6.婚約候補者
メイビスに耳をひっくり返され、長い尻尾でペシペシと抵抗を試みるも無駄に終わる猫のグレール。
完全に猫に戻ってしまったように「うにゃうにゃ」と文句言ってる。
神様代理なのに威厳というものがないらしい。
癒し担当だからいいのか。
今3人は白い部屋でテーブルを囲んで作戦会議だ。
もちろんおやつは常備。今日は駄菓子をチョイス。
父伯爵は娘が王太子との結婚を望んでいると王家に何度も根回しをしている。
「そもそもなぜそんなにバカ王子と結婚させようとしているの?」
「ゆくゆくは王妃となればいい宣伝にもなるし、王家からの融通もきくから」
「くだらないわね」そう優里は即答した。
伯爵令嬢メイビスは顔をしかめる。
「だってそうでしょう?
王家から協力を引き出したいのなら実力で勝ち取るべきだわ。
あからさまに能力がないから娘を差し出しますって、人身売買じゃあるまいし」
メイビスは異世界での常識がユーリには理解できてないのだと思う。
「異世界では王家に逆らうことは反逆罪だな」と猫のグレールは言う。
「父親には反抗できるわよね?なにせまだ成人前で子供だもの」優里は問う。
「お、お父様に?そ、それは・・・と、とても恐ろしいことですわ」
気弱なメイビスは父に怒られた時を思い出しながら震え声だ。
「ふふ。そこはこのお姉さんに任せなさい。
どうせメイビスの事なんて役に立つ駒くらいにしか思ってないわ。
貴族のふるまいからは逸脱してしまうけど、構わないかしら?」
メイビスの影響を受けて丁寧語になってしまうユーリ。
元社会人の優里は上司や先輩方に怒鳴られたのは一度や二度ではない。
もう来るなと物を投げられたりなんて日常茶飯事、建築業界なんてそんなものだ。
華麗に避けることが日課となってしまっていた。
親方たちは口や態度は最悪だけど、それでも安全のために怒鳴るのだ。
だけどメイビス父はどう考えてもおかしい。
彼女が気弱なことに付け込んで思い通りにさせようとしている。
メイビスは人形じゃないぞ。人間だと私が気づかせてあげるわ。
◇
映像の続きが映し出された。
優里がやらかした問題発言のせいで何度も呼び出される父。
ざまぁ。
結局あれだけやらかしても婚約候補者になってしまったようだ。
候補者というからには他にも候補になった令嬢がいる。
これで『聖女』になろうものなら決定的なので全力で回避せねば。
「ここからどうやって候補者から降りるかだよね」
グレールは猫の短い前足を腕組みのようにする。
かわいい。
メイビスもニコニコしながら猫を撫でる。
彼女の感情がどんどん出てきてうれしい。
「ねえメイビス。伯爵って王様の次に偉いの?」
「いいえ。大きく分けて公爵は王族。侯爵、伯爵、子爵、男爵と続くの。
王族の正妃を輩出出来る下限は伯爵ね」
「じゃあ相当ゴリ押ししてるのね」
「あちこちいろいろばらまいてるのかもしれないわ」
レモネード伯爵の領地は上質ワインでクレリア国を支えている。
潤う金銭をばらまいて味方を増やしているのは間違いないだろう。
メイビスも田舎の令嬢なので王都の礼儀を厳しくしつけられていく。
今のところまともに王太子と会話をしてない。
次は父である伯爵と対決を画策する。
「あともし伯爵家を追い出されることになったら生活できる基盤もほしいわね」
「伯爵家を出る?あの、ユーリ・・・私もう死んでますけど」
「そんなの関係ないわ!これはサバイバルゲームなのよ。
どんなほうに転んでも生きぬけるのがパーフェクトだわ」
「よ、よくわからないけど・・・そういうものなの?」
「そういうものよ」
謎のゲーム攻略に燃える優里。
「そうね。どうせ現実は変わらないのだし、あくまでゲームなんだし」
「うふふ。メイビスもわかってきたじゃない。
楽しくお茶しながら可愛い小さなメイビスちゃんを助けましょうよ」
灰色の猫の柔らかで温かい毛並みをなでながらメイビスは考える。
どうせ死んで消えるのならそのまえに小さな私を幸せにしておきたい。
私の知らなかった幸せを小さな私に。
もし伯爵家を出るのならどうするのか?
優里にどんな仕事がいいか考えておいてと言われる。
「ど、どうしよう。私ができることなんてあるの?困ったわ」
何も考えないように生きてきたのが裏目に出るメイビス。
紙にできそうなことをあれこれ書いてみたがほぼないに等しい。
・お花が好き でも虫はダメ
・料理出来ない
・掃除やったことない
・刺繍などの手作業も上手とは言えない
「伯爵令嬢として習ったことは何の役にたつのかしら?」
ため息しか出ない。
・貴族のマナーもまだまだ
・ダンスも習ったけど踊ったことがない
「私って結局何がしたかったのかしら?」
自分の半生に悩むメイビスであった。
もし、少しでも面白かったと思っていただけたのなら、
『ブックマーク』と【評価】何卒応援よろしくお願いします。