戦史研究家が書く「なろう作家の為の軍事知識・中世風」
この小説では、軍事において、なろう作家の皆さんが作品に使いやすいポイントを抑えつつ、リアリティを出すための説明と解説を書いていきます。
Q、先進的な武器ってどれくらい重要?
A、そこそこ重要ですが、古い武器しかないなら一方的に負けてしまうわけではありません。
先進的な武器を装備する部隊は、古い武器しかない部隊に対して一人当たりの『火力』が高いです。
つまり平地で同条件で戦えば、先進的な武器を持つ部隊が勝利します。
しかし一人当たりの火力で負けていても、部隊の火力で優ることはできます。
例えばズールー戦争におけるイサンドルワナの戦いでは、より先進的な銃を装備するイギリス軍を、槍と棍棒で装備するズールー戦士が勝利しています。この戦いには英軍1300人、ズールー軍2万人が参加し、ズールー軍の「猛牛の角」と呼ばれる包囲戦術によって敗北しました。これはズールー軍の部隊としての槍と棍棒の火力が近代兵器の火力に対して優ったことと、ズールー軍は更に火力を高めるために包囲機動を採ったことが勝因です
つまり、武器の差は指揮官の采配で覆すことができるというわけです。戦いは数というより火力の差ですね。
Q、包囲ってどういう状態?
A、敵の側面を攻撃できる状態と、敵の補給路や退路を塞ぐ場合があります。
ひとつ目をまず解説します。部隊には、最も高い火力を発揮できる『正面』があります。槍を持った部隊ですと、横に広く展開して正面の火力を高めますね。しかしその槍部隊の側面に注目してください。正面に対してひどく脆弱で少ない火力しか発揮できないことが見て取れると思います。つまり、ここを攻撃出来たら相手に対して火力で大きく優ることになります。片翼包囲とは部隊の一側面を攻撃する状態で、両翼包囲とは部隊の両側面を攻撃する状態となります。どちらにせよ側面から一挙に崩して勝利します。こうなると士気が低い部隊は我先に兵士が逃亡する為崩壊しますし、精強な部隊でも長くは持ちません。例えばポエニ戦争におけるカンエナの戦いでは、愛国心に燃え、最高の士気と練度を発揮するローマ軍7万人は寡兵も含むカルタゴ軍5万人に対して両翼包囲を受け、全滅します。戦闘においてどの指揮官も包囲(側面攻撃)のチャンスを常に伺ってきました。
ふたつ目は、敵の補給路や退路を塞ぐ場合です。敵の城塞や、あるいは単に野営地でも、軍隊はいるだけで大量の物資を消費します。人や馬の食料は勿論、武器の予備や補充の矢など、古代から大軍にはそれを支えるだけの補給が必須でした。特に近代においては大量の弾薬と燃料を輸送できなくてはなりません。この補給線を断つとどうなるでしょう。軍隊は長く戦えませんし飢えると士気が崩壊します。しかし補給線を断つには基本的に取り囲む必要があるため(完全に丸く囲む必要はなく、主要な補給道を封鎖し、それを維持するだけでも機能します)、囲まれた部隊より多くの人員が必要になります。あまりに少ない人数で包囲すると、囲まれた部隊が一丸となって突撃してきた時、火力が不足して突破されます。囲む側は陣地を作ることもできるので、多少の差はカバーできますが、それでもより多くの人員が必要である点は否めません。また囲まれる側は基本的に円形に防御陣地を構築しようとする為、全方位が正面になります。ひとつめの包囲の意味である側面攻撃は例外はあれど基本的に期待できません(戦線正面が伸びて火力が薄くなることは期待できます)。まとめると、二つ目の包囲の意味はだいたい兵糧攻めと同じです。囲まれてる感は敵の士気に大きな影響を与えますし、なにより逃げられません。
Q、ぶっちゃけ指揮官の強さってどれくらい戦いに影響する?
A、大きく影響します
これは軍事がなろう系で使える良い理由なのですが、指揮官の強さは相対する部隊の差を超越して勝敗に影響します。包囲や挟撃など火力を高めるための機動は優秀な指揮官どうしの緻密な連携によって実現できるのですが、無能な指揮官にはこのような連携ができません。包囲の発想がない場合は論外ですが、包囲の意思はあっても連携できず単独で突出して側面を攻撃されることや、味方の包囲機動に気づかなかったり置いていかれる等、連携面で問題がよく発生します。
特に無能な指揮官は後述の情報不足に陥りやすく、それゆえ進軍速度が遅くなり重要な局面で遊兵と化したり、敵の火力の焦点に飛び込んだり、大軍を保有していても一挙に分断、包囲されて負けてしまうことは大いにあります。つまり優秀な指揮官は部隊の火力を最大限発揮できるように采配し、無能な指揮官は大部隊を抱えてもその火力を最大限発揮できません。
Q、騎兵ってどんなことする兵科?
