1.白い部屋
登場人物はなるべく少なめにしております。
名前が出てこない人もおります。
私はクレリア国の聖女メイビス・レモネードだった。
蜂蜜色のさらさらな髪と空色の瞳が自慢だ。
今私は真っ白い部屋にいてふわふわと浮いている。
よくわからないけどきっと私は死んだのだろう。
<生きていたころの重荷は全て無くなったのね>
心が軽い。
◇
過去を思い出してみる。
子供のころ弟が怪我をした折に、祈りによって聖なる力『回復』が現れる。
それからは調子に乗ってあちこち怪我人を治しまくる。
15才で『スキルの儀』にて『聖女』が顕現。
神殿に拉致されて聖魔法を倒れるまで使うように強要され酷使されることとなる。
あまりにひどいので伯爵家の父に訴えてみたが逆に叱咤される。
未来の王太子との婚約。
貴族として結婚は義務である。
それなりにまともであれば私も異を唱えなかったのであるが、この王子おかしい。
どうかんがえてもおつむが足りない。
その足りなさを埋めるようにと課題がどんどん増やされていく。
諸国の外国語どころか、外交がこなせるほど徹底的にやらされた。
そして王子と一緒に歓迎パーティで失態があると私だけが怒られた。
「王子の失態はすべて婚約者の失態です。あなたがきちんと助けるのが仕事です」
そんなことあるわけないと反論すれば、躾という鞭が飛ぶ。
しょせんは伯爵の娘。
私からは感情が消えてゆき失敗しないようにと全エネルギーを使うことになった。
さらに学園卒業時は王太子にすでに恋人がおり、婚約破棄された。
食欲もなくなり神殿で祈ることは「助けてください」ばかりとなっていく。
本来はこの国の作物や人々の事を祈るはずであるが、そんな余裕はなかった。
やがて神聖魔法がだんだん使えなくなっていった。
何度も神殿や王宮で倒れてるうちに「役立たず」扱いになっていく。
そしてついに祈りの最中に倒れたのだった。
◇
眩しい。
真っ白い部屋に白くて丸いテーブル。傍らにはミントグリーンのソファー。
その白いテーブルの上にいる灰色の猫に話かけられた。
「やあ、メイビス。久しいね」
(誰だろう)小首をかしげる。
「あれれ?忘れちゃったのか。
僕はいちおう君に『聖女』の職業を授けた神様代理だよ」
(神様みたいなもの?それって偉い人なのでは)
「えらくはないかな?神様にこき使われてるだけだしね」
なんだろう。体がふわふわしてる。
体のあちこちに鉛が詰まったような重量感は消え失せてとてもさわやかだ。
「僕が君に『聖女』を授けたせいで辛い経験をさせてしまった」
(とんでもありません。私皆を癒すのは嫌ではありませんでした)
「そういってもらえると助かる。
お詫びとしてもう一度時間を戻すからね。今度は自分の幸せを優先して生きてほしい」
(自分の幸せ?そんなものあったかしら?)
(そもそも幸せって何だったかしら?)
(また繰り返す?いやよ。絶対嫌。どうかこのまま終わりにしてください)
「うーん。困ったなぁ。それじゃあしばらくここにいようか」
(ここに?こんなふわふわして気持ちいい世界に?
なんて素敵。ここでこうやって浮かんでいたい)
そうしていうちに瞼が重くなり、ゆっくりと意識が遠のいていく。
(しあわせってなにかしら?このふわふわしてる気持ちかしら?
確かに今の状態なら幸せって表現してもいいのかもね)
◇
白い部屋の主は眠ったメイビスをそっとソファーに降ろした。
あの怠惰王国に『聖女』ばかりが生まれるなんておかしい。
「クレリア国」に『聖女』の条件を持つ子がいたからつい祝福してしまったよ。
まさかメイビス一人に浄化・回復全てを押し付けるとはね。
神の仕事を手伝う『聖女』を痛めつけるとか不敬がすぎるんだよ。
メイビスがこの世界から消えたら神に怒られてしまう。
以前この世界を手伝ってくれた異世界のあの子に頼んでみるかな。
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