2.ユーリ
『「聖女様の逃避行」を代行します』に出てきた優里さんです。
作者的に面白い子だったので気にってます。
神様代理として彼の心に浮かんだのは異世界日本に住む女性。
彼女の名は小山優里。
建築業者に就職して2年目である。いわゆるゼネコンの設計部門の下請けである。
関連会社の親方とよばれる人たちを大量に抱え込んで仕事の発注をする。
なかなか希望の設計を任せてもらえないが、今は我慢するしかない。
6階建てマンションに戻る足取りは重い。
優里の部屋は5階だ。
一番上ではないから価格が安い。
事情があった孫の優里のために、祖父が購入してくれたワンルームである。
彼女には秘密がある。
それは以前『異世界ゲーム』を通じて本当に異世界へ10日間行って来たことだ。
異世界は魔獣が歩き回る剣と魔法のファンタジーな世界だ。
もう行くことはできないが、
そのゲーム上で異世界の友人と『異世界チャット』できるようにつながっている。
部屋に戻ってルームウエアに着替え、コーヒーを片手に『異世界チャット』を立ち上げる。
今まではたった一人としか繋がっていなかったが今、別人の文字が書き込まれた。
グレール:やあ、こんばんは。神様代理だよー
ひぃっ!
なにこれ?
イタズラ?
持っていたコーヒーカップを落としそうになる。
グレール:ああ、驚かせてごめんね。
小山優里さん、はじめまして神様代理のグレールです。
優里は画面をしみじみと見直してイタズラではないと判断する。
この『異世界チャット』の存在は神様も知ってるはず。
閉鎖し忘れたことに気が付いたのかな。
ユーリ :もしかして『異世界チャット』の閉鎖でしょうか?
グレール:この『異世界チャット』を閉鎖しなかったのは訳があるんだよ。
神の手伝いをしてくれた聖女エリスを、そんなことで悲しませたくないからね。
そしてユーリとして手伝ってくれた君にも感謝してる。
ユーリ :えっと、では『異世界チャット』に現れた理由は何でしょうか?
グレール:ユーリとしてまた手伝ってくれないかな。
ユーリは二度と会えないと思っていた聖女エリスや愛しい人を思い浮かべる。
(会いたいな。皆さんどうしてるのだろう)
グレール:今回はクレリア国の聖女メイビス・レモネードを助けてほしい。
ユーリ :え?クレリア国?
グレール:聖女エリスのいるアピオス国は隣だからすぐいけるよ。
アピオス国とクレリア国の国境は開放されてるんだ。
前回は、虐げられていた聖女エリスと入れ替わり、セレベス国からの国外逃亡を手伝ったのだ。
聖女エリスが逃亡先として指定したアピオスはなかなかいい国のようだ。
◇
ユーリはルームウエアのまま、グレールのいる白い部屋に招待された。
部屋と同じ白い丸テーブルにはお茶セットが置かれている。
神様代理と蜂蜜色の髪と空色の瞳が印象的な伯爵令嬢が座っていた。
神様代理は猫の姿で、グレーの毛に銀色の瞳だ。渋いわね。
「ここは時間の流れが存在しないからゆっくりしてほしい」
私たちはお互いに自己紹介をする。
お茶を飲みながら彼女の現状を聞き出す。
日本のゲームでは「聖女」というものは大抵男爵か平民という地位が低い設定であることが多い。
だがメイビスはクレリア国のレイモンド・レモネード伯爵の長女だ。
メイビスはいくらか猫目なので悪役令嬢にも見える。
ここが「乙女ゲーム」の世界ならきっとピンク髪の子が主人公なのだろう。
とりあえずまとめてみる。
・弟を助けようと祈ったことで『回復』スキルが使えるようになる。
・15才成人式にあたる『スキルの儀』にて『聖女』が顕現。
・神殿に拉致されて、毎日聖魔法を倒れるまで使用。
・政治に利用するため王太子と強制婚約。
・過酷な王太子妃教育。その後婚約破棄。
・過労で死亡。
箇条書きしただけで異常さがわかる。
ユーリはメイビスに聞いてみる。
「逃げ出そうとは思わなかったの?」
「?・・・・逃げ出す・・・・・どこに?」空色の瞳が揺れる。
「え?これだけのことされて逃げようとも思わなかったの?」
「伯爵の娘が・・・そんなこと許されるはずないの」
「そういう時代ってあるのかもしれない。
でも、だからって自分の命まで懸けても守らなきゃいけない事なの?」
「・・・」
「そうやって無駄に犠牲になることに何の意味があるの?」
「・・・」
メイビスは答えることができない。
そして大きな空色の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちていく。
焦ったユーリはハンカチを出して「いきなり沢山ごめんね?ゆっくり教えてくれる?」
◇
聖女になる条件はどの国も同じらしい。
1・怪我を回復できる『回復』(ヒール)
2・穢れや状態異常を払う『浄化』(リカバリー)
3・穢なき乙女であること
3は貴族の嗜好を反映してるとはいえ、これら条件がそろうと伯爵と同等の地位を与えられる。
優里も異世界にかかわったことで『回復』スキルだけは持っている。
持ってはいるが魔力がないので使えない。
無言でうつむいてしまったメイビスに代わって、優里はグレールに話を振る。
「うーん。つまり『スキルの儀』で『聖女』を授けた神様が一番悪いわよね」
「聖女の条件が揃ってたんだ」と神様代理はしょげる。
「メイビスを生き返らせるというなら『聖女』認定しないでいただけます?」
「勘弁してよ。
聖女の基準に入っていたら、祝福するように神から言われてるんだよ」
「それなら弟を助けた後に『回復』を使わないようにすればいいのでは?」
「うーん。そうなると怪我人や病人の寿命が変わってしまう」
「制約が多いわね?」
「僕は時間の神じゃないから、定命があまりに変わりすぎるのは困るな」
「でもそのまま繰り返すだけじゃ意味がないわね」
うつむいていたメイビスはまたハラハラと涙がこぼれているようだ。
(もういいんです。このまま消えたい・・・)
猫のグレールが慌てる。
「ちょっとメイビス消えないで!」
どうやら絶望するとメイビスは透明になって消えてしまうようだ。
真っ白い空間をしばらく眺めてメイビスが戻ってこないことを確認する。
「もうずっとあんな調子なんだ」グレールがため息をつく。
重苦しい空気は会議のときもよくある。
何か、何か方法ないかしら?
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