A、敵を包囲したり追撃するのが役目です
騎兵は古代よりその機動力を生かして敵歩兵隊後方に進出してその背後から攻撃して包囲殲滅することが役目でした。つまり歩兵隊どうしが押し合っている隙に背後から切りかかるのです。しかし馬のとがったものを避ける特性により、槍兵に対して弱いという弱点を持ちます。例として、ローマ内戦のファルサルスの戦いでは、カエサル軍とポンペイウス軍が戦いましたが、カエサル軍後方にポンペイウス軍の騎兵が進出した際に、隠れて待ち構えていた重装歩兵ファランクスにポンペイウス軍の騎兵は撃破され、この戦いの勝敗も決しました。
基本的な運用は、歩兵隊の両翼に展開し、開戦と同時に敵後方に進出し包囲を狙います、敵も同じように騎兵を展開していたら騎兵どうしの戦いを制した後に敵を包囲します。また潰走した敵を地の果てまで追撃して殺戮し、敵の再集結と再編成を防ぎ、戦果を拡張する役目も持っていました。高い機動力で歩兵に対して優位を保っていたため、長い間戦場の華は騎兵が務めていました。その後敵部隊に突撃して破壊するための重騎兵と、偵察や追撃して戦果拡張が主任務の軽騎兵に分派し発展しました。その後ルネサンスやナポレオン時代までに騎兵に対抗するための陣形が出現した為優勢は揺らぎ、最後に機関銃の登場により完全に戦場から駆逐されました。第二次世界大戦終結までその機動力を買われて騎兵隊は存続し続けました。
Q、空飛ぶ魔物って軍事的にどうなの?
A、超強いドローン的な感じ
空飛ぶ魔物は低空しか飛べなかったとしても、垂直包囲(垂直方向からの側面攻撃)が可能になるため強力な戦力となるのは間違いなしです。そして騎兵のような扱いをされるのではないでしょうか?つまり敵味方の空飛ぶ魔物どうしがまず戦って、勝った方が制空権を得て敵部隊に垂直包囲を仕掛けるのような形が基本形となるでしょう。地上部隊は当然抵抗するために槍や弓で攻撃して盾で防御しようとしますので、タタール騎兵のように空飛ぶ魔物は遠くから何かしらの遠距離武器で攻撃するのも良いかもしれません。また騎兵と同じように潰走する敵部隊を追撃するのも役目に含まれるでしょう。戦いから命からがら逃げても、空から追いかけてくる無数の魔物だなんて恐ろしいですね。また空高くから偵察する役目も与えられるに違いありません。空飛ぶ魔物を保有する軍隊は敵より早く敵情を察知し、情報戦で有利に戦えるでしょう。また負傷者や少量でも物資の迅速な輸送ができる点も空飛ぶ魔物の有利な点です。戦って負傷しても味方の空飛ぶ魔物に助けてもらえるなら、士気が上がること間違いなしです。
Q、でかいゴーレムとかゴブリンって軍事的にどうなの?
A、賢くなった戦象に近い印象
古代から象が住む地域では象使いが象を飼いならして戦場で戦象として戦わせました。しかし戦象はいくつかの弱点があった為にすたれてしまいました。その弱点は、象使いが戦死するとコントロールできなくなる。傷を負った為に暴れることがある。暴れると主に自軍が大損害を受ける点。突撃は直線しかできず、効果的に扱うのが難しい。超・超・超大飯喰らい。などなど、現実においてはピーキーな性能を持ち、そのあまりのあつかいづらさによって廃れてしまいました。しかしでかいゴーレムとかゴブリンは単独で完結した兵器のようですから、戦象の持つ弱点の多くは克服することができます。大飯喰らいな点は回避できなさそうですが、自らの知性で以て一般兵士と同じように戦闘することができるはずです。当然体が大きいぶん筋力も強く、より強力な鎧を着用することができ、したがって大型な武器も装備できるので、戦象のような突撃する用法以外にも様々な活用法が期待できます。というより人間より強力な筋力を持つ存在というだけで様々な活用法が見いだせますが、やはり食料的な運用コストが足を引っ張りますのでそのコストを負ってでも活用したい方法に限定されます。より強力で重い砲弾を扱う砲兵や土木作業にめちゃくちゃ強い工兵等が現実的かもしれませんが、おそらく高度に訓練されて複数の兵科を掛け持ちさせられるのが現実的ではないでしょうか。また体が大きいなら寿命も長いことが予想できるため、長く戦い続けた老練兵は参謀も兼ねて戦うこともあるかもしれません。
Q、火を吐くドラゴンって軍事的にどうなの
A、火炎放射戦車飛行機
