それじゃあ俺はもう行くよ」
「ああ、行ってこい」「行ってらっしゃい」「またねー」
「「「「いつかまた王都で」」」」
別れ道からの道のりは少し寂しいものがあった。
当たり前だ。
あれほど騒がしい幼なじみたちと別れて寂しくないわけがない。
「早く会いに行きてえな...」
まだ旅は始まったばかり。
こんな序盤で感傷に浸り続けるわけにもいかない。
「よし!切り替えて行くか!俺は心強いパーティーメンバーを集めて王都であいつらに会ったときに自慢してやろう!」
最初はソロだけど。
そんなこんなしていると遠くにいくつもの灯りが見えてきた。
「見えたな、あれがアカシか!デカイな!しかも明るい」
村育ちの俺からするとあり得ないほど夜でも明るい街
神様の祝福を与えられた者たちが集うこの時期に一層栄える「眠らない街アカシ」
それが俺の冒険者デビューの場所だった。