ドラゴンは皮膚が固く空を飛び、火を吐いて人を攻撃するという伝承に基いた設定で解説しようと思います(ドラゴンの設定は作品によってまちまちなので自分の好みに変更して構いません)。まず火を吐くことがかなり強力です。火炎放射器と違って燃える燃料を飛ばすわけではないのですが、当たると大やけどしますし、燃える際に周りの酸素を使って燃える為、直撃しなくても酸欠で疲労困憊になります。そしてなにより火を吐く龍は恐ろしいです。出現と同時に脆弱な軍隊は士気崩壊で潰走っていうシナリオは多分ありがちな話でしょう。そして固い皮膚は遠距離からの矢の攻撃をはじくことが伝承に伝わっています。しかも大きな体格を持つため多少の貫通は事後の治療で対処できるはずです。
運用としては空を飛びながら士気崩壊するまで一方的に敵の頭上に炎を吐き続けるという方法が安定して強力であると考えられます。指輪物語のナズグルの怪鳥が近い運用なのかもしれません。
こんな強いドラゴンですが、おそらくとんでもなく維持コストが高いという問題を抱えています。火を吐くような高エネルギー運動をするためには尋常ならざる量のごはんが必要になることは間違いないです。
また、バリスタのような古代の強力な装置の攻撃を皮膚は防げるでしょうか?ドラゴンスレイヤーの伝説では鎧通しを突き立てて心臓を突いていますから当然バリスタは貫通することになります。ですから戦場の後方に対空バリスタが控えている場合、それを何らかの方法で排除しないと超高コストなユニットを撃破のリスクに晒してしまうことになります。まとめると、高コストですがゲームチェンジャー級の強力なユニットであることが想像できます。
・軍事的な、あったらいいな こんな能力
『川を渡れる能力』
人間は基本川を渡れない為、川にかかる橋は軍事的に重要な争奪点になります。また戦場の近くに川があると相手の側面を取る動きが制限されてしまいます。
ですから防衛側は橋を破壊しますし、側面を晒さない為に川に寄って戦うこともあります。攻撃側は壊された橋を架けなおすための工兵隊を用意しますし、現代では水陸両用の装甲車や架橋戦車を使って克服しようとします。また橋は狭いため、縦の列で進軍しますが、橋を渡ってる途中や直後は火力を発揮しづらく、絶好の攻撃チャンスになります。こんなリスクを排除できる能力はめっちゃ強力です。水系の能力者は工兵隊に引っ張りだこ間違いなしです。
『偵察が自由にできる能力』
基本的に戦いでは、指揮官は遠く離れた相手の位置や何してるかが全くわかりません。それどころか相手の規模すらわからないのです。戦いの負けの原因は情報不足で負けることが大半で、相手の隠蔽された部隊の位置がわからなくて奇襲を受けたり、自分より数が少ないと見込んでいたら実は大軍で攻撃に失敗したり、あるいは逆に予期せず大軍に攻撃されて防御を失敗するなど、情報不足が招いた敗北は数えきれません。
そこで偵察隊やスパイに相手の様子を調べさせるのです。偵察隊は相手の規模や居場所を素早く指揮官に報告します。ですが偵察隊は敵に近づくと反撃を受けますし隠蔽された相手には気づかないことがありますし最前線しかわかりません。スパイも重要な情報は厳重に防護されるため限界があります。そこで偵察機を使って空から偵察することになりますが、それも森などの物陰に隠蔽されてしまっては見えずまた制空権が必要など、限度があります。現状完璧に相手の様子を把握することは困難なのです。少なくとも相手の戦力とその位置がわかれば指揮官はより効率的に戦えるのですが、以上の理由により困難なのが現状なのです。
ここで水晶玉で相手の様子を一覧に見れる能力者が現れたとしましょう。指揮官は毎度毎度相手の裏をかいて側面を攻撃し、重要拠点は先に入手し、大胆な攻撃をノーリスクで行えるようになります。多少の規模の差なら無視して勝利を重ねられるでしょう。
さらに現代の広い戦線での戦いならば、戦略的にどこに相手が重点を置いているかがわかることはそのまま戦争の勝利につながります。なぜなら基本的に情報の入手ができない後方まで見通すことができるからです。つまり敵部隊が集中して攻撃準備をしていれば攻勢を予期して防御陣地と物資を用意して、逆に手薄な部分に部隊と物資を集中して大規模に突破する等を完ぺきにこなせるわけです(近代戦ではこのような戦略的な部分でミスをして負けることがメジャーです。当然相手が隠蔽した物資や部隊を見つけることはできないのでしょうがないのですが)。
余談ですが現代において衛星や偵察機は相手の戦略的な情報に対して限定的ながらアクセスできる数少ない方法のひとつです。戦略的な情報を制したものが勝利することは前述の通りですが、この空からの情報を支える制空権が戦争に大きく影響することは近代において重要な要素のひとつです。
fin...